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特別な言葉で紡がれる小説_『ここはとても速い川』井戸川射子

特別な言葉で紡がれる小説_『ここはとても速い川』井戸川射子

0、小説を深く愛する人が、泣き出した小説
井戸川射子『ここはとても速い川』(講談社)

2021年の野間文芸新人賞を受賞された作品なのですが、選考会のとき保坂和志さんがこの作品の良さを語っているうちに泣いてしまった、というエピソードがSNSで流れてきました。

いい小説なんて死ぬほど読んでるだろう人が、小説を深く愛してるだろう人が、泣き出すような、それも読んでる時でなく語りながら泣き出す小説って、

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情報が生み出す、ロマンチックで豊穣な世界 『首里の馬』

情報が生み出す、ロマンチックで豊穣な世界 『首里の馬』

読んだ本:高山羽根子「首里の馬」(文藝春秋2020年9月号掲載)

まず大好きな作家・高山羽根子さんが、ついに芥川賞を受賞されたとのことでおめでとうございます。

【物語の内容】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
小説の舞台は、沖縄県港川地区。順さんという老女が営む私設資料館で資料整理の手伝いをすることを中学生の頃からライフワークとしながら、世界中の訳ありな人々にオンラインクイズを出すとい

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笑いすぎて電車で読めない芥川賞作品「破局」

笑いすぎて電車で読めない芥川賞作品「破局」

読んだ本:遠野遥「破局」(文藝春秋2020年9月号掲載)

これがいい感想なのかどうかは分からないけど、とにかく始終、面白かった。耐えきれず声を出して笑ってしまったところもあって、途中から電車では読めないと判断して、家でだけ読んだ。そのおかげで心置きなく笑いながら読むことができた。

元ラグビー部(高校までなのか、大学でも少しはやっていたのかは分からない)の慶應大学(と思われる)の4年生、陽介が主

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読んだ本:「わたしたちに許された特別な時間の終わり」岡田利規(新潮社)①

オペラシティで開催中の「ドレス・コード展」に行ったらチェルフィッチュの展示があって、少しだけ読んでそのまま本棚に入っていたことをずっとなんとなく(というのもおこがましいほど極々少し、でもずっとというのは本当)気にしていたこの本を、10年越しに手に取る。

2本の中編。この投稿では『三月の5日間』。

小説は、イラク戦争開戦直前の3月、六本木で行われた戦争に関するパフォーマンスイベントの会場で出会っ

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