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変な話『100%平和主義世界』          

 世界中を巻き込んだ第三次世界大戦は、地球の人口の約半数が犠牲となる悲劇となった。
 人々は愛する人を亡くし、住む家も街も…国さえも失った。

 悲劇のどん底を身を以て知った人類は、今までの生き方や考え方、社会構造を悔い改め、全ての争いごとから手を引き、争いの後に待つ悲劇を回避する術を学んだ。
 争い事の先には、勝ち負けなど無い。人類には、強者も弱者もいない。困る人あれば、手を差し伸べ、施しを受ければ多くは望まない。思いやりこそが、争いを生まない最良の方法だと気が付いたのだ。

 そう、人類は皆、平和主義者となったのだ。


 今の世の中では、争い事など起こらなかった。争いが起きそうになれば、笑顔を見せてゆるりとその場を離れる。我を通そうと思えば反論が生まれるので多数決に従った。自らが信じたいものを信じ、他人には強制しなかった。

 自分が多少傷付いても相手を許した。お金に恵まれた人間は、恵まれない人々に分け与えた。助けられた人は助けてくれた人に感謝を伝え、感謝された人は驕らず「代わりに、他に困っている人を助けてあげてください」と伝えた。

 こうして慈愛の心が世界に溢れるようになった。

 テレビや新聞でも心痛めるニュースは無くなった。悲惨な事件どころか慈愛に溢れた世界では、万引きすら無かったのだ。

 報道機関は以前のあり方とは変わり、困っている人たちを紹介する機関となり、解決の術を持つ人々がそれを見て、困った人を助けるようになったのだ。

 スポーツのあり方も変わった。
 スポーツは全て、競技者達によって平和的話し合いで解決をした。その結果、どのスポーツにおいても話し合いの末、延長戦にもつれ込み、全て引き分けとなった。

 第三次世界大戦後のこの世界では、勝者は存在しない。敗者も存在しない。愛するモノを失うぐらいならば、多少の傷は笑って済ませ、傲り高ぶらず、謙虚に、思いやりを持って、そして目の前の人や事象を唯ひたすらに愛するのだった。


これが“変な話”とならない事を願う。

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