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動画を活用したコミュニケーション(2)

前回の投稿では、ある企業様での動画を活用したコミュニケーション施策をテーマにしました。閲覧のハードルが低く、多くの情報が効率よく伝わり、感情でつながりやすく、記憶に残りやすい、といった動画の効果・利点について考えました。今日もその続きです。
https://note.com/fujimotomasao/n/n4b731d71f18e

同企業様では、趣味や今はまっていることなど、何でもいいので一人につき2-3分程度など時間を決めてプレゼンする。そして、プレゼンした社員は次の社員を指名してバトンをつないでいく。このようなイメージの取り組みを始めようとしています。

しかし、ひとつの壁にぶつかっていると聞きました。
その壁とは、「上位役職者が自身の動画をとろうとしないこと」です。
確かに、その状態のままでは、同取り組みの成功は難しいかもしれません。

組織変革を目指す取り組みや新たなプロジェクトを組織中に浸透させようとする場合に、全組織メンバーが当初から前向きに参加することはまずありません。組織の中には、2:6:2などと言われるように、積極的に協力する人、傍観する人、足を引っ張る人が必ずいるものです。ましてや、これから新たに取り組みを始めることに対してであれば、当初から積極的に協力する人は2割もいません。組織変革に強く共鳴する改革者の割合は、一般的な組織において1~2%などと言われたりします。

同企業様の取り組みは、組織変革と呼ぶような大掛かりなものではないにしても、コミュニケーション不足という組織風土を改善しようとするものです。ですので、組織変革の図式を重ね合わせて組織メンバーの動きを想定するのは、的外れではないでしょう。動画の取り組みに対して当初から大変意欲的なメンバーはせいぜい全体の1~2%程度と思っていてもよいかもしれません。

ここで大切になってくるのが、1~2%程度以外の「共鳴者」をどれだけ増やせるかです。一定数の共鳴者が出てきて新しい取り組みに協力的になれば、その他大勢の人たちが「自分たちもそれに参加しないと乗り遅れるのでは?」と焦りだし、共鳴者が共鳴者を呼ぶ連鎖反応が起こり、全体が一気に共鳴者の側に転び始めるからです(それでも、2:6:2の2のごとく、最後までなびかないメンバーも残るとは思いますが)。

では、どれだけの割合のメンバーを、新しい取り組みに前向きな共鳴者として巻き込むのを目指せばよいのでしょうか。2:6:2で言われる通り、変革が浸透するための臨界点や閾値は、全体の2割と言われたり、3割と言われたりします。私は個人的に、もう少し多めに見積もって全体の三分の一と言っています(個人的な経験則の観点ですが)。多めに見積もっているのは、組織風土が硬直しているような状態の場合、変革にはエネルギーが必要なためです。例えば、100人の企業でプロジェクト担当が3人だとすると、残り30人を共鳴者として引き込み、合計33人の形成を目指すイメージです。

ちなみに、このことをマーケティングにおいてよく使われる、ロジャースのイノベーション理論を使って考えてみたいと思います。ロジャースは消費者の商品購入に対する態度をもとに、新しい商品に対する購入の早い順から5つのタイプに分類しました。以下、ウィキペディアからの抜粋です。

~~イノベーター理論における5つのグループ
・イノベーター(革新者)
新しいものを進んで採用する革新的採用者のグループ。全体の2.5%。

・アーリーアダプター(初期採用者)
流行には敏感で、自ら情報収集を行い判断する初期少数採用者のグループ。「オピニオンリーダー」となって他のメンバーに大きな影響力を発揮することがある。全体の13.5%。

・アーリーマジョリティ(前期追随者)
「ブリッジピープル」とも呼ばれる。新しい様式の採用には比較的慎重な初期多数採用者のグループ。全体の34.0%。

・レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者)
「フォロワーズ」とも呼ばれる後期多数採用者のグループ。新しい様式の採用には懐疑的で、周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択をする。全体の34.0%。

ラガード(Laggards:遅滞者)
最も保守的な伝統主義者。中には、最後まで流行不採用を貫く者もいる。全体の16.0%。

ロジャースはイノベーターとアーリーアダプターの割合を足した16%のラインが、商品普及のポイントであることを指摘し、これを「普及率16%の論理」として提唱している。またこの「普及率16%の論理」に対してジェフリー・A・ムーアは、ハイテク産業の分析から、アーリーアダプターとアーリーマジョリティとの間には容易に超えられない大きな溝(Chasm:キャズム)があることを示している。 そのため、アーリーアダプターを捉えるだけでは不十分であり、アーリーマジョリティに対するマーケティングも必要だという「キャズム理論」を説いている。~~

上記を新しい組織内活動の普及に置き換えて考えると、ロジャースは16%を超えることが普及のポイントだと言い、ムーアは16%の人と16%以外の人との間には溝があると言う。よって、16%+一定数(多めに見積もって三分の一)を共鳴者に引き込むことを想定するとよい。このように考えられるのではないでしょうか。私なりにもこれまでいろいろな企業の取り組みを見てきて、取り組みの普及のためにこの数のラインは妥当で重要だと実感します。

全体の三分の一を共鳴者に育てようとした場合、重要になるのは「組織のリーダーとプロジェクト担当が指揮官先導でコア(核)メンバーになること」です。共鳴者の育成には、共鳴者の求心力となるコアメンバーがいて、そのコアメンバーが普及活動にコミットしていることが必要です。そのためには、コアメンバーが、新しく始める取り組みに対して意味のある・面白いことだと感じて「これをやることで組織がよくなる」と確信し、普及させることが自身の役割の一部だと思えていることが不可欠です。

冒頭の企業様の話に戻ります。
同社様では、上位役職者が自身の動画をとろうとしないわけです。つまりは、動画プロジェクトが意味のあるものと深くは思えておらず、コアメンバーどころか共鳴者にもなり得ていないと言えるかもしれません。これでは、プロジェクト担当がいくら頑張っても、取り組みの普及は難しいでしょう。

そもそも、冒頭のような話が出ているということは、社員のほうから自発的に発信するという習慣があまりできていない組織だということです。「(自分は動画撮りたくないけど)一般社員から始めといて」「最初にやりたい人に手を上げてもらおう」などでは、うまくいかないでしょう。こういう時こそ、上位役職者のほうから率先して自身の動画を発信して自己開示し、「みんなで自己開示しよう」とコアメンバーとして普及活動に努めることで、はじめて取り組みが進んでいくものと思います。

同社様には、いきなり全社展開ではなく、まず範囲を絞ってやってみるのもいいのではないかとアドバイスしました。テストマーケティングの視点です。例えば特定部署内でリーダーを筆頭に全員動画公開を行い、改善点があれば改善して、リーダーはじめ同部署メンバー全員が自信を持ってこれを広めたいと思える共鳴者になっていただいてから、全社展開するということです。部署限定であれば、リーダーも協力しやすいでしょう。

上記の考え方は、会社組織全般に当てはまるものだと思います。

<まとめ>
組織変革や組織風土を変える取り組みには、一定数の共鳴者育成が必要。

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