卵を温めるように。
#20231002-248
2023年10月4日(水)
――死にたくなる。
9年しか生きていないノコ(娘小4)にそういわれ、私は悲しい顔しかできなかった。
胸が締め付けられ、涙が出そうになったが、泣いていいかわからず、どう言葉を掛ければいいかもわからなかった。
そんな私をノコは困った顔だといった。
ノコにとって我が家を安全だと感じ、安心して過ごせる場所になるためにはどうしたらいいのだろうか。
学校への登校渋りはゼロではないが、ごくたまにしかない。ノコにとって学校は心底楽しい場所ではなく、帰宅すると毎日毎日「嫌だった」ことを報告してくる。同じクラスの子のこと、先生のこと、休み時間や登下校で一緒になる他学年の子のこと。
楽しいことは学校に置いてくる。
しんどかったこと、苦しかったこと、嫌だったことを持ち帰る。
おそらく今は私に吐き出すだけでは、わだかまりを晴らせなくなってきているのだろう。
大人だって、時にはのんべんだらりとしたくなる。
ノコと暮らすようになってからは、体調が悪くない限り、寝坊もできない。どこか私も気を張っている。これはむーくん(夫)の勤務形態が特殊で暦通りでないため、ノコとあまり休日が重なることがなく、家族全員だれも用事のない日がないということもある。
ノコはくつろげるのは自分の部屋だけだという。
そんな自室で親の目を気にせず何をしているかといえば、ベッドに寝転がり、本や漫画を読んでいる。ノコはスマートフォンもポータブルゲーム機も持っていないので――スマホやゲームを「悪」とはいわないが――実にすこやかな息抜きだ。
居間ですら、気を許せない状況ってどうなのだろう。
親の目を常に意識するのって疲れるよね。
学校でも気持ちを張りつめ、家でも張りつめていたら、ノコはどこで心をゆるめるのだろう。
これではちっとも安全でもないし、安心でもない。
ノコのことを諦めず、ただ見守るのは難しい。
先々困ることが見えるため、ついつい何かしらいいたくなる。
宿題をやらなければ、先生に個別に注意され、嫌な気持ちになるだろう。持ち物の準備をしなければ、それがなくて困ることになるだろう。身だしなみを整えなければ、友だちに何かいわれるかもしれない。身につけてほしい習慣というだけでなく、それらをしないことによってノコが外で嫌な気持ちになるのを避けたくて口出ししてしまう。
だが、それで家でくつろげないのなら、本末転倒だ。
嫌な気持ちにならないようにしているつもりが、嫌な気持ちを前倒しにしているように見えてきた。
このくるくる循環する輪を変えたい。
しないことによって、例え外で嫌な気分になったとしても、家に帰れば「大丈夫」だと肩の力が抜けるように。
ノコがしないことはすべきことでもあるので、外で指摘されることからは免れない。
指摘されて、嫌な気持ちになったとしてもそれを家で受けとめてもらえることが今のノコには必要なのではないか。
くつろいで、心が充電できなければ、立ち上がる気力は生まれない。
「諦める/見守る」という二者択一だと思うからしんどいんだ。
ほかの、私に負担が少ない道を探してみよう。
振り返れば、ちょいと厳しくノコに求め過ぎたと思う。
宿題などノコ自身がやらねばならないことはどうしようもないが――学校に宿題の軽減をお願いする手立てはあるが――、暮らしの小さなことは甘えさせてあげよう。
全部を全部先回りしてやるわけではなく、ノコが「ママ、やって」「やりたくない」といったときはこういおう。
「仕方がないなぁ、この甘えん坊ちゃん」
そして、私の好きなノコの形のいい額を撫でよう。
まだノコは卵なんだ。
我が家では孵っていないんだ。
ノコ卵を温めよう。
我が家が安心安全だと思ってもらえるように。
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