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【本づくりの舞台裏】企画アイデアの探しかたとアウトプットのコツ

フォレスト出版編集部の寺崎です。

以前「【本づくりの舞台裏】企画が通る・通らない問題」という記事で年間50本程度の企画書を提出するなんて話をしましたが、これは単に「企画会議に提出する本数」で、実際にはボツになったお蔵入りアイデアが死屍累々なわけです。

編集者は「企画のアイデア」を形にして飯を食っているので、アイデアがわかないと生活が立ち行かなくなる。

じゃあ、そのアイデアはどうやって生み出すのかというと、企画になりそうな材料(ネタ)を日々探すほかありません。

企画のアイデアはどこから集めてくるのか?

将来ベストセラ―になって大化けするかもしれない企画アイデアは、大別して次の2つのソースから生まれる。

(A)人
(B)モノ・コト

「人」つまり著者起点にアイデアを練るか、「モノ・コト」つまりネタ起点かについては、人によって傾向が異なる。どっちがいい悪いはありません。

ほぼ100%に近い形で「著者」から企画を練るタイプもいれば、「企画ネタ」を起点に著者を探すタイプもいる。自分の場合は3:7ぐらいの割合で、「企画ネタ」起点が多い気がします。

(A)「人」から企画アイデアを探すパターン

この場合、とにかく人と会うこと。取材ですね。文字通り「材」を取るために人と会う。プライベートで業界外の知人と会ったときも、仕事モードで情報収集します。

ただし、漫然と人に会うだけだと、なかなか良質な「材」をつかむことはできない気がする。自分のなかでいくつか「テーマ性」を持っていたほうが、不思議と情報が引き寄せられる。

『週刊文春』の編集長を務め、数々の雑誌で活躍した花田紀凱さんは、「情報源としての人と良き人間関係を拡げ、維持していく」ために心掛けていた3つのことがあるそうです。

①1日3人、未知の人に会って話を聞く
これは文藝春秋の現会長(原文ママ)田中健五さんが現役編集長時代のモットーでした。何とかまねようとしたのですが、結構むつかしい。編集長ともなれば、むろん1日3人以上の人には会います。パーティなどに出れば、20人以上の人たちと名刺交換することもある。名刺ホルダーには、ぼくの場合、1年で約1500人の名刺がたまります。しかし、「未知の人」「話を聞く」というのがくせもので、やってみると難しさがわかる。しかし、実行すれば得るところ大です。

②手紙を書く
(中略)
あるとき編集後記に草花のことを書いたことがあり、その中で「雑草」という言葉を使ったのです。すると杉並に住む老人からハガキが来た。
「昭和天皇もおっしゃっていたことですが、雑草という草はありません。もし草の名がわからなかったなら、せめて『野草』と書くべきです」
なるほど、と思いました。思ったらすぐにお礼の手紙を書けばいいのですが、忙しさにまぎれて遅れた。やっと返事を書いたのが、2ヵ月くらい経ってからでした。すると、その老人から、すぐにまた返事が来たのです。
「遅ればせの返事、ありがとう。返事がないので、この間、『週刊文春』の購読を止めておりましたが、次号より、また再開します」
危うく、読者をひとり失うところでした。

③人間関係の基本はギブ・アンド・テイク
ドライなことを言うようですが、人間関係を長続きさせるコツはこれに尽きる。情報にしろ何にしろ、いつももらってばかりでは、相手も、いい加減にしろと言いたくなる。ときにはこちらから何か教えてあげるとか、相手にギブすることが必要です。
               
CWS編『編集者になる!』(メタローグ)より

「1日3人、未知の人に会って話を聞く」はかなりハードルが高いけど、ここまでストイックな縛りじゃなくても、ノルマを自分に課すのはかなり有効だと思います。たとえば「週に1人は新しい人に会う」とか。

キーパーソンをつかまえることができると、さまざまな人を紹介してもらえたりして、芋づる式に著者の輪ができるケースもあるので、やっぱり大事です。

「手紙を書く」は、いまだったらメールの返信問題でしょうか。

「忙しい人ほど、即レス」の法則があります。ある著者さんは「返信は24時間以内」とご自身で標榜してて、実際にいつも即レスで、それなのに次から次へと新刊を書かれていて、「忙しい人ほど、即レス」の典型でした。

「メール既読スルー」「メッセンジャー既読スルー」は信用貯金を失います。

「ギブ・アンド・テイク」はなかなかできてないかもしれません。反省。

ここでひとつ裏ワザを。

編集者のなかには「あまり人と会わずに黙々と職人作業に徹したい」というタイプもいます。その場合、おすすめなのは、「人と会うのが三度の飯より好きな人」をキーパーソンに仕立て、その人物との関係性をがっつり構築するやり方もアリだと思います。

よく、面白い人をみつけると「いや~面白い人みつけたんだけど、今度会ってみない?」と連れてきて、人と人をつなげるのが好きな人っていませんか。そういう行動力と社交性が持ち味の人と思いっきり仲良くなっちゃうのも手です。ある種、外注のような感じですね(私にも10年来の付き合いになる、そういう人物がいます)。

