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地図に載らない国 『沿ドニエストル共和国』

沿ドニエストル共和国。ほとんどの人が聞いたことのないであろうこの国は、コアな旅人界隈では結構有名な未承認国家です。共和「国」という名前こそ付いているものの、沿ドニエストル共和国(以降:沿ドニ)を国家承認している国や国際機関はほとんどありません。「未承認国家」という響きに誘われるがまま訪れた謎の国にも、我々と同様、平穏な日常を送る人々がいました。

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沿ドニへの旅は隣国モルドバの首都キシニョフから始まりました。市内中心部のバスターミナルで沿ドニの首都ティラスポリ行きのバスに乗り込みます。1時間ほど走ると「国境」に到着。外国人のみバスから降ろされ「入国」審査を終えるとまたバスは走り出し、30分ほどで終点のティラスポリ駅に到着。ちなみに多くの日本人旅人のブログには「日帰りのみという条件で入国可能」とありますが、バスに居合わせたほんわか系アメリカ人女性は「沿ドニに3泊するわ〜」と陽気に話し、入国審査官にホテルの予約確認書を見せただけで入国が許可されていました。これまでの常識はあっけなく崩れ落ちます。

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沿ドニは国際的にはモルドバの領土内という認識になっています。1990年代に独立宣言を行い、現代に至るまで自身の手で実行支配を続けているものの(モルドバによる支配が全く及んでいない)モルドバ自身も沿ドニを自国の領土と認識しています。そのため沿ドニへ入国する際、モルドバの出国手続きは必要ありません。逆に沿ドニを出国する際も、必要なのは沿ドニへの出国手続きのみで、モルドバへの入国手続きは必要ないのです。

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国家承認こそされていないものの、独自の国旗や政府、通貨、軍などが存在しており、国家承認された国々と何ら変わりありません。アルファベットベースのモルドバ語と異なり、沿ドニで使われているのはキリル文字のロシア語。「国境」を越えれば、街の看板や掲げられた国旗、建物の雰囲気から、ソ連崩壊後西側寄りの体制をとってきたモルドバから、ソ連を意識した国づくりを行う沿ドニに来たことを肌で実感させられます。国際的に見ればモルドバと沿ドニは同じ国ですが、その土地にいざ足を踏み入れれば全く別の国です。

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「モルドバの領土内」、「未承認国家」と言われれば「モルドバとの関係はバチバチ」、「常にピリピリ」のような印象がありますが、街中はいたって平穏な日常生活が営まれていました。ながらスマホ(ガラケー)は世界中変わらないし、学校からスケッチの宿題だって出ます。キリスト教の信仰は他のヨーロッパ諸国と変わらないし、移動には公共の交通手段も必要です。「地図上に存在しない、謎の国にも何ら変哲のない平穏な日常を送る人々がいるんだなあ」そんなことを考えながらしばし「そんな土地をぶらり歩いちゃってるオレ」に酔います。

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レートがわからず適当に両替してしまったこともあり、スーパーでの買い物をきっかけに両替をしすぎたことに気づきます。異国でのユニークな武勇伝が増えることこそが旅人の生き甲斐なのでお昼ご飯はあえてラグジュアリーなお店で「SUSHI」を注文してみました。日本を出発してトルコからレバノン、エジプトからギリシャ、バルカン半島、ルーマニアを巡った末にたどり着いたこの地。約2ヶ月ぶりの日本食ということもあり「醤油に感動した」がこのレストラン最大の記憶になってしまいました。寿司を揚げてみる発想、素敵です。

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ちなみに現地通貨「沿ドニエストルルーブル」はコアなファンが欲しがる貴重なものだそうで、程よくお釣りを残して持ち帰りました(帰国後、知り合いを介してコアなファンにおすそ分けしました)。

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昼食後、沿ドニティーンズに遭遇。ここで大学1年次のロシア語履修の力が試されます。明らかに校門から出て来た直後の彼らに持ちうる限りのロシア語ボキャブラリーで「これは学校ですか」「あなたたちは学生ですか」と聞くと「ダー(はい)」と答えてくれました(見ればわかります)。そしてこれ以上ロシア語での会話が続くことはありませんでした。せめてものコミュニケーションにとプレゼント用に持ち歩いていた五円玉を渡すと喜んでくれました。

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沿ドニに目玉となるような観光地はあまりありません。しかし、心優しい人たちの日常の一部を垣間見させていただけました。

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歴史的にも言語・文化的にも別の道を歩んできたにも関わらず、世界は沿ドニとモルドバを同一の国として認識しています。自分の国が国際社会から存在しないものとされていること、自分の国が世界地図に載らないこと。もし自分がその立場だったらマイナスの感情を抱いてしまうことは間違いありません。国際社会と沿ドニ側で相違する認識の是非や今後の政治的情勢、歴史的変遷がどうかなど、自分には何も言えませんし、言う権利もありません。しかしそんな心配をよそに、沿ドニエストルの人たちは平穏で明るい日常を過ごしていました。また行ってみたいです。

Camera: SONYα7Ⅲ, OLYMPUS PEN F(フィルム)

Lens: Voigtländer Nokton 40mm F1.2 Aspherical, OLYMPUS F.Zuiko 38mm F1.8

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