学年があがるにつれ、難儀する娘の小児科受診。
#20240807-448
2024年8月7日(水)夏休み19日目
週末にノコ(娘小5)の習い事の発表会がある。
5日に発熱したノコの熱は、昨日一日上がったり下がったりしていたものの、今日は平熱に落ち着いている。
このまま週末まで静養しながら様子を見るか、小児科を受診するか悩む。
なんせ我が家の地域は、内科や歯医者はあるが小児科が見事にない。
ノコが小さい頃は自転車に備え付けたチャイルドシートに乗せて連れていったが、はや小学5年生。体格的にも道路交通規則上ももう乗せられない。平熱になっているので、自分で自転車をこがせる手もあるが、連日酷暑続きだ。病み上がりに「すぐそこ」ではない距離を走らせるのはさすがにできない。
自然治癒が望ましいと思いつつも、発表会には大勢が集う。
医師の診察を受けておいたほうが、こちらも安心できる。
タクシーを呼び、休日のむーくん(夫)も含めて家族3人、小児科へ向かった。
里子のノコは、幼稚園年長児で我が家に委託された。それこそ、一緒に暮らしはじめた当初のほうが病院へ連れていくのが楽だった。
診察のときも医師の指示通りに口を開けた。
予防接種も抱っこしながらではあったが、「怖い怖い」というものの困ることはなかった。
処置室から猛ダッシュで脱走する男の子を追いかける母親を気の毒に思ったものだ。
処方された薬も嫌がらずに飲んだ。むしろノコ自身も飲めることが自慢げでもあった。
私もむーくんも施設でしっかり躾られていることが嬉しかった。
1年経ち、2年経ち。
学年が上がるにつれ、ノコの病院での態度は変わっていった。
あんなにスムーズにできていた診察や薬の服用に手がかかるようになった。
薬は飲まないといったら、1時間でも2時間でも口を開けない。飲みやすいゼリータイプの商品をはじめ、子どもに薬を飲ませる手立てをあれこれ試したが、とにかく頑なだった。
乳児、幼児ではない。言葉もわかる小学生だ。
飲む必要性や飲まなかった場合ノコ自身が困ることをやさしく丁寧に説明しても変わらなかった。
里親家庭において、里親の顔色をうかがうことなく、自分の気持ちを主張できるのは、見方を変えればいいことではある。
振り返れば、委託直後の受診態度は、大人が望む姿であり、ノコも「いい子」に見られたかったのかもしれない。あれは自然なふるまいではなく、「頑張った」結果だったのかもしれない。
医師の手前、と医師のせいにしてはいけないが、やはり忙しそうな院内を見ると、ノコ1人に1時間も2時間も向き合ってはいられないだろうと気が急く。私に「いい親に見られたい」という気持ちがあるかといえば、ない。この委託された5年のどこかに置いてきてしまった。
ただただ、医師に対する申し訳なさが大きい。
ノコは私よりむーくんのいうことに従う。
むーくんのほうが納得できる説明をするとか、促し方がうまいわけではなく、単にノコ自身の甘えの出し方の違いなのだと思う。
だから、ノコの受診にはむーくんがいたほうが私が気楽だ。
――付き添いは1名でお願いします。
診察室の入り口にそう張り紙があった。
「ノコさん、大人は1人しかついて入れないって。パパとママ、どっちにする?」
ノコがむーくんと私の顔を交互に見る。
「ママァ」
私の腕にぎゅうと抱きついた。
名前を呼ばれて診察室に入ると、ノコは警戒心むき出しで医師、その後ろに立つ看護師、室内の備品などをギロギロと見まわす。
私がここ数日のノコの体調と熱について説明する。
「じゃあ、口を開けてね」
医師のなにげない言葉にノコは即反応する。
「なにすンの! どれでやンの!」
「アーンして喉の奥を診るだけだよ」
そういわれてノコがマスクをはずして口を開けた途端、棒状の舌圧子が口のなかにサッと入り、舌を押さえて喉奥を診察した。
「あー、赤いねぇ」
ノコは慌ててマスクを戻すと、咳込みながら恨めしげに医師を睨んだ。舌圧子を使うと告げなかったことを怒っているのだろう。
「念のため、検査もしておこうか」
医師が検査用の長い綿棒を取り出すと、ノコはマスクの上から口許を両手で覆った。
「やんない!」
「とりあえず、マスクを外そうか」
「今は外さない! それ、やんないから!」
こうなったら、1時間2時間、大袈裟でも冗談でもなくノコは動かない。
最終兵器に登場してもらうしかないか。
「ノコさん、パパに来てもらう?」
「それも絶対ダメッ!」
扉1枚向こうにむーくんがいるのに呼べない。
医師が電子カルテを眺めながらいう。
「もう平熱になってるしなぁ。無理にやらなくてもいいか。薬は飲めそう?」
「粉ならいける。玉は飲まないから!」
そうはいっても味によるのだが、錠剤はまず飲み込めない。
「じゃあ、お薬飲んでね」
診察終了。
ノコは待合室に戻ると、機嫌よくむーくんの胴に両腕をまわして抱きついている。
「検査拒否しました」
私が報告すると、むーくんが重いため息をつく。
「今度はパパと診察室に入ろうなぁ。パパ、ノコと診察室に入りたいなぁ」
「ヤだから、ヤ!」
なぜに。
学年があがるにつれて楽になると思っていた診察に難儀するのだろうか。
私1人で連れてきたのなら気持ちが沈むが、むーくんがいるだけで笑えてくる。
「ノコさん。そんなことがあってほしくないけどね。命に関わるときは、泣こうが騒ごうが検査も治療もするからねッ!」
じっとりとした目付きでノコが私を見た。
知らんがな。ママはやるときゃやるよ。パパよりやるよ。