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新しい研ぎ直しシステム論「包丁研ぎ直し1,000円」は高いのか?

こんにちは。
MUJUN WORKSHOPの鍛冶師 藤田純平です。

今回は刃物の研ぎ直しという概念を見直してみようと思います。
題して新しい研ぎ直しシステム論「包丁研ぎ直し1,000円」は高いのか?

1,鍛冶師の見解

このような質問を受けて、ぱっと答えが出る人はおそらく少ないでしょう。
なぜなら、包丁研ぎ直しを業者に頼んだ事が無い人がほとんどだから。

それでは、鍛冶師としての意見を率直に申し上げます。
「包丁研ぎ直し1,000円」は「高い」です。

はい。「高い」です。

こういうと、職人自らが単価を下げるな!
と怒られそうなのですが、
黙って最後まで読んでみてください。

最後には具体的な数字も出してご提案がありますので。

2,なぜ高い?なぜそう言い切れる?

鍛冶仲間と話をしていて度々話題になるのが、刃物メンテナンスの料金設定の難しさがあります。

どんなものが来るかわからないから安くしすぎると採算が合わないし、だからと言って高くしすぎると新しいものを買う方がよくなってしまう。

このようなジレンマが刃物メンテナンスには付き物です。
そしてその結果、高くないけど安くもない「中途半端」な値段設定になっています。

この中途半端さは新たな問題も引き起こしています。

職人側にも依頼者側にもこれといってメリットが無いのです。

利益に繋がらない仕事と、頻繁には頼みにくい出費。

結果、切れ味が劣っていても我慢して数ヶ月使われてしまっている刃物達。

何かがおかしい。
おかしいのです。

なのに誰もこの問題に着手していない。
というより、解決出来ずにいるのでしょう。

今回「包丁研ぎ直し1,000円」を題材にしたのには理由があります。

一般的に1番身近な刃物が包丁だからです。

ではなぜ鍛冶師から見て「包丁研ぎ直し1,000円」は高いのか?

これを説明するにはまず『研ぎ直し』の現実をお伝えしない事には始まりません。

3,現在の研ぎ直し

「研ぎ直し」として鍛冶屋の元へ届く刃物は様々な状態のものがあります。

・刃の欠けてしまったもの
・古くてサビの酷いもの
・自己流で研いでき切れくなってしまったもの
・少し切れ味の劣ったもの

ここでは書ききれない程、本当に様々な状態のものが届きます。

しかし、ほとんどの鍛冶屋が掲げている研ぎ直しの料金はこうです。

包丁 研ぎ直し 1,000円〜
剪定鋏 研ぎ直し 1,500円〜
裁ち鋏 研ぎ直し 1,800円〜

このように「〇〇円〜」という表示になっているのが一般的です。

それもそうでしょう。
一定額にするととんでもない状態のものまで安い値段で作業する事になるからです。

しかし!このシステムが生み出すのは鍛冶屋の利益損得の均一化ではなく、依頼者の不安の方が大きいのではないでしょうか?

この「〇〇円」に含まれる最大値に見当がつかないのです。

こんなボロボロの状態の包丁だからプロに直して欲しいけど、どんな値段を請求されるかわからない。。

なんて声が届かないだけで埋もれているのは紛れもない事実でしょう。

それでは1番困っている人(プロを頼りたい人)に不親切ではないでしょうか?

ここで私は考えました。

『研ぎ直し』を再定義しよう。

そして料金システムの根本を見直そう。

4,研ぎ直しの頻度は?

まず考えていきたい事は「研ぎ直し」が必要な頻度です。

今回は包丁に着目して話を進めますね。

毎日包丁を使う方は少なくても毎月研ぎ直すくらいが丁度いい。
と言われています。
(あくまでも一般家庭の場合)

そこで現在の研ぎ直し料金にあてはめると

毎月1,000円の出費ですね。
年間では12,000円です!!

これってかなり高くないですか?

なかなか包丁のお手入れにこれだけ出せませんよね?

こうして切れなくなった包丁であなたは毎日料理をしているのです。

栄養分が無駄にまな板へ流れ、食感が悪くなったサラダを食べ、、。
もったいない。

本当にもったいないのです。

せっかくなら美味しい料理を作ってほしい!
スパッと切れて気持ちいい時間にしてほしい!
食卓でも「美味しいね!」って会話を弾ませてほしい!

それを実現させるには包丁の毎月のお手入れが必要なのです。

話が逸れてしまいましたが、今の料金システムだと負担が大きいのです。

でも値下げをしたら鍛冶屋が困るんでしょ?

