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宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務⑨更地の売却(3)

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「宅建業者が知っておくべき『重説』に関する調査実務」
重要事項説明時における実務上の注意点を、実際のトラブル事例を交えて紹介するコーナーです。『月刊不動産流通2019年9月号』より、「更地の売却(3)」を掲載します。

更地の売却(3)

 今回も、前回に引き続き「更地の売買」について生活関連施設の典型的な
紛争を紹介し、トラブルを未然に防ぐための調査実務について考えてみたい。

1.配管等の状況に関する説明誤り

⑴配管状況の説明誤りに関する紛争
 排水施設のうち更地の売買で最も多い紛争が、前回説明した「公共下水道
処理区域の確認」に関するものであった。次に多いのが、図表1のような
「下水管が他人の敷地を通過していた、または他人の下水管が取引物件を通過していた」というケースである。

 下水道は上水道と異なり、通常は設備事業者の方で敷地内の配管図面を保
存していない。公共下水道を利用する者は使用開始にあたり敷地内の配管図
を公共下水道管理者へ提出するが、自治体の方で保存しているのはおおむね5年間で、期限を過ぎればほとんどが破棄しているようである。このため、
上水道における給水装置図面のように敷地内の配管状況を知る手がかりがないといえる。図表1のような配管状況の説明誤りから来る紛争が公共下水道処理区域内の売買においてよく見られるのは、このような下水に関する確認資料が限られているからともいえるだろう。

(2)配管状況に関する調査と説明事項
 本来、地中を掘削することができればよいが、通常の取引で宅建業者が地
中を掘削することは困難であるから、次にそのような予兆や前兆を知る手が
かりとなる調査方法を考えなければならない。

①図面と現地の照合
 前述した紛争事例もそうであるが、配管状況の説明誤りでは、そもそも下水道台帳が現況と大きく違っていたというケースが多い。例えば図表1のケースでは、下水道台帳にない公共下水桝(A)が対象物件内にあった。この時点で下水道台帳の図面の誤りを疑うべきであろう。

 また上下水道は一つの敷地に一つの施設を設置することが原則である。これが一つの宅地に公共下水桝が一つもなかったり、反対に二つ以上公共汚水桝の施設があったりするのは、過去に分筆や合筆したことが原因であることが多い。これらも現地照合をすれば確認することができる。

 このように、目視可能な公共下水桝の位置は必ず現地で確認しておきたい。

②地歴の調査
 前述のような配管状況に関する紛争を見ると、その特徴として、①過去にあった建物を解体して更地の状態にある場合、②建物があっても築20年以上を経過した物件が、半数以上を占める点があげられる。また、未利用の状態が続いている更地についても③昭和40~50年代に分譲された宅地であることも多い。つまり、近年の宅地分譲では配管状況についての紛争はほとんど見られず、多くは過去に建物が建っていたか、古い時代に分譲された更地である。

 図表1のケースも、過去に建物があり、すでに解体して更地の状態になっていた。以前は、その建物と隣地の建物とが共用で下水管を利用していたようである。

 このことから、取引物件に関して登記記録や航空写真などで過去の経緯を調べておくことは、配管状況の危険性だけでなく更地の取引全般において有益な調査といえるだろう。

③相隣関係の確認
 上下水道の調査では、図面との相違を含み「隣地の状況」を確認しておくことも重要である。通常、公図などで袋地などの相隣関係は必ず調べると思われるが、設備図面に関しても特に更地の場合は相隣関係の調査が配管状況の危険性を知る手がかりとなる。

 例えば、前述の紛争事例では隣地に建物があるにもかかわらず、下水道台帳をみると隣地には公共桝の記載がないことが分かった。そのような場合、隣地の建物はどこに汚水等を排出しているのか疑問に思うだろう。このように相隣関係に注意してみれば、配管状況の紛争の予兆が読み取れることがある。

 ちなみに下水道法11条では、他人の土地が排水設備を設置したり利用したりすることを受忍させる条文があり、これを根拠に共用で設置されているケースもある。

表1 下水道法11条
(排水に関する受忍義務等)
第11条 前条第一項の規定により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができる。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとつて最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。
2 前項の規定により他人の排水設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

3 第一項の規定により他人の土地に排水設備を設置することができる者又は前条第二項の規定により当該排水設備の維持をしなければならない者は、当該排水設備の設置、改築若しくは修繕又は維持をするためやむを得ない必要があるときは、他人の土地を使用することができる。この場合においては、あらかじめその旨を当該土地の占有者に告げなければならない。
4 前項の規定により他人の土地を使用した者は、当該使用により他人に損失を与えた場合においては、その者に対し、通常生ずべき損失を補償しなければならない。

