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売れるタイトルには法則があるか?

フォレスト出版編集部の寺崎です。

本づくりにおいて「タイトル」は超重要と言われますが、いつもたいへん頭を悩ます課題でもあります。

「全帯」でふたたび目立つ場所に押し出す作戦

ネタばれになりますが、2018年に刊行した『なぜかうまくいく人のすごい無意識』という担当書籍の帯替えをすることになりました。帯替えといっても、普通の帯ではなく、天地がカバーと2mmしか差がない、いわゆる「全帯」と我々が読んでいるものです。

たとえば、これが石井裕之さんの『「心のブレーキ」の外し方』のもともとのカバー↑

これを「40万部突破の全帯仕様」で帯替えしたのがこちら↓

デザイン:tobufune

こんな感じの女性向け帯もつくりました↓

デザイン:tobufune
イラストレーション:福田 玲子

全帯の利点は「デザインを変えられる」ことに加えて、もっと重要なのが「タイトル以外の要素を立たせることができる」「ことがあります。

全帯のメインキャッチフレーズを考える

そんなわけで『なぜかうまくいく人のすごい無意識』の全帯は「タイトルではなくキャッチコピーを立たせる」ことを狙っています。

デザイン:tobufune
イラストレーション:芦野公平

元々のカバーはこちらです、全帯では「無意識」というワードを弱めることで対象読者を広げようという作戦です。

で、タイトル案を考えました。

『なぜかうまくいくすごい無意識』全帯キャッチ案

①なぜかうまくいく人が無意識にやっていること
②なぜかうまくいく人が、なぜかやっていること
③あの人はなぜ、なんでもうまくいくのか?
④なぜあの人は、なんでもうまくいくのか?
⑤うまくいっている人がなぜかやっていること
⑥うまくいっている人はこれをやっている
⑦うまくいく人の頭のなか
⑧うまくいく人が無意識にやっていること
⑨うまくいく人がやっていること
⑩うまくいく人 うまくいかない人

ただの「うまくいく」のバリエーションになってしまいました。汗

営業部と相談したところ、こんな意見がもらえました。

「もともとの帯にある『すべて思い通りになる』をドーンと大きくいれたらどうですかね?ちょっと怪しいけど、インパクト出そうじゃないですか?」

うん、たしかに、『すべて思い通りになる』なんて大振りなタイトルの書籍はありません。さっそく営業部にアイデアに乗ることにしました。

売れるタイトルには「の」が必ずある?

さて、タイトルに関して、最近読んだ本がありましたので、その内容をちょこっとお伝えしようと思います。

こちらです。

コピーライターの川上徹也さんが書かれた『すごいタイトル㊙法則』(青春新書)。

この本では書籍、映画、テレビ番組など、売れたタイトルを分析して「13の法則」にまとめていますが、そのなかで「の」の法則と呼ばれるものはすごく思い当たる節がありました。

