「ダメ」といいたくないから、気持ちよく帰るためのひと工夫。
#20240622-421
2024年6月22日(土)
ノコ(娘小5)の習い事が15時過ぎに終わる。
小腹が減っているのはわかるが、ノコは通りにある店が目に入る度に「ポテト食べたい」「ドーナツ食べたい」「おやつ、ないわけ!」と騒ぎだす。その前に家路につきたい。
「ママね、スーパーでバナナ買いたいから付き合ってちょうだい」
そういって、ノコの手を引く。
施設育ちのノコは、幼い頃から大人の用事に付き合う習慣がなかったこともあり、「私は関係ないのに」と嫌がることが多い。不機嫌な子どもを連れて歩くのは、こちらも手間なのでついノコが幼稚園や小学校で不在のうちに済ませるようになってしまった。
自分には関係がないから人の用事に付き添わないという姿勢は、成長するにつれ、今後の友だち関係に差し障りが出そうだ。それに、親の用事に付き添うというのは、社会勉強のひとつでもある。
バナナはあなたも食べるのだから関係あるでしょ、と思いつつもスーパーに入ったらノコがいうであろう「お菓子買って」に先手を打つ。
「おやつ、ひとつ買ってあげるから選んでらっしゃい」
ノコは顔を輝かせ、おやつ売場へ小走りで向かう。
スーパーのおやつのほうが、ファストフード店で何か購入するより安価だ。商品1つならまだしも店に入れば結局飲み物だのを追加してくる。
バナナ、トマトなどをカゴに入れ、私はお菓子売場に向かう。ノコの姿がない。見まわすと氷菓の冷凍棚の前に立っていた。
「どれにするの?」
「えっとね、コレとコレで悩んでる。どっちがいいかな」
価格に無頓着なノコは、高価安価で比較しない。
さりげなーく私は安価な氷菓を指差す。
「これ、夏になるとよく食べていたよね。さっぱりして美味しそう」
のるか反るか。
「じゃあ、コレにする!」
私は心のなかでにんまり親指を立てる。
私よ、Good Job!
ノコは嬉しそうに氷菓を口に運ぶ。
次は、駅ビル内にある雑貨店で化粧水を買いたい。
「ノコさんは、それ食べたいでしょ。食べながらお店のなかには入れないから、ここで待っててね」
こくりとノコがうなずく。
購入する化粧水は決まっている。私は即買い求め、ノコのもとへ戻るべく足早に駅ビル内の通路を歩く。途中、国内外の食品を取り扱っている店舗の前を通る。価格は少し高めだが、近所のスーパーには置いていない商品がそろっており、棚を眺めるだけでもワクワクする。店頭では試飲コーヒーを配っている。普段はブラック派――さらにいえばカフェインレス派の私だが、疲れているときにこの香りと強い甘みにやられてしまう。手が伸びそうになるが、ノコが待っている。
「はい、お待たせ」
ノコはまだ縦長のカップに入った氷菓を食べていた。溶けてもカップなので、駅構内を行き交う人たちを眺めながらのんびり味わっていたようだ。
食べ終えてからでないと、自転車には乗れない。
「ねぇ、ママ、ちょっといつもコーヒー配っているお店を覗いてきていいかな。ほら、あそこの」
ちょうど駅ビルの自動ドアが開き、通路の先にその店が見えた。
「食べ終わったら、来てちょうだい」
ノコは氷菓を頬張ったまま、うなずく。
そそくさと私は駅ビル内へUターンし、先程伸ばしそこねた手を伸ばして、紙コップに入った甘ったるいコーヒーを受け取る。
――家に着いたら、まずはお米を研いで、洗濯物を取り込んで、それから夕飯を作りはじめなくちゃ。座る間もないなぁ。
口のなかには甘み、鼻腔にはコーヒーの香ばしい香りが広がる。棚に並んだ異国情緒あふれる食品にそそられ、つい手が伸びる。
「ねぇ、ママママ、ママママ、食べ終わった」
くいっと服の背を引っ張られ、振り返るとノコが立っていた。
いくつか心魅かれた商品があったが、ここで私が買うとノコも「私もほしい」といいだしてしまう。安価な氷菓が高価な品に化けられては困る。
買わずの試飲は、返報性の原理に逆らうのか後味が悪いが、ノコが気持ちよく動く流れのほうが私の幸福度には重要だ。
――今度、ひとりで来たときにじっくり選ぼう。
「じゃあ、帰ろうか」
私が空になったコーヒーの紙コップを専用ゴミ箱へ入れると、ノコが叫んだ。
「ママ、飲むの、早ッ!」
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