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「自己肯定感ハラスメント」にご用心!

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。

「森上さん、今の社会状況、このままだと日本人の心がどんどん病んでいくことになるよ」

日本で随一のスポーツドクターとして知られる辻秀一先生からご連絡をいただいたのは、コロナ禍真っ只中、昨年2021年1月のこと。

コロナ前からその予兆はあったようなのですが、コロナ禍で噴き出てきたもの――。それは、「自己肯定感」至上主義の社会で苦しむ人たちでした。

「自己肯定感」という言葉が一般化したのは、5~6年前ぐらいでしょうか。やみくもに「自己肯定感を上げる」ことが絶対的にいいこと、という空気が日本社会に蔓延。その結果、「自己肯定感アップ=正義」という間違った構図ができあがり、そのギャップに苦しむ人が急増したと言います。辻先生のところにも、「自己肯定感ハラスメント」で苦しみ、助けを求める問い合わせが絶えないとのこと。

そんな日本社会に蔓延する「自己肯定感」至上主義の脱却をすすめるべく、その警鐘とともに、その対処法をまとめた新刊『自己肯定感ハラスメント』2月10日(Amazonは2月9日)に発売されます。

そこで今回は、同書発売に先立ち、同書の「はじめに」「目次」を全文公開します。

はじめに──「自己肯定感」至上主義社会からの脱出

 巷には「自己肯定感」という言葉があふれています。
「〇〇さんは自己肯定感が低い」
「もっと自己肯定感を上げないと」
「自己肯定感を高めるべき」
「自己肯定感の低さが問題だ」
 などなどです。
しかし、はっきり言って私はその自己肯定感への執着と、その至上主義の風潮を苦々しく思います。
 なぜなら、私自身もですが、肯定できないものもあるし、そのために成功体験を積まなければならないという考えには、どうしても苦しさやしんどさを覚えてしまうのです。まして、それが幸せで自分らしい生き方へと導いてくれるのか、疑問を持たざるをえないのです。あなたはいかがでしょうか? そう感じませんか?
 私は、スポーツドクターとしてアスリートたちのメンタルサポートする仕事をしていますが、「自己肯定感を上げて、自信をつけて、頑張る」という構造がジュニア時代から拡大していて、彼ら彼女たちがそのために結果や成功だけを追い求められ、かえって苦しんでいるようなシーンがよく見受けられます。実はそれでは勝てません。
 それは、ビジネスの世界でも教育の社会でも、同じようなことが起こっており、自己肯定感至上主義の風潮は、私たちを決して幸せにしていないのではないかと強く思わざるをえません。
 いつどこで、この自己肯定感の呪いに社会が陥ってしまったのでしょうか?
 その至上主義社会から身を守り、解放するために、どのようにすればいいのか?
 そのあたりを、私の専門分野である脳と心の視点から人間の構造を基に本書で解説していきたいと思います。

