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「中庸」の視点で信頼感を考える

年末年始は、各種メディアで2021年の振り返りと2022年の展望に関する記事が取り上げられていました。日経新聞でも多くの記事がありましたが、その中から2つほど選んで今日のテーマにしてみます。

12月25日の日経新聞では、「1人当たりGDP、日本はOECD38カ国中19位」というタイトルの記事が掲載されました。この記事内容が、日本経済の置かれている現状、そして昨年の振り返りの象徴となる内容ではないかと、感じた次第です。以下、一部抜粋です。

~~内閣府が24日発表した2020年度の国民経済計算年次推計によると、国別の豊かさの目安となる1人当たり名目GDPは20年(暦年)で4万48ドル(約428万円)となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中19位だった。

日本経済研究センターの予測では日本の1人当たり名目GDPは27年に韓国、28年に台湾を下回る。高齢者人口の増加に加え、デジタル化の遅れに起因する労働生産性の伸びの弱さが主因だ。

20年度の実質GDPは4.5%減と、リーマン・ショックがあった08年度(3.6%減)を上回る落ち込みとなった。新型コロナウイルスの感染拡大で個人消費、設備投資、輸出がいずれも落ち込んだ。名目GDPは3.9%減だった。

特別定額給付金の支給などで家計貯蓄率は13.1%と19年度(3.7%)から大きく上昇した。労働分配率は75.5%と旧基準の統計が始まった1955年度以降で最も高かった。~~

韓国、台湾と逆転すれば、日本がOECD加盟国で下位半分の国に転落することになります。かつては1人当たりGDPで世界1位をも目指す勢いとされた時代がありましたが、その後大きく国際競争力を落としていることがうかがえます。

上記からはざっくり、売上から仕入れ原価を引いた売上総利益(粗利益)のうち75.5%を人件費に充てていることになります。労働分配率は業界によっても異なりますが、50%台が中心どころとも言われていた中で、75.5%はたいへん高い数値です。「賃金が労働者に分配されていない」という主張が時々なされますが、実は企業全体としてはもう人件費に充てる余裕などない状況に来ているわけです(直近のコロナ禍の影響もありますが)。

1月1日の日経新聞では、「成長・満足度、両輪で活力 閉塞感打破、北欧にヒント」というタイトルの記事がありました。世界的な調査機関による各種調査結果から編集された指数データ(経済成長率、所得格差、治安など)が紹介されています。総合評価ともいうべき「幸福度」では、先進国平均6.80に対して日本は6.12。米国7.03、ドイツ7.31、フィンランド7.89などと比べて低くなっています。

同記事によると、日本が先進国平均より高い(良好な)項目が4つ、低い(良好でない)項目は9つです。

・先進国平均より高い:社会の腐敗度、健康寿命、治安、失業率
・先進国平均より低い:経済成長率、賃金の伸び、労働生産性、所得格差、貧困世帯の割合、教育への投資、男女の平等、他者への信頼度、幸福度

中でも、他国との差異としては「他者への信頼度」が際立っているように見えます。先進国平均は214.1、最も高いスウェーデンの522.2を筆頭に米国、ドイツなど記事中で取り上げられている7か国はすべて150以上ですが、日本は-62.0となっています。データの詳しい算出方法までは把握しておらず、この結果の活用方法と幸福度指数との因果関係もわかりませんが、他者に対する信頼感のなさが幸福感を下押ししているのではないかと推察されます。

以前に比べると悪化していると言われることもある日本の治安ですが、同記事を参照するとまだ先進諸国に比べて優位性があるようです。それでいて、他者への信頼度が低いことが目にとまります。

同記事で紹介されている国では、概ね「治安と他者への信頼度が連れ高(あるいは連れ低)になる」一定の相関関係のように見受けられます。この2つは相性がよさそうに考えられる(治安がよければ他者に対する信頼度も安定する)のが自然です。よって、日本の動きはその法則に合っておらず、ある意味特徴的に見えます。

例えば、総務省「平成30年版情報通信白書」でも、同様のことが見てとれます。同調査中の「オフラインやオンラインで知り合う人の信頼度 国際比較」では次の結果が示されています。日本で知り合う人が他国で知り合う人に比べて、倍近く信頼できない人であふれていれば、下記は実態を映した結果だと言えますが、おそらくそうではないでしょう。だとすると、日本では他国以上に、他人を信頼しない傾向にありそうということが見てとれます。

Q:「SNSで知り合う人達のほとんどは信頼できる」
A:「あまりそう思わない」+「そう思わない」が日本87.1%、アメリカ35.6%、ドイツ53.1%、イギリス31.7%

Q:「オフラインで知り合う人のほとんどの人は信頼できる」
A:「あまりそう思わない」+「そう思わない」が日本66.3%、アメリカ36.3%、ドイツ32.0%、イギリス29.6%

こうした結果を生み出している要因は単純ではないと思いますので、何の検証もなく要因を仮説立てるのは乱暴です。そのうえで、(かなりの独断と偏見ですが)ひとつ論点を挙げてみると、日本では「完ぺきを求めすぎていないか」ということです。

私自身が普段いろいろな企業を見聞きする中で当てはまる事象でもあり、年末年始の日経新聞記事でも掲載されていた内容でもあることに、例えば以下のようなことが挙げられます。

・テレワークではメンバーが本当に仕事をしているのかどうかわからない。なので、全面的な導入はしにくい。

・日本市場では安全が完全に確保されたと言える状態にならない限り、新しい商品・サービスは本格投入できない。他国が多少不完全な状態でも新商品・サービスを投入しながら市場を大きくして標準インフラとなっていく中で、どうしても二番煎じになる。

・一度出世レースから脱落すると、元に戻ることがない。転職市場でも、失敗というプロフィールがついた人材は評価されにくい。

人も商品・サービスも「絶対」というものは、もともとないはずです。一度の機会やひとつの事象だけをもってして「○○はOK」「△△はNG」など結論付けるのは、物事の可能性を大きく狭めてしまいます。

テレワークで仕事が進んでいなかったり長時間チャットに興じていたりするのを1度目撃したことをもって、「あの人のテレワークはけしからん」などと結論付けるのは、本質的ではないでしょう。そもそもそういうことはオフィス勤務でも起きますし、他愛のないチャットから新しいアイデアが出てくることもあります。

一長一短ある中で、トータルとしてその取り組みを良しとするべきか、どういう役回りだとその人がより活躍できそうかなどを、考えるべきだと思います。

前回の投稿で「中庸」(行き過ぎも不足もなくほどよいこと。すなわち右にも左にも偏らず中道であること)の大切さを取り上げました。その考え方が上記のことに通じるのではないでしょうか。

一度の失敗や手痛い損失をもってして、「あの人は信頼できない」「政治は信頼できない」「会社は信頼できない」と必要以上に信頼感を下げてしまっていることで、非効率となって生産性や幸福度を下げてしまっているかもしれません。

信頼感は、相手に対するいわば自分の勝手な期待値です。「たまには外すこともある」という前提で相手を見ること、そして大切なのは外した時に「なぜ外したのか」「次はどうすれば外さないか」「そのために何ができるか」を建設的に振り返って次に生かすことだと思います。

社会全体の信頼感をいち個人でいきなり変えることはできませんが、身近なチームや会社組織から「中庸」の視点で変えていってもいいのではないかと感じた次第です。

<まとめ>
相手に対する期待で、完ぺきを求めすぎない。


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