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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑫既存戸建住宅の売買(2)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年12月号』より、「既存戸建て住宅の売買」(2)を掲載します。

既存戸建住宅の売買(2)

 今回は既存戸建住宅に関する紛争のうち、建物の瑕疵について取り上げる。ここで建物の瑕疵とは、床の傾きや雨漏り、白蟻被害などをいい、これらの多くは建物状況調査(インスペクション)の調査内容に関するものである。

1.建物瑕疵に関する紛争は約15%


 筆者が相談を受けた既存戸建住宅の紛争のうち、建物の瑕疵に関する紛争は15%以上を占めており、既存戸建住宅の紛争全体のうち、3番目に多く見られるトラブルである(図表1)。

 ただし、2016年に改正された建物状況調査に関する改正宅地建物取引業法の施行前と後とでは、その傾向が全く異なる。具体的には、紛争件数を見ると改正前が圧倒的に多く、改正後は紛争件数が激減している印象がある。また、紛争の質も異なり、改正前は単に建物の瑕疵に関するクレームや紛争が多かったが、改正後はインスペクションと関連した紛争が多い。まず以下でこの違いを解説する。

 なお本稿では、建物の瑕疵によるトラブルの防止という目的から、建物状況調査に限らず広くインスペクションと呼び、また、16年改正宅地建物取引業法を改正宅建業法、それ以前の宅建業法を改正前と呼ぶこととする。

(1)改正宅建業法施行前の紛争事例
 改正前によく見られた紛争事例として、建物調査をせず引き渡し後に建物の不具合が見つかるケースがあった。具体的には床の傾きや雨漏りなどの建物のうち、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の不具合に関するトラブルのほか、白蟻被害や給排水管の不具合が大半を占めていた。これら紛争の理由の一つとして、既存戸建住宅の売買においては、通例的に現状有姿で取引されていたことが挙げられる。図表2は、インスペクションを実施していれば防げた紛争である。

 このケースの他にも、例えば、建物の内覧時には気付かず、引き渡し後に雨漏りがあり買い主から調査責任を問われた事例や、また、室内内覧時には気付かなかったが、入居後に体調不良となり、建物の調査をしてみると床の傾斜が発覚した事例などがあり、いずれも宅建業者が調査不足を理由に損害賠償請求を求められた。

 建物の調査といっても既存戸建住宅は調査範囲が広く、建物部位も多岐に渡る。このため少し注意すれば気付いた瑕疵も見落としてしまい、そのまま契約に至るケースが多い。施行前においては売り主の告知書が唯一といってよいくらい瑕疵の情報源であったといえる。

(2)施行後の紛争事例

 一方、改正後は前述のようなケースは激減しており、反対に建物状況調査に関する紛争が一定数見られ、このように改正宅建業法施行前と後とでは、傾向が異なっている。

 実際に改正宅建業法施行後のインスペクション普及率は低いと言われており(国土交通省によれば、既存住宅流通戸数の8%程度と推定されている)、にもかかわらず前述(1)のような紛争が減少しているのは、媒介契約で建物状況調査のあっせんの有無を確認していることが理由の一つと考えられる。

 一方、改正法施行後のトラブルで最も多く報告されているのが、インスペ
クションで明らかになった劣化事象以外に新たに瑕疵が見つかるケースであ
る。図表3は、インスペクションを実施したにもかかわらず発生した建物瑕疵の紛争である。この紛争の原因として、買い主はインスペクションをした
以上、他に欠陥はないと思い込んでいたことが挙げられる。建物状況調査は瑕疵がすべて明らかになるわけではなくこの点の理解や説明が不足していたため、お墨付きを与えたような印象を持たせていたといえる。

 このように改正法施行後においては、インスペクションを実施するかどうかの違いにより紛争の未然防止策も異なってくる。そこで次では実施する場合としない場合とに分け、紛争を未然に防止する調査実務のポイントを解
説していく。



2.インスペクションを実施しない場合

(1)宅建業者自ら建物の調査を実施する
 
瑕疵担保責任を免責とした場合、宅建業者が調査責任を問われることがあるため注意しなければならない。売り主に聞き取り調査をすることで把握できる場合もあるが、調査しなければ発見が難しい部位もある。

 そこでインスペクションを実施しないのであれば、宅建業者は現地調査で一通り建物の内外を確認する必要がある。このとき、できるだけ買い主と一
緒に確認すべきであろう。双方が確認した劣化事象の有無について共通の認識を持つことで、後に調査責任を問われるトラブルを未然に防止することが
狙いである。

(2)建物調査の方法
 既存戸建住宅をインスペクター以外の者が行なうには限界があるが、できるだけ建物の部位ごとに確認しておく必要がある。具体的な確認箇所を挙げれば(概略になるが)次の通りである。

