見出し画像

「今」伝えても伝わらないし、穏やかな日々が続くのならそれでいい。それが一番。~委託直後の里母さんのこと~

#202405028-403

2024年5月28日(火)
 里親の交流会に出席した。対象は小学生以上の里子を養育中の里親だ。
 担当地域の児童相談所児 相による催しのため、見知った顔が並ぶなか、はじめて会う里母さんがいた。
 委託されて1ヶ月というので、本来なら委託直後サロンに出席すべきところ、里子が小学生だからこちらにも顔を出したのだろう。

 輪になった椅子の順に簡単な自己紹介と近況を報告する。
 里子であるノコ(娘小5)より年下の里子のエピソードには思い当たることが多く、「そういうこと、あったなぁ」と口許がゆるんでしまう。中学、高校、大学とこれから先の話になると、身が引き締まる。未知の世界だからだろうか。
 話題は、日常生活のことから学校のこと、生い立ちのとらえ方、人間関係、勉強への取り組み、そして今時ならではのゲーム機やスマートフォンスマホといったデジタル機器とのつきあい方までと幅広い。
 みな、程度の差はあれ、悩んでいる最中であったり、ひと山越えたところだったりする。ノコを見ていて思うのだが、子どもの成長は右肩上がりの直線ではない。行きつ戻りつ、ひとつ落ち着いたかと思えば新たな生きづらさが出現する。

 委託1ヶ月の里母さんは、熱心にあれこれ抱えたほかの里子の近況に耳を傾けていた。
 その里母さんの番となる。
 今現在、問題だと思うことはない。
 生活リズムも規則正しく、学校の宿題もすぐ済ませてから遊びに出る。TVテレビやゲームをしてもタイマーで自己管理ができている。
 「施設がしっかり育ててくれたので、助かっています」
 里子さんとの暮らしが新鮮で穏やかなのだろう。その笑みは明るく、ちょっぴり誇らしげでもある。
 はじめてお会いした里母さんゆえ、里子さんの生い立ちや状況は何ひとつ知らない。
 小学校中学年での里親への委託。雰囲気的に短期委託ではなさそうだ。私の地域では、乳幼児での里親委託が多く、幼稚園年長児で私たち夫婦に委託されたノコはわりと「大きな里子」に入る。
 私の心にざわつきは微塵もなく、その里母さんがうらやましいわけでも、今後苦労してほしいわけでもない。
 このまま和やかに里子さんが成長することが望ましい。
 里母さんの話を聞きながら、私はノコが長期委託になって1ヶ月頃の日々へ思いを馳せる。
 大人との入浴を嫌がった。食事の好み――それは食材から味付け、切り方の大きさまでがわからず、試行錯誤だった。あれこれと思い出すが、それは日常の「普通」が違う者同士が一緒に暮らすのだから仕方がないことだったし、相手はお喋りはするものの言語化がまだ難しい子どもだ。手探りなのは当然だった。また施設育ちの子どもが一般家庭に入って戸惑う事柄については、児相での研修会や先輩里親から聞いていたので心底驚くことではなかった。
 大変ではあるが、なにもかも新しく。
 戸惑いながらも、予想以上にしっかり育っていることに安堵した。
 当時の私も里親の交流会で、「施設がきちんと習慣にしてくれたようで」とノコができることをいくつも挙げ、微笑んでいたように思う。

 なんだか、ほんの少し前の自分を見ているようだ。
 だからこそ、この里母さんのこれからが平穏であることを願ってしまう。
 今、里子さんができていることが施設での暮らしで、無理なく身についているのならいい。子どもも違えば、委託された年齢も違う。この場でちょっと話を聞いただけの私にはわからないことが多過ぎる。
 どうなるかわからない「今」。
 今後ありうるかもしれないことをあえて伝える必要はない。
 新しい生活に慣れることで精一杯のなか、先のことを心配しても里親子ともども負荷が増えるだけだ。
 ただ里子さんが頑張り過ぎていなければいい
 必要以上に「いい子」でいようとしていなければいい
 それが気掛かりだが、新しい環境のなかで里子さんがそう振る舞ってしまう気持ちもわかる。
 里子さんの肩から力が抜けるまで、まだ時間が必要なのだろう。

サポートしてくださると、嬉しいです。いただいたサポートは、ありがたく私の「充電」に使わせていただきます。うふふ♪