④相手方への説明事項
 結局のところ下水道の配管状況については確証的なことは調べられず、その危険性を探ることしかできない。もし前記①~③のいずれかに該当する場合は、配管状況についてトラブルになる可能性が高いため、相手方へ注意喚起しておく必要がある。

 具体的には、重要事項説明における相手方の容認事項として
1.配管状況はあくまで設備事業者から提供された図面であること
2.現地照合をした結果、図面の記載状況と異なっていること
3.これより新たに配管し直す必要がある場合、買い主はその費用を負担しなければならないこと

以上の点は少なくとも説明しておきたい。

⑤公共汚水桝のふた開けは注意が必要
 配管状況の現地確認に関しては、公共汚水桝のふたを開けて調査確認することも考えられるが、通常、各自治体では公共汚水桝のふたを指定工事業者でない者が開けないように要望している。上水道のメーターボックスの場合と異なり、下水の調査にあたっては自らふたをあける行為は指定工事業者の協力が必要と考えるべきである。

 これは、道路にある公共汚水桝を開けたままの状態にすると、例えば分流式の場合は大雨の時に汚水管に大量の雨水が流れ込み、トイレや台所、風呂といった箇所に汚水が逆流して使用できなくなる被害が発生したり、ふたが開いた状態により段差が生じ、特に高齢者の「つまずき」や「転倒」事故が発生したりするためである。

 公共汚水桝のふたを開けるには先端がカギ状になった専用工具が必要であり、最近ではホームセンターで安価に購入でき、また専門業者からレンタルすることも可能である。完全にふたを元の状態に閉められる自信がなければ専門外の者が勝手にふたを開けるのではなく、もしふたを開けて確認したい場合は下水道指定工事業者に依頼すべきであろう。


2.私設管に関する紛争

 取引物件を特定するための資料には公図や地積測量図などがあるが、これ
ら資料の見落としや理解不足からよくトラブルになるケースとして、次のも
のが挙げられる。

⑴私設管の紛争事例
 
更地の売買では私設管に関する紛争も多い。例えば、図表2のように過去に分譲された宅地において、新たに入居目的で購入した買い主が私設管所有
者から負担金を要求されるケースである。

 ここで私設管とは、前面道路の本管を私人が所有、管理している状態をいう。敷地内の引込管を私設管と呼ぶ不動産団体もあるが、一般には前面道路の本管の所有者または管理者が「自治体(=公設管)」か「私人(=私設管)」かで区別している。

 私設管は、過去に公設管と接続させた者が自費でその工事をしたため、新たにその管に接続しようとする者に対して工事費の一部や管理費の負担を要求することがある。これを重要事項説明で説明せずに、引渡し後に買い主が建築しようとして紛争になるケースが多い。

(2)私設管の見分け方
 私設管の見分け方としては、下水道台帳を確認することが一つの手がかりになる。下水道台帳は下水道法23条に定める通り、公共下水道管理者が、その管理する公共下水道の台帳を調製し、保管したものである。逆の見方をすれば、公共下水道台帳に記載がなく、現地にマンホールふたや汚水桝がある場合、その道路に埋設されている管は私設管と見て間違いないだろう。

 私設管は下水道だけでなく上水道にも多く見られる紛争である。更地は建物がないため、手がかりになるのは現地確認である。もし図面に記載がない場合は、現地で施設の有無を確かめておく必要がある(図表3)。

(3)私設管であった場合の確認事項
 現地確認の結果、私設管である可能性が高いときは必ず近隣に聞き取り調査を行ない私設管の所有者・管理者を突き止める必要がある。私設管の所有者・管理者については売り主や自治体が把握している場合もあるが、更地の場合は通常これらの者からの聞き取りで確かめることは期待できない場合が多い。私設管は私道と異なり、明認された公示資料がないことから面倒でも近隣の聞き取り調査が欠かせないといえる。

 私設管の所有者・管理者を突き止めたら、最低でも次の2点は確認しておく必要がある。

①私設管への接続が可能かどうか
②接続可能な場合の費用負担の額

3.排水施設に関する調査と説明事項

 以上から、更地の取引における上下水道に関しては地歴の調査が必須といえ、図面を入手したら目視可能な部分は必ず現地で照合することが重要であ
る。

 いずれにしても排水施設に関しては、1.下水道担当部署での調査と2.現地確認は必ず行なう必要があり、必要に応じて3.所有者や近隣住民への聞き取りを行なう必要がある(図表4)。

 そして調査の結果、もし前述のような何らかの予兆があれば、重説書や契
約書に特約として記載しておくことが必要であろう。



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※(株)不動産流通研究所の著作物です。二次利用、無断転載はご遠慮ください

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