里子の娘の生い立ちを振り返る。
#20240201-350
2024年2月1日(木)
里子のノコ(娘小4)は、幼稚園年長のときに我が家に来たので年齢なりではあるが、自分の生い立ちを理解している。
今は里親である私たち夫婦の姓を通称名として使っているが、それまでは戸籍名である実親の姓を名乗っていた。病院の診察券は通称名で記載されているものの、カルテは戸籍名らしい。医師が戸籍名で呼ぶこともしばしばある。
乳児院の記憶はさすがにおぼろげだが、児童養護施設で暮らしていたことは覚えている。
自分が里子で私から産まれていないことも知っている。
それでも、そう思いたいのか、たまに私から産まれたようなことをいう。
今後、実親と暮らすことはないのだが、実親が「迎えにきたら」ともいう。
実親の情報をもっとほしがることもある。
私たち夫婦も実親について、おおまかなことしか知らない。
児童相談所と相談の上、もう一度ノコに生い立ちについて説明することになった。
幼稚園児ではなく、小学4年生が理解できる言葉で、だ。
そして、同時に実親が迎えに来ることはないことも伝える。
児相の職員がいうには「退路を断ちましょう」。
実親は迎えにこない。
ノコは里親である私たち夫婦のもとで暮らす。
この現実を児相が改めてノコに提示する。
児相訪問時に担当のケースワーカーがノコに予告をした。
次回、児相で生い立ちのおさらいをすること、実親について知りたいことがあるか。そういわれて、ノコは激しく首を振った。
「じゃあ、思いついたら、ママでもパパでもいってね」
うつむいたまま、ノコが小さくうなずいた。
はやくその話題を終わらせてほしい感じだったが、児相を出てからもう一度私が尋ねると、ノコはすらすらといいだした。
先ほどと違い、その表情はやわらかい。
「えっとね。名前を知りたい。それから顔が見てみたい。それからね・・・・・・」
つないだ手に力がこもる。
「どんなとこに住んでいたか知りたい」
「そのとき、何人家族だったかも知りたい」
私はまっすぐにのびる道の先に目をやった。
「わかった。児相さんに伝えておくね」
ノコに生い立ちの振り返りをすると予告してから今日まで、私は何度か児相と接する機会があった。
どこまで詳しくノコに伝えるのか、児相に尋ねることはできた。
私たち夫婦が知らない事実も明かされるのか。大人も心の準備をしたい。
だが、結局なにもいわないまま、当日を迎えた。
もし名前を教えるといわれたら、どうするのか。現代は学校からタブレットが配布されている。検索は子どもにも身近だ。実親の姓名がわかれば検索する可能性はある。
もし写真を見せるといわれたら、どうするのか。写真を求められたら、多くの人は少しでも見栄えのよい写真を提出するだろう。そこにノコが理想を思い描いたとしても止められない。
もしノコを育てられない理由を具体的に告げるといわれたら、どうするのか。ノコが誤解なく、受けとめられるよう考えねばならない。
さまざまな懸念が次から次へと浮かんだが、ノコの「知る権利」を私たちが邪魔することはできない。
そのタイミングが今なのか、もっと先なのか、私たちでは判断も難しい。
ノコとて、「知りたいことがあれば教える」といいながらも、言葉を濁されたら疑問を口にしなくなるかもしれない。
ーーどうせ教えてくれないし。
そうノコが思うのは避けたい。
ノコの問いに真摯に向き合うことが児相に、そして私たち里親にできる最善のことだと思うに至った。
まな板の上の鯉。
ノコがどう感じるかなんて、4年一緒に暮らしたくらいでは想像できない。
なるようになれ、だ。
そのまま抱き締めるしかない。
生い立ちの説明は紙面で行われた。
文字と小さなイラストがあしらわれていた。それを見せながら、ケースワーカーが声に出して読んだ。
私たち里親には目新しい情報はなく、ノコが委託されたときに聞いたものと変わらなかった。ただノコにとっては違う。実名をはじめ、育てられなかった理由などがより具体的に述べられていた。
私たち夫婦のあいだに座っていたノコの目からはたはたと涙が落ちた。
それでもじっと紙面を見つめている。
実親の写真はなく、私たちとの3人での写真が印刷されていた。
説明が終わった。
尋きたいことがあるかと問われ、ノコは小さく首を振った。
「ぎゅうするかい?」
私が声を掛けると、ノコは私の膝によじのぼり、ぎゅうっと抱きついてきた。堰を切ったように泣くかと思ったが、そのまま静かに涙を落とした。
くっついた頬が熱かった。
3人での帰り道。
ノコは実親の名前を口にした。
「お父さんの名前は○○、お母さんの名前は△△」
一度しか読み上げられなかったのに、心に刻んだようだ。
しばらく不安定になるかもしれない。今日の具体的な説明をもとに、新たな疑問がわくかもしれない。
そうしたら、また児相と相談して、ノコの生い立ちをわかる限り伝えていく。
一緒に暮らしながら、一緒にノコの生い立ちと向き合っていくだけだ。
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