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【読書感想文】『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』

(このNOTEは4分で読めます。約3,900文字)
2022年3月にみずほ銀行におけるここ最近のシステム障害に関してまとめた『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』が日経コンピュータから出版されました。

2020年2月に同じく日経コンピュータから出版された『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』を読んでいる私としては、内容にとても興味があり早速購入して読んでみました。

このNOTEでは、35万人の労力と4500億円の巨額を投じたみずほ銀行の勘定系システムMINORIに関するシステム障害について書かれた『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』についての読書感想を書きます。内容の要約でなく、あくまで私の感想ですのでご了承ください。主観的な感想も多くございますので皆さまの広いお心で読んでいただけますと幸いです。

【総評】
オススメ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★★☆

【対象とされる読者層】
・情報システムに関わる全ての方
・システム運用・保守に関わる方

『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』を読んだことがある方にはとても読みやすい書籍だと思います。120分ほどで読了することができました。情報システムの内容になじみのない方は読みづらい内容になっていると思います。システム用語が多く出てくるためそのたびにその単語の意味を調べながら読み進める必要があり、より時間がかかります。

✅1、総評

全体的な印象としては『記者が書いたような書籍だな』と思いました。と言うのも、全体を通して一連のシステム障害の事実について記載されていることが多く、そこから筆者として『どうしたら良いと思うのか』といった示唆はあまり見られませんでした。

どちらかというと、今まで取材してきた内容とみずほ銀行が公に発表している報告書の内容を抜粋して書籍にしたようなかたちです。

とはいえ、とても詳しく書かれています。事実ベースでどのようなことがあったのか把握したい方には良い書籍だと思います。ただ、欲を言えば『どのタイミングで何をすべきだったのかと言う提言がもっと欲しい。』と思いました。

最後の章に『おわりに』という章がありますが、この章が唯一筆者の想いが込められている場所だと解釈しました。具体的には、GAFAをはじめとした巨大IT企業の『失敗からの学び』という文化を見習った方が良いという内容が書かれています。これが、筆者の『どうすべきだと思うのか』という想いの部分なのだと思います。事実の羅列よりもそういった主観的な内容がもっと知りたい書籍でした。

Amazonレビューには『この本こそ突貫で作ったのか』という意見が出てきますが、私もそう思いました。

例えば、『第5章 障害を繰り返すみずほ銀行のシステム、その歴史を紐解く』で第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行の統合から新システム開発に至るまでの歴史が記載されていますが、これを書くべきは第5章ではなく第2章あたりかと思います。3つの銀行の統合とこのシステム障害の背景は密接に関係しているからです。

また、『第2章 行内で何が起きたのか、システム障害の真相』では『(3月12の問題点5)』など各トラブルの問題点が示されているにもかかわらず、その問題点に対応する原因・解決策が明示的に示されていません。

こういったことからも突貫工事感が出ているのだと思います。


✅2、印象に残った内容と感想

2ー1、第1章 前代未聞、12ヶ月で11回のシステム障害

第1章では、2021年2月から2022年2月までの12ヶ月間で発生したみずほ銀行の勘定系システムMINORIに関する一連のトラブルが1つ1つ紹介されています。

1回目のシステム障害発生時に電話対応用のオペレーターが東京と大阪で合計8人いたことなど、具体的な数字が多く具体的にイメージしやすかったです。

とはいえ、内容は公表されているものを時系列順に並べているものですので、あくまで今までの一連の流れを再確認するような章でした。

第1章 前代未聞、12ヶ月で11回のシステム障害より

2-2、第2章 行内で何が起きたのか、システム障害の真相

第2章では、第1章で記載されているトラブルの一連の流れの詳細が記載されています。システムよりの単語が多く出てくるため、システム開発や運用の知識がない状態で読み進めると理解しにくい内容かと思います。分からない単語は調べつつ読み進めていくのが良いと思います。

Amazonレビューにも記載されていましたが、本書は批判めいた書きっぷりの文章が多いです。第2章から批判めいた言葉が出てきます。

通常の組織では起こり得ないような問題が多数発生したことによって、

第2章 行内で何が起きたのか、システム障害の真相より

このような記述が出てきますが、IT業界にいる身として、『通常の組織』とは何を指しているのか疑問ですし、本書で紹介されている人為的ミスなどの問題点は『通常の組織』こそ起こり得る気もします。

