今日

溺れてしまう前に

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溺れてしまう前に

最近の記事

彼岸花

私にちゃんとした恋人ができたのは、大学1年の冬だった。その人と別れてから、気づけばもう半年経っていた。人の顔色をうかがう癖がある私にとって、あの期間はかなり毒だった。相手の気分が落ちていることは、メッセージ上でもすぐに分かった。そのせいで何度夜中に泣いたか分からない。煙草の吸える店を探すのは、正直言って面倒臭かった。少し並んで店に入ると機嫌が悪くなるから、店に向かう途中私は常に緊張していた。ずっと不安だった。眠いのを我慢してまでするセックスは少々苦痛だった。神保町の中華屋で終

    • 夏と光

      今年2度目の風邪を引いた。5年ぶりの発熱は、かなり堪えたようで、4日も寝込んでしまった。目を覚ますと、カーテンの隙間から陽の光が漏れていた。窓の外からは少年たちが野球をする声と蝉の鳴き声が微かに聞こえる。そうか、夏か。ノールックで在処を探し当てた携帯には、「台風7号 あす関東に最接近」の通知があった。オーナーが昨日、「金曜は店を締めるしかなさそうだなあ」と、独り言のように呟いていたことを思い出した。フラフラする体で、リビングへと向かった。何となくつけたテレビは中京大中京と神村

      • 本音

        ずっと眠っていたいな、と思う。意識があると、悲しいとか苦しいとか寂しいとか、そういう抱えていて辛い感情を抱くことがある。それはいつも突然で、嵐のように私の心をかき乱していく。文章を書くことは時々、リストカットよりも自傷行為になりうる。1年半経っても大学生になりきれないのは、高校生のうちに強く憧れた大学生とかけ離れた生活を、“自分のせい”で進む羽目になっていることから目を逸らした結果。「死ぬほど好きだったの」と、今にも消え入りそうな声で呟く友人の背中を撫でてやることができなかっ

        • かえってこない

          友人に貸した金が返ってこない。貸した、というか、いつも私がまとめて払っていた分のお金を返してもらっていない。それだけのことなのだけれど、それだけのこととして片付けるには、少し余裕が足らない。いや、余裕を使い果たしてしまったのかもしれない。 ざっくり説明すると、私と彼女は高校1年からの付き合いで、今年5年目の仲だ。高校1年の春に彼女の方から私に、インスタグラムのダイレクトメッセージを送ってきたことがきっかけだった。「同じロックバンドを好きな人が周りに居ないから、仲良くして欲し

        彼岸花

          ヒペリカム

          私は、君の行き止まりだったんだろうか。深夜、というかもう朝、朝の4時過ぎから映画を観始めた。昨日友達に教えてもらった映画。2軒目のカラオケで、友達がこの映画の主題歌を歌っていた。元々知っている曲だったのに、妙に刺さった。不思議と、初めて聴いたかのような気持ちになった。それは友達の歌が上手いからなのか、私がその曲に共感できるようになったからなのか。まんまと教えられた次の日に観てしまった。その映画に出てくる水族館のシーンで、何故か泣いていた。楽しかった頃の記憶と重なってしまったか

          ヒペリカム

          18歳、一人旅をする

          18歳、1人で旅をした。反対する親をどうにか説得して、1年前の夏の日、京都という地へ向かった。朝、重たいスーツケースを抱え家を出た。気が狂いそうなほど蝉が鳴いていた。近所のバス停に着いた瞬間、なんだか凄く自由を感じた。走ったらすぐ家がある距離なのに、翌日にはまたここに帰ってくるというのに、私はその瞬間、世界で1番自由になれた気がした。多分その自由は、「今まで出られなかった狭い世界」から抜け出せた、そういう類の自由だったのだろう。 新幹線で食べる駅弁は、家で食べるご飯の数倍美