 かく言う私自身もそんな世界の中で、有名私立中高一貫校で勉強も、医学部時代のスポーツも、医師国家試験を合格して研修医時代のハードな仕事も、超頑張ってはいましたが、どこか息苦しさを感じていたように思います。試験や試合や困難な仕事を突破していても、そこにはいつももっと優秀な人たちは存在するし、より優れたアスリートはいるし負けるし、頑張っても、頑張っても、勤務する病院で人は亡くなるという経験を通して、幸せに生きるとは何かを考えさせられていました。
 医者としてもようやく一人前になりかけた30歳を過ぎたころ、そんな私に人生を変えるキッカケとなる出来事が起こりました。
 それは「パッチ・アダムス」という1本の映画を観たことでした。当時からロビン・ウイリアムズという俳優が好きだったのですが、彼が主演する実在のドクターパッチ・アダムスを演じたノンフィクション映画です。
 テーマは「Quality Of Life」。人生には質があることを教えてくれるストーリーで、それが当時の私にはものすごく心に刺さったのです。それまでは「質」など考えたこともなく人生を過ごしてきて、思考の質、行動の質、時間の質などは見えないけれど、本当はいつでもどこでも確実に存在しているのだとわかったのです。
 ラッキーなことに、本物のパッチ・アダムス氏が来日し、講演会が開かれ、私も会場に足を運びました。内容の詳細はもう30年近く前のことなので忘れてしまっているのですが、覚えていることが2つあります。
 1つは、すべての質をつくり出しているのは自分自身の心持ちなのだということ、もう1つは、幸せか幸せでないかは外側の条件ではなく、自分自身がそう感じるかどうかで決まるのだということ。
 自分自身の心持ちとか、自分自身の感じ方が大事なのだという言葉が印象的で、講演会場のパシフィコ横浜から東京の自宅に帰る途中、「自分自身って何?」「心持ちとは?」「感じ方と言われても……」といったことが頭の中をぐるぐると回り続けていたことを思い出します。
 今回の本書のテーマで言えば、自己肯定感は自分の外側にある条件や評価・常識・比較などによってつくり出されるもので、そこには真の幸せはなく、自分自身や内側にある心持ちや感情などの存在に目を向けて、「自己存在感」を持つことそのものが幸せなのだということです。
 漠然とそう感じてから、内科医を辞め、自分自身を見つめ、内観して、心を整えて質高く生きることの大切さを社会に伝えるべく、今の活動をするようになりました。
 今回、このような自己存在感についての私の思いや考えを皆さんにお伝えできることを心より感謝申し上げたいと思います。そして、自己肯定感の呪縛に陥り、苦しんでいる方々に、すべての人が誰でもが持っている「自己存在感」というすばらしさに気づいていただければ幸いです。
 例えば、自己肯定感を高めるために見栄を張り続け苦しんでいる人が、自己存在感の基に生きられるようになれば、見栄など不要な人生になります。
 自己存在感は、特別なものではありません。自身の持つ〝ある〞への〝気づき〞さえあれば、すべての人にそもそも備わっているものです。
 自己肯定感だとなぜ苦しくなるのか、そして、自己存在感の考え方、自己存在感の感じ方をわかりやすくお伝えしていきたいと思います。ぜひ今までのご自身の生きてきた道のりを振り返りながら、読み進めていただければ幸いです。


【目次】

第1章 「自己肯定感」が私たちを苦しめている

◎「自己肯定感」が私たちに強要していること
◎「自己肯定感を上げるために頑張る」という苦しみ
◎「自己肯定感」がハラスメントを生んでいる
◎SNSでの誹謗中傷の背景にあるもの
◎マウンティングは、自己肯定感維持のため
◎「ただ自分であればいい」という発想
◎自己肯定感に執着しない、マウンティング不要な生き方
◎社会的課題は、自己肯定感への妄信が生み出している
◎世界や人類が「自己肯定感への妄信」の限界に気づき始めている

第2章 なぜ「自己肯定感」にすがるのか?

◎人類が得た「認知的思考」が生んだ欲求
◎認知的思考をさらに強化させる教育システムの弊害
◎「成功体験」という呪縛
◎自分を幸せに導く成功、苦しめる成功
◎「承認欲求」のアリ地獄──飽くなき他者依存への道
◎承認欲求による自己肯定感は、いずれ自己顕示欲に転嫁する!?
◎自己肯定感より自己存在感のほうが生きやすい理由
◎メジャー正義の苦悩
◎マイノリティにおける「自己存在感」デザイン
◎「他人の目」「期待」という檻
◎他人がつくったドラマを演じる自己肯定感なんて偽物
◎必要なのは、自己肯定感より自己存在感
◎優劣と上下の格差──映画「JOKER」からの推察
◎肯定とポジティブ至上主義

第3章 「自己存在感」が人を輝かせる

◎なぜ「自己存在感」より「自己肯定感」が広まってしまったのか?
◎自己肯定感の呪縛に陥っていることに気づいていない
◎「存在」の反対は……ない!
◎自分に〝ある〞を見る
◎「let it be」と「let it go」で生きる
◎「it」が何を指すかで、意味が変わる
◎「信じる」がエネルギーとなる
◎「自分を信じる」を育むコツ
◎ネルソン・マンデラが教えてくれる「自由」
◎「心」という自由こそ、生きるためのエネルギーの源泉
◎自分の価値基準は、どこで、どのように形成されるのか?
◎「自分」という会社の経営をする
◎「後天的スキル」磨きには、終わりはない
◎「後天的スキル」を追いかけるのではなく、「先天的スキル」に気づこう
◎「DX」とともに必要なもの
◎SDGsの実現に必要なのは、「自己肯定感」ではなく「自己存在感」

第4章 どうやって「自己存在感」を持つのか?