[1]建物外部について

 目視可能な範囲で、外壁の亀裂や剥がれ、屋根の損傷や錆の程度を確認す
る。基礎のひび割れの有無や深さは、クラックスケールやコンベックスにより測定するのが望ましい。

[2]建物内部について
 床・壁の傾きを水平器などで測定し(図表4)、壁・天井の雨漏り跡は目視で確認するのが一般的である。また、天井裏の雨漏り跡や棟木の腐食、土台の腐食や蟻道、カビの発生等によるトラブルも多いので、必ず目視により確認しておきたい。

[3]水回りについて
 水道水などの設備は実際に稼働させて、水の流れや排水口の詰まり状況、
水漏れ等を目視で確認する。

 調査後は、当事者に交付する書面に調査範囲、瑕疵の有無等、確認した場所を具体的に記載しておくことが必要である。調査できない部位に瑕疵があった場合の修繕費用は、買い主による負担になるので、容認事項として記載しておくことが紛争の未然防止につながると考えている。

 もっとも確認可能な建物部位にもかかわらずこれを怠った場合、宅建業者の調査責任は免れないだろう。従って次に述べる通り、できるだけ専門家による調査を活用することが一番の未然防止策と言える。


3.インスペクションを実施する場合

 建物状況調査については、重要事項説明時において実施の有無および実施した場合の調査結果の概要を説明することが義務になっている。

(1)引き渡し後に新たな瑕疵が見つかる可能性がある
 前述(1)〜(2)で紹介した通り、インスペクションを実施した場合でも、後に新たな瑕疵が発見され紛争になることがある。通常、調査内容は建物の劣化事象すべてを網羅しているわけではなく、あくまで部分的に非破壊の目視や計測検査を行なうものである。このように完全な調査ではないことを理解していない購入者は、調査後の建物瑕疵は他にないものと思い込み、引き渡し後に不具合が見つかったときはトラブルとなるケースがある。

 そこでインスペクションを実施した場合は買い主に過度の期待を持たせないために、重要事項説明の「建物状況調査の実施の有無」を説明するにあたり、図表5の囲みの部分は強調して相手方に伝えておきたい。

(2)既存住宅状況調査技術者(インスペクター)からの説明
 また、劣化事象等についての詳細な説明を求められた場合は、できるだけ既存住宅状況調査技術者(インスペクター)から説明してもらうべきである。

 原則として、宅建業者は建物状況調査の内容については責任を負わないと
れているが、調査内容について知識や経験のない者が、間違った説明や曖昧な説明をすることでトラブルになるケースもある。なお、既存住宅状況調査技術者に詳細説明を求める場合、調査とは別に費用を求められることがあるので事前に確認しておくと良いだろう。

4.まとめ

 以上、既存戸建住宅の売買について建物瑕疵に関する紛争を踏まえ、インスペクションを実施する場合としない場合とに分けて考えてきた。建物の瑕疵に関する紛争を未然に防ぐには、次の2点を心掛けておきたいところである。

(1)建物状況調査(インスペクション)の実施
 宅建業者自ら調査を行なうことには限界があるため、可能な限りインスペクションを実施すべきである。特に自ら売り主になる場合はもちろん、仲介の立場であってもできるだけ当事者にインスペクションの実施を勧めて
おきたい。

 確かに調査には費用や時間がかかり調査内容も完全ではないが、建物瑕疵の紛争はインスペクションの調査項目に関するトラブルが多いことを考えると、これら劣化事象を明らかすることが、建物瑕疵の紛争を未然に防ぐポイントとなる。また、調査を実施すれば、調査対象部分に関しては、宅建業者の負担や責任を回避できることにもなるので、より安全な取引を行なう上でも建物状況調査(インスペクション)を積極的に勧めるべきであろう。

(2)既存住宅売買瑕疵保険の加入
 前述の通り、建物状況調査を実施しても引き渡し後に瑕疵が発見されることがあり、このため紛争になるケースを紹介した。このような紛争を未然に防ぐには、可能であれば既存住宅売買瑕疵保険に加入しておくことが考えられる。

 既存住宅売買瑕疵保険とは、既存住宅の検査と保証がセットになっている保険制度である。既存住宅売買瑕疵保険に加入するためには、原則として新
耐震基準でなおかつ住宅の保険対象部分の性能について、専門の建築士による検査に合格することが必要であるが、既存住宅に欠陥が見つかった場合は補修費用等の保険金が支払われる。

 現在、インスペクション事業者によれば検査に合格しても保険加入しないケースが多いようだが、できるだけ保険を活用することを勧めておきたい。

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