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給与引き上げによる定着率向上

先日、経営者様が集まり情報交換・意見交換するフォーラムに参加しました。同フォーラムでは、有意義なお話をいろいろとお聞きすることができました。その中で、ある社長からは「社員の頑張りがよくなって、定着率が上がった」というお話がありました。

同社長(卸売業等を事業とする会社)に、どういう要因で社員の定着率が上がったのかを尋ねてみました。
同社様の場合、大きくは2つだろうということです。

ひとつは、若手社員をターゲットに給与水準を引き上げたことだそうです。引き上げにあたっては、基本給よりも、賞与の水準を上げることを行ったのだそうです。

エン・ジャパン調べによる「転職理由の本音と建て前ランキング」によると、トップ3は次の通りです。

建前
1位:仕事の領域を広げたい
2位:専門スキルや知識を発揮したい
3位:会社の将来に不安を感じる

本音
1位:報酬をあげたい
2位:上司と合わない、職場の人間関係が合わない、評価に納得できない
3位:会社の将来に不安を感じる

私たちは報酬だけにつられて仕事を選ぶわけではないですが、給与が「この仕事で最低限これぐらいは」という水準に達していないと、その仕事を選ぶことが難しいわけです。上記調べはその一端を表しているでしょう。同社長は、外部相場とも比較し、自社の給与水準には改善の余地があるということを結論付け、このことに手を打ったということです。

その打ち手の根拠としては、同社内にて「5年続いた社員はあまり辞めない」というデータが得られていたというお話です。言い換えると、「5年持ちこたえてもらえれば、勤続を訴求するだけの魅力は自社にあるはず」という仮説です。このことから同社様の場合、(直接的な表現をすれば)新たな人件費という投資は、ベテラン勢ではなく若手に対して優先的に充てたほうがよいという判断です。そして、賞与の支給で、従来の水準に対し定額をプラスすることにしたそうです。

若手の基本給を上げると、ベテラン勢の基本給のバランスをも考慮する必要が出てきます。若手だけ引き上げてベテラン勢を据え置きにするのは、両者の逆転なども起こり得るため難しいからです。固定費としての人件費全体を上げる施策を強行すると、経営リスクは高まります。他方、経営リスクを抑えた範囲の基本給昇給幅にとどまるならば、若手にとって響かず効果の小さい投資になってしまうかもしれません。

賞与であれば、今後経営状況が変われば支給水準の再見直しもしやすく、人件費の中でも変動費として見ることができます。加えて、若手にインパクトをもたらすことができます。例えば、これまで賞与を30万円もらっていた人が5万円プラスされるのと、100万円もらっていた人が5万円プラスされるのとでは、インパクトが違います。新たな人件費の原資を、社員に対し等分に配分しているようで若手社員に対する効果が期待できる、的を射た投資だと言えます。

もうひとつは、コミュニケーションの強化です。コミュニケーション強化といっても、特別な手法の導入やプロジェクトなどではありません。社員が提出してくる日報にこれまで以上に目を通して声掛けする、それだけのことのようです。しかし、このシンプルな取り組みで大きな効果を実感していると言います。

自分の存在や頑張り、成長、成果を認められたいという承認欲求は、誰もが持ち合わせているものです。その上で、今の若手世代はより承認欲求が強いのが特徴ということが、いろいろなところで言われていることからも、その傾向は一定程度あるのでしょう。同社様の場合、社員が普段取り組んでいることを知る、「フィードバック」などというレベル以前にそれを話題にするということ自体が不足していたという振り返りから、「日報を見てそこにある内容について話す」という行動を徹底したというわけです。

上記の2つの要因いずれも、大掛かりなシステムの導入ではありません。ちょっとした取り組みとしてできる工夫です。自社の現状を的確に把握し、現状改善につながるような身の丈に合ったできる工夫を行い、得たい効果を得るという、マネジメントにおいての参考になる事例だと思います。

なお、同社長は、各社が採用を手控えている今の環境こそチャンスだとして、新卒採用に注力しているそうです。例年必要な採用数がなかなか確保できていない中小企業にとっては、今は若手人材の調達の大きな機会と言えそうです。

<まとめ>
人件費の投資も、目的とターゲットを明確にする。


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