 日本が誇るアニメーション制作会社といえば「スタジオジブリ」です。
 ジブリ映画で製作担当をつとめた日本テレビの奥田誠治プロデューサー(当時)が、ジブリ映画のタイトルに使われるある法則を発見して、2004年の読売新聞のインタビューで提唱したことがあります。――それは「の」の法則です。
「の」の法則とは、「宮崎駿監督の映画作品のタイトルには必ずひらがなの「の」の字が入っている。それがヒットの秘訣になっているのかも?」というものです。
 確かに、奥田さんが提唱した2004年当時、『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』など、ヒットしたジブリ映画には必ず「の」が入っていました。そして『もののけ姫』のタイトルにも大きな影響を与えたといいます。
 もともと『もののけ姫』という企画は、宮崎監督が以前に描いたイメージボードを元ネタにした同タイトルの絵本から生まれました。その絵本のストーリーは「森へ迷い込んだ一人の武士が山猫の化け物(もののけ)と出会い、自分の娘を嫁にすると約束することで命を助けてもらう。その結果、武士の娘はもののけに嫁いでいき、やがて愛情が芽生えていく」というもので、完成した映画版とはまったく違う内容です。「美女と野獣」ならぬ「もののけ」と「姫」のお話でした。
 当初はこの絵本をもとに映画製作を検討していました。しかし、なかなか構想がまとまらないことから、この原案は捨てることになり、仮タイトルは『もののけ姫』のままゼロからストーリーを構築することになりました。
 その後、当たらなストーリーが組み立てられていき、着々と映画製作が進行します。終盤にさしかかった頃、宮崎監督は鈴木敏夫プロデューサーに「この映画の主人公はアシタカであり、サンではない。『アシタカ聶記(せんき)』にしよう」とタイトル変更を申し出ました。
 しかし、鈴木プロデューサーは『アシタカ聶記』がしっくり来ず、『もののけ姫』のままのほうが興行的に成功すると考えました。
 さらに前述した日本テレビの奥田プロデューサーも、「の」が入っているという理由で『もののけ姫』というタイトルを推しました。そこで、宮崎監督には内緒で、「次回作は『もののけ姫』」と特報を流すことにしました。強行発表で既成事実をつくろうと考えたのです。
 宮崎監督はその事実をあとから知って「鈴木さん!『もののけ姫』でタイトル出しちゃったの?」と問い詰めますが、鈴木プロデューサーは平然と「はい、出しましたよ」と答えたのでそれ以上強くいえなかったそうです。そのことから、タイトルの由来を質問されたとき、宮崎監督は「鈴木さんに聞いてくれ」と自分では答えませんでした。

川上徹也『すごいタイトル㊙法則』(青春新書)

「の」が使われたタイトルがヒットするケースはジブリ作品に限りません。

『鬼滅の刃』
『巨人の星』
『あしたのジョー』
『あつまれどうぶつの森』
『アナと雪の女王』(原題は「Frozen」)
『君の名は。』
『天気の子』

「いちご大福」の法則とは?

 さて、最もヒットした教養新書をご存じでしょうか?
 2003年に発行された、解剖学者の養老孟子著『バカの壁』(新潮新書)です。累計発行部数は450万部を超えており、教養新書では平成で一番売れた本です(全ジャンルの本でも3位)。
 この『バカの壁』というタイトルも、「の」の法則に則っています。
 さらにいうと、「バカ」と「壁」は普通では合わない言葉であり、「いちご大福」の法則にもなっている好例です。

川上徹也『すごいタイトル㊙法則』(青春新書)

「いちご大福」の法則とは、「いちご」と「大福」という異物を組み合わせた「いちご大福」のように、タイトルの前半と後半をまったく合わない言葉で組み合わせることで不思議な化学反応を生み出す法則として、この本では詳細に分析されています。

【「いちご大福」の法則を使った広告コピーの例】
おいしい生活。
本読む馬鹿が、私は好きよ。
サラリーマンという仕事はありません。
ココロも満タンに
恋を何年、休んでますか?
諸君。学校出たら、勉強しよう。
日本を休もう

【書籍タイトルの例】
嫌われる勇気
ざんねんないきもの事典
下町ロケット
ホームレス中学生
プラトニック・セックス
狼と香辛料
宇宙兄弟

【映画・テレビ番組】
セーラー服と機関銃
美女と野獣
少林サッカー
恋する惑星
ドラゴン桜

【楽曲】
残酷な天使のテーゼ
丸の内サディスティック
うれしはずかし朝帰り
LOVEマシーン
寂しい熱帯魚
勝手にシンドバッド

このようにいろいろと面白いタイトルのい法則が13パターンにまとめられています。

【「すごタイ」13の法則】
①「いちご大福」の法則
②「の」の法則
③「もしドラ」の法則
④「プレバト」の法則
⑤「パワーワード」の法則
⑥「なったらいいな」の法則
⑦「数字は奇数」の法則
⑧「さおだけ屋」の法則
⑨「しなさいするな」の法則
⑩「お名前+α」の法則
⑪「ん」の法則
⑫「ゴロリズム」の法則
⑬「色キュン」の法則

読んでいて「なるほどなるほど」と納得できる発見がたくさんあって、ありとあらゆるタイトルづくりの参考になります。おすすめです。

この本を書かれた川上さんはフォレスト出版からも1冊出されています。こちらもおすすめです。


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