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娘が私には喋らない。~娘の口内炎②~

#20240829-452

2024年8月29日(木)夏休み41日目
 児童相談所のケースワーカーさんや先輩里親さんから「やまいは大変だが絆を強くする」という言葉をしばしば掛けられる。

 一理ある。
 一理あるが、ノコ(娘小5)の場合は「快方に向かっている」段階が厄介だ。
 具合がとても悪いときは、こちらも手厚くできる。ノコが口にできるものを用意し、少しでも食べられればよいとできる。ノコもさすがにぐったりとし、ヤダヤダといわない。
 暑いか、寒いか。
 なにか食べたいものがないか。なになら飲めるか。
 熱をはかり、額に手をあて、ノコの様子を探る。
 やさしく、甘く、いたわることができる。

 親が出した食事を食べるのが私には当たり前だった。
 それは具合が悪いときも同様で、容態に合わせて親が用意した食事を食べる。それがだんだん日常の食事に近付いてくると、治ってきていることがわかり、嬉しかった。りんごのすりおろしや玉子味噌をといたお粥は体調が悪いときは口当たりよく食べやすいが、回復するにつれて物足りなくなってくる。あくまで病気のときに食べる献立なのだ。
 いつもの食事が恋しくなってくる。
 そういうものだと思っていた。

 ノコは日頃から通常の食事を好まない。
 お菓子を食べたがり、食事ならばフライドポテト、うどん、おにぎり、ラーメンの麺、海苔なら好んで食べる。
 今回は口内炎ということもあり、なおさら口あたりのやさしいものを求める。それはわかる。
 朝昼晩とヨーグルト、バナナ、はちみつ、ミロに牛乳をブレンダーで撹拌かくはんしたものをマグカップ1杯。物足りなくないのだろうかと思うが、本人はそれでいいらしい。それをグイッと飲み干すのではなく、ちびちびと1時間2時間かけて飲む。
 そして、喋らない
 風邪気味なのかと一日に数回検温しているが、口を閉じたまま体温を告げるのでわからない。
 「うんうーんんーん、んー」
 「わからないから、ママに体温計を見せるか、紙に書いてちょうだい」
 私がそういうと、やってきて指で伝える。
 「3、6、2。36度2分?」
 ノコが鼻の穴をふくらませてうなずく。
 医師が処方した薬を塗っているので口内炎もだいぶよくなってきたはずだ。それでもノコは通常の食事に戻りたがらない。ブレンダーで撹拌した飲み物もどきか、素うどんしか口にしない。そのほうがノコにとって快適なのだろう。
 病は絆を強くするというが、ノコはどうやら「病人扱いのまま」がいいようだ。

 この3日間、午前中のみ学校がある。宿題の提出と2学期に向けての助走なのか授業がはじまっている。習い事も今週から通常に戻った。
 口内炎が痛むため、話す/食べるが難しいことは伝えてあるが、差し障りなく過ごしているようだ。習い事先からは「いつもよりは口数が少ないですが頑張っています」と連絡があった。
 むーくんも「学校で〇〇だったらしいな」「習い事先で△△君がこういったってな」と私にいう。それは身振り手振りではわからない内容だ。
 「ねえ、ノコさん喋ってるの?」
 「普通に喋ってるけど
 どういうことだ。
 「私には相変わらず喋らないし、ジェスチャーでいってくるんだけど」
 むーくんが目を丸くする。
 「いや、フツーに話し掛けてくる」
 なんじゃそりゃ。
 学校でも習い事先でも支障がないわけだ。
 「ねえ、その違いって甘えなの? 甘えてるの?
 「わかんねぇ」
 むーくんが首を傾げて笑う。

 夕飯を終え、むーくんがソファーでゆらゆら舟をこいでいる。
 私もまぶたが重くなってきた。ノコが寝るまではなんとか持ちこたえねばと本を開く。
 湯浴みを終えたノコがパジャマ姿で居間にあらわれた。
 「髪、乾かして、早く寝てねー」
 最近、ドライヤーの練習をノコはしている。長い髪ならまだ親の手が必要だろうが、ノコはそこまで長くない。
 ノコが私のところまで来て、肩を叩いた。洗面所を指さす。
 「なぁに、お医者さんの薬を塗っているのに、まだ喋れないの?」
 私の腕を引っ張り、洗面所へ連れていこうとする。髪を乾かしてほしいのだろう。
 「なぁに、わからないよ。ほら、早く髪乾かして寝ないと。遅くなっちゃうよ」
 「んーんーんー!」
 かたくなにノコは喋らない。
 髪を乾かしてほしいといわない。
 私はしぶしぶ腰をあげる。ノコの顔に喜色が浮かんだ。

 甘えなの?
 甘えてるの?

 心のうちで私はつぶやく。


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