見出し画像

書籍編集者が「これだけは譲れない」と思うポイント

フォレスト出版編集部の寺崎です。

さきほど、Voicyのハッシュタグ企画「これだけは譲れない」をテーマに収録をしました(明日8月2日に放送されます)。

Voicy「フォレスト出版チャンネル」は出版社の編集の立場からの発信というものを意識しており、正確には「書籍編集者としてこれだけは譲れない」というテーマになるかと思います。

せっかくなので(担当新刊がなくてnoteに書くネタがないので)、Voicyで話したことをここで改めてまとめてみたいと思います。

これだけは譲れないポイント① 書籍タイトル

書籍タイトルの話はこちらのnoteでもたびたび登場しますが、タイトルは関係者それぞれの個々の「想い」があるため、タイトル決定はいちばん揉めがちなポイントでもあります。

タイトルは商品の名前です。

ここを間違うと売れないし、うまくいけば売れる。

でも・・・問題は「正解がない」ということです。

一応、法則らしきものは見いだせるっちゃ見いだせるのですが、その通りにやれば「確実に売れる」なんて甘いものじゃあありません。

そんな黄金法則があれば、100万円でも売れるかもしれません。

▼参考記事はこちら

タイトルには「流行」「傾向」があります。

すごい意図的に長々と説明したタイトルが流行る時期もあれば、「●●の法則」「●●の技術」といったパターンがブームとなる時期も。

なんとなく最近はすーっと入ってくるシンプルなタイトルが多い気がします(当社比)。

8月1日現在のAmazon総合ランキングTOPのタイトルを拾ってみます(フィクション・ムックは除く)。

『死なばもろとも』
『ありがとう そして サヨナラ 安倍晋三元総理』
『22世紀の民主主義』
『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』
『お金の大学』
『70歳の正解』
『禁断の中国史』
『ルポ 誰が国語力を殺すのか』
『血流ゼロトレ』
『ジェイソン流お金の増やし方』
『80歳の壁』
『日本人の真価』

いかがでしょうか。パっとタイトルをみてだいたい内容が想像できるタイトルが多いような気がしませんか。

上に記事リンク「売れるタイトルには法則があるか?」で紹介した「の」の法則にカテゴライズされるタイトルが12冊中6冊(半分!)もランクインしています。

『22世紀の民主主義』
『お金の大学』
『70歳の正解』
『禁断の中国史』
『80歳の壁』
『日本人の真価』

『日本人の真価』なんて、日本人ゴコロをくすぐる、いいタイトルだなー。

で、最初の話に戻ると、タイトルをめぐって著者と担当編集者の意見が異なるケースも往々にしてあるわけです。

でも、タイトルに限っては「これだけは譲れない」、いや、譲ってはいけない。ここは著者に日和ってはいけない。

だから、「なぜ、このタイトルがベストなのか」について、できるだけ客観的な材料をひたすらかき集めて著者の説得にかかります。

①売れているタイトルの実売データ(だから売れるんです!に使う)
②売れていないタイトルの実売データ(だから売れないんです!に使う)
③営業マンの現場の意見
④書店員さんの意見

③④はいささか客観性に欠けますが、少なくとも「俺(=担当編集者)だけが推してるわけでない」というほのかな客観性ムードを醸成させることができます。

とにかく材料を最大限利用して著者を説得させるのが、タイトル決定における書籍編集者の仕事といっても過言ではありません。

これだけは譲れないポイント② カバーデザイン

以前勤めていた版元の先輩にこう言われたことがあります。

「寺崎くん、出版社が在庫リスクを抱えるんだから、タイトルとカバーデザインは出版社の専売特許なんだよ。もちろん著者さんのご意向も十分に尊重しながらね。でも、最終的な決定権はこっちにあるからね。商品が売れなかったら君の給与にも反映するんだから」

なるほど、たしかに制作費用も出版社が負って、在庫リスクを抱えるのも出版社です。なるほどなぁ~と妙に納得した記憶があります。

だから、著者には最終的にはこういう説明をしてご納得いただくことになります(ここまで説明して説得することは稀ですが)。

タイトルと同様に揉めがちなのが「カバーデザイン」です。

タイトルは言語だから判断基準がはっきりしていますが、カバーデザインは視覚的ジャンル、はっきりと言語化できない曖昧な世界なので、タイトルよりやっかいかもしれません。

「なんとなく、コレジャナイ」

著者から伝えられる、こういったふんわりした否定がいちばんキツイです。

「書体を変えてほしい」
「基調カラーがイメージと違う」

こんな風に具体的に指示出ししてくれるほうがよっぽど助かります。

よくあるのが、著者のコミュニティで多数決を取って「C案がいちばん好評でした」というやつ。

これがたいへん曲者でして、著者のコミュニティには著者を慕うひとたちが集いますから、朱に交われば赤くなるじゃないですけど、どこか「同質」なひとたちが集まる傾向が強いと想像されます。

つまり、本づくりにおいていちばん大事な「読者目線」から大きく乖離するケースが少なくないわけです。

本づくりには不思議なエネルギーの方向性というか、得も言われぬ「何か」があるように思います。企画した段階からそのエネルギーは一つの方向に向かって突き進んでいくわけですが、途中までうまく二人三脚してきた著者と編集者が、タイトル決定、カバーデザイン選定の段階でぶつかりあうと、そのエネルギーが途端に弱まる感じがするのです。

エネルギー、波動が一瞬濁るというか。

うーん・・・なんかちょっとスピってますね。笑

でも、そうなんだから仕方ない。

いちばん最高なのは、著者は編集者を「本づくりのプロ」として尊重し、編集者は著者を一人の才能として尊重しあう、相思相愛の関係です。

編集者をプロフェッショナルとして全幅の信頼を置いてくれる場合、なんならタイトルもカバーもぜーんぶお任せしてくれるケースがあります。実際、そういう場合のほうが売れる確率は高いと実感しています(同僚編集者も同意してくれました)。

とまあ、長々と書き連ねましたが、私も駆け出しのころは自信がなく、生まれて初めて1冊の単行本を担当したときは、不安のため、いちいち著者さんに「これこれこういうタイトルでいこうと思うんですが」「カバーデザインはこういう感じにしようと思うんですが、どうでしょうか?」なんて相談ベースで尋ねていたことがあります(著者さんがベテラン著者だったため)。

そのときにビシッと言われた一言が今でも忘れられません。

「寺崎さん、タイトルとカバーデザインは編集者さんが決めることですよ?著者にお伺い立てちゃダメ」

「え、そ、そうなのぉ・・・?」と当時は納得いかない部分がありましたが、いまではその著者さんの言う通り「編集者が責任を持つところ」であると実感します。

最後に。

どうしても著者さんが納得いかない、最後の最後まで編集者の案に乗ってこない。そんなときに言い放つ一言があります(これまで幸いにして言ったことはないですが)。

それが・・・「こちとら自費出版じゃねえんだぞ!」
(よい子のみなさんは真似しないように)

というわけで、Voicyハッシュタグ企画「これだけは譲れない」をめぐってつらつらと書いてみました。

それでは。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?