見出し画像

働きがいという無形資産

3月23日の日経新聞で、ブライダル業界の動きに関する記事「千趣会が婚礼事業売却 100億円でファンドに 主力の通販に力」が取り上げられていました。コロナ禍の影響の大きい業界に関する内容でした。
同記事の一部を抜粋してみます。

~~千趣会は婚礼事業を投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズに売却する。売却額は100億円程度とみられる。新型コロナウイルスの感染拡大によりブライダル市場が落ち込む中、巣ごもりや新生活様式で需要増が期待できる通販事業に注力する。

売却するのは傘下のディアーズ・ブレイン(東京・港)で、地方の結婚式場運営に強みがある。2020年は新型コロナ禍の影響で婚礼需要が蒸発し、業績が落ち込んでいた。

千趣会は主力の通販事業に注力する方針だ。20年12月期は婚礼事業の売上高が約6割減の84億円となった一方、通販事業は10%増の674億円となった。コロナ収束後も通販事業は成長余地が大きいとみる。

ディアーズ・ブレインは21年以降に婚礼需要が戻ってくるとみており、ファンド傘下で巻き返しを急ぐ。CLSAは経営幹部を送り込み、成長を支援する。現在の経営体制は維持する。婚礼需要が今後伸びるアジア地域などへの展開も目指す。

ブライダル業界を巡っては、千趣会の持ち分法適用会社である老舗のワタベウェディングが19日に私的整理の一種である事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請したと発表した。コロナで多くの結婚式が中止に追い込まれ、業績が急激に悪化した。~~

千趣会は物販が起点の会社です。会社の成長に合わせて、「ウーマン スマイル カンパニー」の企業ビジョンのもと、関連領域である婚礼事業なども事業領域に取り込んでいきました。もともと婚礼事業が起点で今に至ったわけではありません。通信販売等の物販と、現地・現場・現物のリアル空間を企画する婚礼事業とは、ノウハウも異なるでしょう。今後の外部環境変化も想定した上で、事業領域の選択・集中を進める、その対象に婚礼事業は含まれないという判断の結果なのでしょう。

そして、注目すべきがディアーズ・ブレインです。
同社は、Great Place to Work ジャパンが実施する、2021年版 日本における「働きがいのある会社」ランキングの中規模部門(100名以上1,000名未満)で、ベストカンパニー7位に選出されています。5年連続の選出で、年々順位を上げています。また、女性の働きがいが優れた企業を選出する、女性ランキングでは3位にランクインしています。

私も以前、同社の関係者様と関わったことがあります。その時聞いたお話からは、企業理念や価値観の浸透、サービスの見直しや新たな挑戦、CSR活動などをかなり熱心に取り組まれている印象でした。同ランキング関連のセミナーに複数回参加したことがありますが、上位入賞は偶然ではできないのを痛感しています。働きがいのある会社と言える状態を目指して、本質的な取り組みを重ねた結果だろうと推察する次第です。

企業が提供する商品・サービスなどは有形資産と言えます。働きがいの実現(もしくは毀損)は、商品・サービスという有形資産が評価された(あるいは評価されない)結果でもありますが、他の様々な要素も影響を与えます。そうした様々な要素が影響し合った結果である働きがいの実現という無形資産(ざっくり、「社風」と置き換えて捉えることもできる)も、企業活動の原動力となる資産の一部です。そして、簡単につくることはできません。

組織マネジメントについて考える際は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「7S」のフレームが使われることがあります。7Sでは、組織マネジメントに関する要素をハードの3Sとソフトの4Sで捉え、優れた企業では各要素がお互いを補い、強め合いながら戦略の実行に向かっていると考えます。そして、各要素の現状を把握し自社の取り組み課題を整理する目的で、応用して使うこともあります。

ハードの3S
・Strategy(戦略)
・Structure(組織構造)
・System(システム・制度)

ソフトの4S
・Shared value (共通の価値観・理念)
・Style(経営スタイル・社風)
・Staff(人材)
・Skill(スキル・能力)

ハードの3Sは、経営方針次第で変えやすいものです。他方、ソフトの4Sは、「共通の価値観・理念」が中心のような存在となり、会社の価値観が強く絡む要素です。これまで組織の中で一般的となってきた考え方は慣性の法則が働きやすく、短時間で一新するなどの変化は難しいとされています。

経営戦略を立てたとして、実行するのは人です。経営戦略を180度変える決定をしても、人をいきなり180度変えることは不可能です。よってすべての要素が重要で、かつ相互に関連し合って経営・組織の運営が成り立っていると言えます。

同社が働きがいのある会社ランクを上げ続けることによって生み出された、Styleをはじめとしたソフトの4Sは、長期間にわたって育てられた模倣しにくい無形資産と言えるでしょう。同社の売却に関連する査定プロセスなどの詳細は存じ上げませんが、この無形資産の評価もあってのことではないかと想像します。

必ずしも同ランキングにこだわる必要はなく、別の方法論でもよいわけですが、自社なりの無形資産を高めるための取り組みに注力できるとよいでしょう。そうすれば、事業も発展するはずですし、もし環境変化で事業再編・組織再編が必要になった局面でも支援者から高い評価が得られるはずです。

<まとめ>
働きがいのある風土という無形資産は、つくり出すために長期間の取り組みを必要とする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?