          18歳、一人旅をする

          なれること、慣れること

          初めて行く喫茶店でくつろげる人は、才能があると思う。4限の講義が終わった後、友達との待ち合わせまで時間があったので、大学近くの喫茶店で時間を潰すことにした。いつも行っている喫茶店の前まで来たのに、「たまには探検でもするか」と、踵を返して再び歩き始めた。理由はないけど、なんだか、そうした方がいい気がした。 地下にある喫茶店に入った。想像していたより随分と狭くて、人がたくさんいた。マスターに「1人です」と指でジェスチャーすると、カウンター席に通された。テーブル席は3つ、全て埋ま

          なれること、慣れること

          あれから

          目黒川の桜が満開だと、人づてに聞いた。もしも今、桜を見て綺麗だと思えたら、私はきっと“大丈夫”なんだと思う。桜を一緒に見る約束はしていなかったけれど、夏の花火は一緒に見る約束をしていたせいで、冬は北へ旅行する約束をしていたせいで、これからやってくるどの季節にも君の影がチラつくことが確定している。君を好きじゃなくても、チラついてしまうと思う。これは仕方のないことだよ。約束の賞味期限なんて無いから。 あれから、ちゃんと生活している。ちゃんと、ではないかも。それなりに生きている。

          あれから

          頑張り方を忘れてしまって、ずっと焦っている

          頑張り方を忘れてしまって、ずっと焦っている

          ボーイ・フレンド①

          キラキラしていた頃の話 誰に読まれなくても良いんだけど、君には読んで欲しい、私が何を思っていたのか、どれだけ君を大切に想っていたのか、ここからどれくらい傷ついたのか、君は何も知らないから、「分かってる」と言っていたけど、全然分かっちゃいないから

          ¥300

          ボーイ・フレンド①

          ¥300

          悲しかったんだって

          中学時代の親友と会った。吉祥寺の小洒落たイタリアンレストランで、数ヶ月前に迎えた私の誕生日を祝ってもらった。秋に会って以来、3ヶ月ぶりだった。中学時代、生徒会の役員だった彼女は、来月元生徒会で集まるんだと話した。「そういえばもう次は私たちが成人式なんだね」なんて会話から始まり、「あの子は今どこで何しているんだろう」とか、「あの子の苗字が思い出せない」とか、そういう他愛もない話をした。その流れで、「あの頃あなたが仲良かったあの子、最近会ってる?」という話題になるのは、ごく自然な

          悲しかったんだって

          自分のことを信じられないのに他人のこと信じられるわけがない

          自分のことを信じられないのに他人のこと信じられるわけがない

          ずっと漕ぎ続けた船を降りるのは、とても怖かった。 登下校中の電車やバス、病院の待合室、旅行先で何度も繰り返し読みボロボロになった英単語帳と古文単語帳。書き込みしすぎて文字だらけになった参考書。そういうものを見ると、少しだけ自分を認められる気がした。「模試の結果で落ち込むのは、納得するまで努力してから」と決めていた。第1志望は、D判とE判を彷徨い続けていた。模試の結果が返ってくる度、頭を冷やそうと駆け込んだトイレは、いつも誰か先客のすすり泣く声がしていた。それでも絶対に負け

          1月13日

          東京で雪が降ったらしい。Twitterのトレンドに「東京 初雪」の文字が並んでいるのを見つけた。「まだ降っていたりして」なんて、淡い期待を胸に窓を開け、外に頭を突き出した。鬱々としながら机に向かっている間に降って、今はもう止んでしまったようだ。どうやら空の機嫌は少し良くなってしまったらしい。すぐに頭を引っ込めるつもりだったのに、気づけば5分くらい頭を出していた。特に意味はなかった。私の家とお隣の家の間に空いた、人一人分の隙間から覗ける妙に明るくて濁った空は、何だか薄気味悪かっ

          卒業文集

          同級生に見つかりませんように、なんて、ね、まあ1年経ったし誰も読んでいないだろうと思ったので載せてみます、横書きよりもこの感じの方が私は好きなので粗い画像で失礼します

          卒業文集

          高校って、「わざわざ約束しなくても友達に会える最後の場所」だったから、もう少し大事にしておけばよかったと、卒業してもうすぐ1年経つ今思うんだよ

          高校って、「わざわざ約束しなくても友達に会える最後の場所」だったから、もう少し大事にしておけばよかったと、卒業してもうすぐ1年経つ今思うんだよ