(B)「モノ・コト」から企画アイデアを探すパターン

この場合、自分の純粋な興味関心のアンテナに引っかかったものでいいと思います。そのほうが楽しく企画が立てやすい。

情報源の主なものとしては次の2つ。

(1)新聞・雑誌など
(2)WEBメディア
(3)それ以外のリアルな事象

(1)企画アイデアを拾う場所としての新聞・雑誌

オールドメディアの情報源に関しては日経新聞は絶対に欠かせないと思う。日本経済新聞はビジネス書編集者にとってはアイデアの宝の山。記事をひとつひとつじっくり読むのではなく、まずは見出しだけバーッと眺めて、これとこれとこれという感じでかいつまむ。

最近、自分が「これは企画ネタになるかも?」と思って保存した記事はこんな感じです。

スーツ、着るものから「戦略」に(竹内謙礼の顧客をキャッチ)
2020年9月13日 日経MJ(流通新聞)
この記事は東京と大阪に2店舗構えるオーダースーツの店「イルサルト」が「日本で唯一の経営者専門の仕立て屋」というコンセプトで業績を伸ばしているという話でした。スーツの話は一切せずに、どんな思いで会社を経営してるかをお客さんである経営者に徹底的にヒアリングして、1週間かけてスーツの提案書を作成するらしいです。

(記事からの発想)
スーツに限らず、どの業種も売ることに必死だ。従来売ってきた商品の「販売コンセプト」を変えることで業績を上げる。そんな普遍的なノウハウのビジネス書はどうか?

ニトリ、コロナ下でも勢い――強さ発揮する「弱さ」の力
2020年8月24日 日本経済新聞 朝刊
創業者の似鳥昭雄会長が、逆風に強い経営体質を作ってきたことに起因する好業績を分析した記事。「短所あることに喜び、長所なきことに悲しめ」が似鳥氏の好きな言葉で、短所には目をつぶり、長所を探してそれを伸ばす、弱さを知ることが組織を強くする手立てという記事でした。

(記事からの発想)
これってまさに「弱さを見せあえる組織が強い(心理的安全性)」の話だ。ロバート・キーガン『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか』は翻訳書なので、ニトリのような国内事例で現在進行形の活き活きとした事例を中心にした解説書ができないか?

膨張する「無国籍通貨」、相対取引で追跡困難、ルール作り急務
2020年9月13日 日本経済新聞 朝刊
ステープルコインと呼ばれる仮想通貨による資金の流れが膨らみ、独仏など欧州の主要5カ国が警戒を強めているという記事。仮想通貨が禁止の中国では、SNSや対面で口座の鍵をやり取りして人民元をステープルコイン「テザー」にして海外に持ちだしていて、その金額はハンパないというもの。

(記事からの発想)
「ステープルコイン」「テザー」「ディープウェブ」「マネーロンダリング」といったキーワードを絡めてフィンテックの裏側の最先端を描いた新書はどうだろう?

マネーロンダリングやテロの資金になることを恐れて、ステープルコインと呼ばれる仮想通貨に規制をかけるぞ、という記事なのですが、書いているのは「フィンテックエディター」の関口記者と真鍋記者。日経の日曜版1面はたまにこうした新鮮な発見を与えてくれる記事が飛び出すので、必見です。

実際、『お金は寝かせて増やしなさい』という本の企画は日経の日曜版に出ていた「このままインデックス投資が世界中に浸透したら、株式市場ヤバいんじゃないの?」みたいな論調の記事が企画の発端でした。

雑誌もいまだ重要な情報源です。雑誌に関してはdマガジンが圧倒的におすすめです。月額たった数百円で500誌以上が読めるなんて、昔だったら考えられない環境です。見出しをチェックするだけでも、なんとなくトレンドの空気がつかめます。雑誌が売れなくなったとはいえ、雑誌を作っている編集者が日ごとに苦心して作り出しているであろう「見出し」。参考にならないはずがないです。

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書籍に関しては、単行本よりも新書に「現在」が詰まっています。

もう一方のオールドメディアたるテレビ・ラジオはどうでしょうか。テレビに関しては、かつて『週刊SPA』の特集が「トゥナイト」でパクられていたように(ふるっ)、ネタの鮮度はよくない気がします。拡散力はいまでも強いですが。Webで話題になったトレンドが、少し時間が経ってからテレビで取り上げられてトレンドの終止符を打つという印象。

個人的に思うのは、日本のテレビは経済界のスポンサー(金持ちのパトロン)を頂点にした統制メディアとしての色合いが強すぎて、自由な発想が求められる編集者にとってはあまりいい影響を及ぼさない気がします。

それよりもNetflixオリジナルのドキュメンタリーを観た方がいいアイデアが生まれるんじゃないかなぁとか思うんですが、どうでしょう。

(2)WEBメディアでの情報の拾い方

いまや、こっちが主戦場ですね。

誰もがフラットに発言できるSNSの時代になり、かつてはオールドメディアで発言する人が著者候補だったわけですが、いまや誰もが著者候補になりえる時代。

ブログ、note、YouTube、TwitterといったWebメディア発の著者がどんどん増えてます。今後はむしろ主流になっていくと思います。「アフターデジタル」がどんどん進むと、デジタル空間がメインで、紙の書籍がサブになる。デジタル空間での知名度がヒット要因になっていくと予想されます。

