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かえってこない

友人に貸した金が返ってこない。貸した、というか、いつも私がまとめて払っていた分のお金を返してもらっていない。それだけのことなのだけれど、それだけのこととして片付けるには、少し余裕が足らない。いや、余裕を使い果たしてしまったのかもしれない。

ざっくり説明すると、私と彼女は高校1年からの付き合いで、今年5年目の仲だ。高校1年の春に彼女の方から私に、インスタグラムのダイレクトメッセージを送ってきたことがきっかけだった。「同じロックバンドを好きな人が周りに居ないから、仲良くして欲しい」みたいな内容だった気がする。仲良くなるのに時間はかからなかった。高校3年間一度も同じクラスにはなれなかったけれど、なんだかんだ学校行事があればその度お互いのクラスまで行き写真を撮ったし、ライブにも沢山行った。お互い違う大学に進学した後も、2人で色んな所に行った。2軒目はカラオケがお決まりで、私は彼女が1曲目に歌う残酷な天使のテーゼを聴くのが好きだった。満足するまで歌ったら、最近の悩み事や今自分が苦しいと思っていることを聞きあった。当時の私にとって、その時間は必要な時間だった。それは多分きっと彼女も同じだったのだろう、と思う。これが永遠に続くと思っていた。彼女はよく「日本に生まれたのは間違いだった、今の政治じゃ日本の未来は暗い」という話を私にした。そして、その話の最後はいつも決まって「私はいつか日本を出る、日本を出て海外で暮らすんだ」というものだった。そういうところが好きだった。自分の芯がしっかりとあるところ。私には無いものを持っている彼女を、私は尊敬していたし、その真っ直ぐさが時に眩しかった。ただひとつ、忘れ癖があること以外は。

ライブのチケットを申し込むのは、私の役目だった。そう決めたわけではないけど、忘れ癖があって、私より毎日忙しくしている彼女の負担を軽くできるならと、私が全てこなしていた。代金はまとめて私が払っていた。これがいけなかったのかもしれない。私は小心者なので、「今回の分」と言って彼女の前に手を出すこと、金を要求することができなかった。人を急かすことがあまり好きではない性分なこともあって、「いつか気づいてくれるだろう」と、すぐに要求することはしなかった。でも、1月の終わりで、1番初めの未払い日から1年が経ってしまった。さすがにもう要求せざるを得なかったので、彼女が罪悪感を感じすぎないよう、なるべく柔らかいもの言いで伝えるよう努めた。すぐに彼女からは大量の謝罪があったし、「明日振り込みに行く」との申し出があったので、ことは落ち着いたと思った。次の日、日付が変わる頃になっても連絡が無いので通帳を確認すると、まだ振り込まれていないようだった。仕方ない、彼女も忙しいのだろうと、急かさず待つことにした。1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、ついには4ヶ月も経ってしまった。さすがに忘れ癖と後回し癖があるといっても、これはいかがなものかと思った。この前の金曜、彼女のインスタグラムのストーリーに反応してみた。「あなたとご飯に行きたい」という旨のメッセージを送った。悲しいことに、月曜の夜がもうすぐ明けるというのにまだ返事がない。もう、今の私には彼女の考えていることが分からない。彼女は私の理解者で、私もまた彼女の理解者であったはずなのに。似たもの同士なのに分からない。「金の切れ目が縁の切れ目」だと、誰かが言っていた。こんなことで縁が切れてしまうのかと思った。こんなことで大切な友人を失わなければいけないのか、と。私は一体どうすれば良かったのだろうか。そしてこれからどうしていけば良いのだろうか。もう正直お金なんかどうでも良くて、私は彼女から話をしてくれればそれで十分なのだけれど、「それは良くない」と、この前他の友人に叱られたばかりなのでそうはいかない。もうかえってこないのだろうか。お金が返ってきたとしても、彼女は。

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