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惚れなおしちゃう!

#20240705-430

2024年7月5日(金)
 ――しまった。
 外に出た途端、そう思った。
 肌がジリジリ焼かれているとわかるほど陽差しが強い。太陽はちょうど頭上にある。住宅街に高い建物はなく、日陰が見当たらない。日の光がアスファルトの路面に照り返し、下からも熱さがあがってくる。
 今から小学校へ里子のノコ(娘小5)を迎えに行く。児童相談所児相で面談があるのだ。
 児相まで片道1時間半かかる。授業を終えてからだと17時の閉所には間に合うが、面談する時間がなくなる。給食を終えたら早退し、まっすぐ向かわねばならない。
 ノコの分の日傘も持ったが、もっと体を冷やすものも持てばよかった。だが、家に戻って用意する時間はない。
 ――今日は、さすがにアイスでも買ってあげよう。
 日傘を広げ、私はインスタント日陰にその身を入れた。

 金曜日ということも失念していた。
 ノコの姿にため息がもれた。
 週末を控え、金曜日は持ち帰る荷物が多い。ランドセルのほかに、体操着、上履き、水筒、おまけに今週は給食当番だったらしく給食当番着。それからプールの授業があったのでプールセット。
 荷物てんこ盛り。最近、身長が伸びたと思ったノコが小さく見える。
 いつもならノコが「重い」「持って」といっても、「自分のものは自分で持ちなさい」というが、今日はさすがにいえない。いくつか持ってあげないと児相にたどりつけない。
 「すごい荷物ねぇ」
 ノコがへにゃりと笑う。
 「さすがに今日はいくつか持ってあげる」
 私は上履きとプールセットをノコの手から受け取る。黄色い通学帽はランドセルにしまい、日傘を広げる。
 「じゃあ、行きますか!」

 学校近くのバス停で小さな日陰に身を寄せる。
 「ねえ、ママ。ランドセル下ろして、座ってもいい?」
 プールの授業もあったこともあり、ノコは既にバテ気味だ。地面に座りたがる。
 「バス、来ちゃうから。立っててチョーダイ」
 バスの来る方向へ目を向ける。
 ――と、見慣れた姿が視界に入った。
 むーくん(夫)だ。
 「ノコさん、パパだよ! ほら、見て、パパ!!!」
 今にもしゃがみそうだったノコがビョンと跳ねた。
 「パパッ! パパッ!! パパァー!!!」
 ぶんぶんと両手を振って、こちらに近付いてくるむーくんに駆け寄る。

 今日、早朝出勤で3時半起床だったむーくんは、必然的に退社時刻も早い。
 ただむーくんの帰宅とノコの早退時刻が同じため、一緒に児相へ行くのは厳しかった。もし帰宅がもう少し早かったとしても、むーくんは3時半起きだ。さすがにこの酷暑のなか、同行をお願いできなかった。
 基本むーくんはロードバイクで通勤している。ぴったりとした自転車ウエアに身を包み、ヘルメットにサングラスという姿は目を引く。
 「ほれ、ここに全部入れろ」
 むーくんが巨大なエコバッグを広げた。ノコのランドセルをはじめ、一切合切入れていいという。大きなカゴがある自転車ならともかく、ロードバイクだ。私ならとてもじゃないが、こんな大荷物を運べない。
 ノコがランドセルからプールセット、上履きなどなど、ためらうことなくすべて突っ込み、身軽になったと飛び跳ねた。
 「それから、これな」
 ノコに小振りなポシェットを手渡す。なかにはキャップ付きのパウチ容器に入ったアイスクリーム携帯扇風機、熱中症対策の塩タブレットが入っていた。
 職場からまっすぐバス停へ見送りに来たのかと思ったら、なんと一度家に寄り、ノコの荷物を持ってきたことに驚く。
 どれだけ、職場から飛ばして帰ってきたの!
 この暑いなか!
 そそくさとノコはキャップをひねり、アイスクリームを吸った。
 「はあああああ、生き返るぅ~!」

 もう! もう! もう!

 子育てをしていて思う。
 子どもの不機嫌も親のイライラも快適でない環境と体調によることが多い。今日なら、荷物の多さにこの暑さ、プール授業の疲れといったところか。
 身軽になり、冷たいものが登場しただけで気持ちが軽くなる。

 もう! もう! もう!
 むーくんったら!
 惚れなおしてしまうじゃないかーッ!

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