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買収先の総資産利益率

前回の投稿では、私も担当として一部登壇した「会社の方向付けとしてのM&A」セミナーでの気づきをもとに、M&Aをテーマにしました。
https://note.com/fujimotomasao/n/n079cf01c1468
今日も、その続きです。

総資産利益率(ROA)という指標があります。会社のすべての資産を利用してどれだけの利益を上げられたかを示す数値です。これにより、事業活動における資産活用の効率性や収益性を考察することができます。

ROAの計算式は、次の通りです。
当期純利益を総資産で割ることで算出します。総資産とは、自己資本だけでなく他人資本を含めたすべての資産の合計を指します。

ROA(%)=当期純利益÷総資産×100

ROAの数値が高い会社は、資産を効率よく使って多くの利益を上げていることになります。多額の負債を抱えていても、利益を多く生み出しているならROAが高くなります。M&Aを行う際には、自社と買収先候補のROAを比較することも、買収を進めるかどうかの判断材料のひとつになるでしょう。

例えば、自社のROAが10%とします。
買収先候補のROAが5%とします。
この場合、単純な経済合理性の観点では、買収すべきではないという判断になります。なぜなら、その買収を実行することで、会社全体のROAが10%以下に下がってしまうからです。

買収によって5%の利益を生む組織が新たに増えるわけですが、株主や従業員からしたら「今の組織に集中して経営資源を充て続ける方が、買収先の組織に経営資源を充てていくより効率的に儲かる」ということになります。

それでは、この例での買収は絶対にNGなのかというと、必ずしもそうでもありません。以下などの背景があれば、買収に進むことが戦略上有効になり得ます。

・事業プロセスの効率化が見込める(買収により、既存組織のROAが10%以上になる、買収先候補のROAが5%以上になる、など)

・自社内の経営資源活用だけでは難しい新規顧客の開拓が見込める

・自社内の経営資源活用だけでは難しい新規事業の展開が見込める

「アンゾフの成長マトリックス」という考え方があります。事業の成長・拡大を検討する際に用いられるマトリックスです。「製品」と「市場」の2軸をとり、その2軸をそれぞれ「既存」と「新規」に分けて合計4象限を作り、企業の成長戦略についてシンプルに表現するものです。

市場浸透 既存の市場×既存の製品
市場開拓 新規の市場×既存の製品
製品開発 既存の市場×新規の製品
多角化 新規の市場×新規の製品

特に製品開発・多角化は、事業化直後から順調に利益を生むとは限らない取り組みです。また、それらを行う十分な経営資源が自社内にないことも多いものです。加えて、私たちは一昔前に比べて変化が速い環境に置かれています。一時的に全社の利益率を毀損してでも自社にない資源を求めて他社を取り込み、事業再編を進める中で利益率を後から取り戻すという中長期的な判断も、時には必要でしょう。

ただし、当該買収により会社全体の利益構造をどのくらい変える結果になるのかは、十分に想定しておくべきです。特に中小企業の場合、戦略の一翼のつもりだった買収先の利益率が事前予想以上に低迷して経営資源が分散し、買収元の既存事業に支障をきたすといった影響が顕著に出やすいものです。このあたりの可能性を、標準シナリオとワーストシナリオに分けて算段しておくべきでしょう。

<まとめ>
M&Aにあたっては、会社全体での利益率の変化にも注目する。


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