そこで今までは止まっていました。

しかし、ここではその先の話をします。
この記事の核心に迫ります!!

5,研ぎ直しを再定義する

ここで1つ疑問を投げかけます。

『研ぎ直し』とはどんな作業でしょうか?

「え?切れない刃物を切れるようにする事でしょ?」

今まではそれで正解でした。
しかし、まさにこの正解が1番の問題点だったのです。

定義が指す範囲が広すぎるのです。

想像してみてください。

切れない刃物ってどんな刃物ですか?

・刃の欠けてしまったもの
・古くてサビの酷いもの
・自己流で研いで切れなくなってしまったもの
・少し切れ味の劣ったもの

あれ?これって冒頭にも出てきましたよね?

そう。現状鍛冶屋に刃物研ぎ直し依頼で届く刃物達と同じです。

なので、もう少し研ぎ直しの示す範囲を限定していきたいと思います。

そもそも、包丁は毎月の研ぎ直しが必要だ。
と触れましたよね?

では毎月研ぎ直しにかけられる値段っていくらくらいでしょうか?

せいぜい300円〜500円くらいでしょうか?
年間3,600円〜6000円。

では1回の研ぎ直しを300円〜500円で鍛冶屋は請け負えるのでしょうか?

答えはYes 出来る』です!

え!?!?出来るの!?!?
じゃあ答えは簡単じゃん!?

「値下げ!!」

と言いたい所なのですが、その前に。
しっかりと「研ぎ直し」を再定義していきたいのです。

すばり!

新しい研ぎ直しの定義とは、
『劣った切れ味を元に戻す作業』
である。

正直な話、1ヶ月使った包丁を研ぎ直すのは容易な事なのです。
理由は、状態が良いから。

切れ味が劣るのは刃先の摩耗によるものが普通ですが、それくらいのものは数分で研ぎ直す事ができます。

結果安い値段でも割りに合う仕事になるというわけです。

では、この新しい定義に当てはまらないものはどうしたらいいのでしょうか?

それらは鍛冶師としての意見を言わせていただくと「研ぎ直し」ではなく「作り直し」という考え方になります。

6,作り直しはややこしい

新しい研ぎ直しの定義を
「劣った切れ味を元に戻す事」
としましたが、

それ以外の状態の刃物
・刃の欠けてしまったもの
・古くてサビの酷いもの
・自己流で研いできれなくなってしまったもの
はどう考えればいいのでしょうか?

私はこれらの刃物をメンテナンスする時「作り直し」という言い方をします。

刃先だけではなく全体を改めて作り直すという作業になるからです。

これまでの経験で作業にかかる時間を見てみると、
刃の欠けた包丁→30分
サビのある包丁→30分
程かかります。

そして基本的にはこの2つは併用されている事がほとんどです。

結果、包丁1丁にかかる時間→1時間。

これはザックリとした計算ですが、これより早く終わる事は少ないでしょう。

おわかりいただけたかと思いますが、

毎月の研ぎ直しにかかる時間(数分)と
それ以外の作り直しにかかる時間(1時間程)の差が
極端に離れています。

そしてこれこそが問題の解決の糸口になります!

つまり、
『研ぎ直し』と『作り直し』の違いを鍛冶屋から発信し、
それぞれの料金システムを再構築する必要がある。

と私は考えます。

7,新しい刃物メンテナンスシステム案

それでは最後に私の提案する新しい刃物メンテナンスシステムをまとめていきます。

『包丁研ぎ直し(作業時間:数分)』の範囲内におさまるメンテナンス
→500円/1回

『毎月の包丁研ぎ 年間パスポート』
→3,600円/1年 (月1回×12回分)
※毎月メンテナンスしていることで鍛冶屋目線でも作業が楽。

『作り直し』(一例)
欠け3mm未満,サビ無し→1,500円
欠け5mm未満,サビ有り→3,000円
※状態を見て変動あり。

例えばこのようにする事で、毎月のお手入れとして研ぎ直しを依頼したい方から、作り直してでも使えるようにしたい方まで、明確になりませんか?

作業をする鍛冶屋はもちろん、依頼される方の不安も減るのではないでしょうか?

しかし、まだこれは私の発想に過ぎず、実現されるかはわかりません。

そこで、最後まで読んでいただいたあなたのご意見を伺いたいのです。

コメントにて、
「賛成or反対」
をお聞かせください。

またご意見などがあればお気軽にコメントください。

鍛冶師が提案する、新しい研ぎ直しシステム論 でした。


今後の活動資金にさせていただきます。