2-3、第3章 なぜ障害は拡大した、15個の疑問点

この章では、下記15個の疑問に関してシステム的な解説がなされています。システム用語が連発するので、その知識がないと読みづらい章かと思います。原因は詳細に書かれていますので、システム開発関係者は参考になる部分が多いかと思います。

・疑問1:なぜデータベースは更新不能になったのか
・疑問2:なぜDBの更新不能がATMのカード取り込みにつながったのか
・疑問3:なぜ「二重エラー」が発生したのか
・疑問4:なぜ一度減ったATMのカード取り込みが急増したのか
・疑問5:なぜ警告やエラーは見逃されたのか
・疑問6:なぜ障害の規模や原因を見誤ったのか
・疑問7:なぜ頭取に情報が届かなかったのか
・疑問8:なぜ営業店での顧客対応が遅れたのか
・疑問9:なぜe-口座への一括切り替え処理を2~3月に実施したのか
・疑問10:なぜインデックスファイルをメモリーに置いたのか
・疑問11:なぜインデックスファイルのリスクを見逃したのか
・疑問12:なぜSOAなのに被害が拡大したのか
・疑問13:2月28日はどの不手際が致命傷になったのか
・疑問14:8月20日はなぜDBをすぐに復旧できなかったのか
・疑問15:なぜハードウエア障害が頻発したのか

事実が淡々と記述されている章ですので『自分だったらどうしたら良いと思うか』という観点で読むのが良いと思います。

2-4、第4章 金融庁が分析する「原因」「背景」「真因」

この章では、システム障害や法令違反の原因がどこにあったのかについて金融庁や財務省の見解が書かれています。

書かれている内容自体はとても真っ当で正しいものです。自分自身がシステム開発に携わるとしたら必ず盛り込まなければならない観点だと思いますので個人的には一番勉強になった章です。

2ー5、第5章 障害を繰り返すみずほ銀行のシステム、その歴史を紐解く

この章では、第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行の統合によりそれぞれの銀行ごとにもっていた情報システムをどのようにしていくのか、どこかの銀行システムに片寄せしていくのか、統合していくのか、それとも各情報システムのつなぎの役割をするシステムを新たに開発するのか、その流れが書かれています。

ただ、『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』に書かれていることがそのまま書かれている程度なので、こちらを読んだことがある方は読み飛ばしてしまって良いと思います。

2ー6、第6章 なぜみずほ銀行でだけ、何度も障害が起きるのか

この章では、国内の他銀行や海外の銀行でのシステム障害の例が登場します。イギリスでのシステム障害の事例が大きく取り上げられていますが、ニュース記事の長文版が記載されている程度で、あくまで事実ベースの内容が書かれているのみです。

みずほ銀行と国内の他銀行の違いは下記表に集約されていました。

2-7、第7章 みずほ銀行は立ち直れるのか

この章では、みずほ銀行が発表した再発防止策が記載されていますが、HPでプレスリリースされている内容から抜粋した程度の内容でした。

上記HPで公表されている『【別紙1】株式会社みずほ銀行の業務改善計画』が大元の資料です。

2-8、おわりに

この『おわりに』に筆者の『みずほ銀行はどうすべきなのか』という示唆が書かれています。とはいえ、GAFAをはじめとした巨大IT企業の『失敗からの学び』という文化を見習った方が良いという割と当たり前の事しか書かれていないため、もっと詳しく筆者がどう思うのかということを書いてほしいなと思いました。


✅3、書籍紹介

※冒頭部分に記載した内容を再掲します。

【総評】
オススメ度:★★★★☆
読みやすさ:★★★★☆

【対象とされる読者層】
・情報システムに関わる全ての方
・システム運用・保守に関わる方

『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』を読んだことがある方にはとても読みやすい書籍だと思います。120分ほどで読了することができました。情報システムの内容になじみのない方は読みづらい内容になっていると思います。システム用語が多く出てくるためそのたびにその単語の意味を調べながら読み進める必要があり、より時間がかかります。

過去の読書感想文はマガジンでまとめております。ぜひ読んでみてください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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