◎成功と失敗で考えると、失敗がほとんど!?
◎苦しくなる「夢」、自分らしくいられる「夢」
◎「認知的な脳」の功罪
◎「非認知脳」の役割
◎認知脳と非認知脳を徹底比較
◎「内観」のすすめ
◎「感情」の表現、わかっていますか?
◎「内発的動機づけ」を醸成する──「好き」というエネルギーの源泉
◎「好き」を大切にすると、不機嫌にならない
◎生きる目的は、この問いから始まる
◎「生きる目的」と「生きる意味」の違い
◎「自分を見つめる」習慣
◎世界的なコーチが提唱する「6つのニーズ」からのヒント
◎「どうありたいのか」で生きる
◎自分がしっくりする「Being」
◎非認知脳とサウナやキャンプ
◎己事究明、為人度生
◎1日に8万6400回のチャンスがある──「今に生きる」
◎今〝ここ〞の自分ができることに全力を注ぐ──「〝ここ〟の自分」
◎他者やまわりではなく、自分に意識を向ける──「自分の心を自ら守る」
◎「今ここ自分」で生きると、思わぬギフトがやってくる
◎非認知性を育むトレーニング
◎【事例1】クラシック演奏家
◎【事例2】保険会社のトップ営業マン
◎【事例3】オリンピックを目指すアスリート
◎【事例4】ホワイト企業経営にシフトした企業
◎【事例5】ノーマライゼーションによる社会づくり
◎【事例6】ユース世代の保護者へのアプローチ
◎【事例7】高校生のための企業を巻き込む取り組み
◎【事例8】小学生のための大学ごきげん学部
◎【事例9】パラリンピアンの葛藤

第5章 生育歴が大きく影響する

◎指示」の声かけの功と罪
◎「支援」の声かけ── 自己存在感を育む声かけとは?
◎一緒に会話・対話して、体感しながら気づかせる
◎「成功依存型の子育て」から「成熟を重んじる子育て」へ
◎「一生懸命を楽しむ」ことができるか?
◎「遊び感覚」が質を高める
◎自己存在感を育む試み
◎「褒める」は、なぜ自己存在感を育まないのか?
◎自己存在感を育む、最強の声かけ
◎「褒める」と「感謝」の大きな違い
◎「応援」と「期待」を混同してはいけない
◎今からでも誰でも大丈夫!

終 章 「あとがき」に代えて、本書のまとめ

◎認知的思考の「自己肯定感」、非認知的思考の「自己存在感」
◎認知的思考の社会だからこそ、非認知的思考を意識しよう
◎認知的思考のキーワード、非認知的思考のキーワード
◎セルフで自己存在感を育む練習

【著者プロフィール】
辻󠄀 秀一(つじ・しゅういち)

スポーツドクター。産業医。株式会社エミネクロス代表取締役。
1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業。慶應義塾大学スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。1999年、QOL向上のための活動実践の場として、株式会社エミネクロスを設立。応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織の活動やパフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生み出すため、独自理論「辻メソッド」で非認知スキルのメンタルトレーニングを展開。子どものごきげんマインドを育む「ごきげん授業」を日本のトップアスリートと展開する「Dialogue Sports研究所」の代表理事を務める。著書に『スラムダンク勝利学』『ゾーンに入る技術』『禅脳思考』『自分を「ごきげん」にする方法』他多数。

今回ご紹介した2月10日(Amazonは2月9日)発売の新刊『自己肯定感ハラスメント』では、著者・辻秀一先生がスポーツドクターの視点から、自己肯定感ハラスメントからどのように脱出し、どのように対処していけば自分の心の健康を守ることができるのかについて丁寧に解説いただきました。興味のある方はチェックしてみてください。



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