話を戻すと、Webメディアでの情報の拾い方に関しては、受動的な情報の取り方ではなく、主体的に情報を取ることを意識しないと、テレビ以上に洗脳度がヤバいと感じます。なので、ニュースサイトから垂れ流される情報をただ受け取る態度はNG。

このときにやっぱり「軸」となる考え方、確かな視点、情報の解釈の仕方をしっかり教えてくれるのが書籍かもしれません。本を読もう。

(3)それ以外のリアルな事象

「人」「各種メディア」以外に重要なのが「リアル」です。

先日、著者のNさんがこんなことを言っていました。

「僕はもう10年以上リモートワークで自宅勤務させてもらってるんだけど、いまマンションで動物を飼ってるんですよ。そんで、マンションの住人どうしで平日にお世話するんだけど、それを通していろんな年代の人と仲良くなったわけ。それこそ、小学生とかさ。そうすると、ふだん商品開発とかマーケティングでやってる『ペルソナ』の精度がめちゃめちゃ高まるんです」

カルビーの子どもを持つ女性社員が週1日の自宅勤務を「研究日」と決めて、スーパーの前で1日お客さんの行動を観察して、年商250億円の大ヒット商品「フルグラ」を生んだ話に近いですね。

矢沢永吉のベストセラー『成りあがり』を作った編集者の島本脩二さんがこんなエピソードを書いています。

 私が最初に作った本、ロックミュージシャンの矢沢永吉の『成りあがり』は、インタビューしてまとめたものです。
 彼の地方公演について歩いていくと、コンサートホールに入場してくるお客さんの人となりや雰囲気がわかるようになってくるんです。どういう人たちが、彼の本の受け手なのか自ずと見えてきた。彼のファンを見るということが、取材なわけですね。「だれに」ということを発見したわけです。
 そこで、はっきりしたのは、生まれてから、おそらく1冊も本を読んだことがない人たちもこの本なら読むだろうということでした。わたしは、そういう読者に向けた仕事をやるんだと企画を立ち上げたときに思いました。デザイナーにもそのことを伝えました。
 そういう軸をはっきりさせると、やるべきことが見えてくるわけですね。
 文章はセンテンスを短くする。字組みは読みやすく、ひとつの話は2ページで区切りをつける。3行ぐらいで、大きい級数の小見出しで話を要約する。材質はソフトカバーにする。判型はジーパンのお尻のポケットに入れられる大きさにする。
 こんなことが読者の顔から浮かび上がってきたわけです。

CWS編『編集者になる!』(メタローグ)より


BtoBならいざ知らず、フツーのお客さん相手のBtoCの商売をしているなら、お客さんに近ければ近い方が、商品の買い手の真のニーズがわかる。これからは社員をデスクに縛り付ける会社は淘汰される。そんな気がします。

インプットした情報をどうアウトプットするか

さて、ここまで「企画のアイデア」を集めてくることをしてきました。

ちなみに「センスがいい」「センスが悪い」という言い方をよくしますが、「センス」はインプットの量に比例すると思います。インプットを怠ると、センスが悪くなるというのは体感で得た結論ですが、その話はデザイナーの水野学さんが書いた『センスは知識からはじまる』に詳しいです。

インプット量の大切さは「息が長い著者」にも共通して見て取れます。15年来の付き合いのある著者Kさんは、業界紙含めた、ありとあらゆるネタのスクラップブックを何十冊も作り続けていました。

「それ、どうするんですか?」と尋ねると、「いやぁ~、次の本を書くときのネタになると思ってね。こうしてオッと思った記事はコピーして集めてるんですよ」と。

ここに「息が長い」の秘訣があるんだなと、感じ入りました。

さてさて、インプットした情報をアウトプットする方法です。これには明快な答えがあります。

「とにかくアウトプットすること」

これに尽きます。

「○○を考えてる」「○○がしたい」

こう言って、何週間も経ってしまう人がいたりしますが、こういう人からは一生、企画書が上がってくることはありません。

アウトプットを習慣化するには「訓練」が必要です。たとえば「毎週10本は企画案をエクセルに打ち出す」とか。フォレスト出版に転職したころ「企画10本勝負」という名称で毎日10本の企画案を提出していました(前の版元でも似たようなことを毎週やっていました)。

人間は怠けてしまう生き物だから、習慣化してしまうのが一番です。

ただアウトプットするだけでなく、ここで「発想力」や「企画力」が問われるのですが、「既存のアイデアA」に「既存のアイデアB」をかけ算するだけでも立派な「オリジナルの企画アイデア」になる場合もあります。

このあたりの発想の訓練には次の2冊がおすすめです。

このあたりについては、また別の機会にお話ししたいと思います。

こうした話題については「本づくり」と「企画づくり」の舞台裏 というマガジンにまとめてありますので、みなさんのご参考になれば幸いです。


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