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2024年6月の記事一覧
はじまりの物語⑨みる者
かの者は医を生業とするものであった
都の外れ草木が生い茂る水辺のほとりに
煎じるための薬草を取りにきていた
壺はそのためであったが
なんでも唐では蛇の仲間を酒につけ
滋養強壮のために飲むという
慌てて逃げ出そうとすると
アハハハハ と陽気に笑う
大丈夫 そんなこと しやしないさ
ただ君のもつ毒をたまに頂くかもしれないね
毒で制することができる病もあるのさ
中には人を廃するためにつかうも
はじまりの物語⑧名付け
かの者は言葉を続ける
それにね、臆病なんだ
目に見えないものや
得体の知れないものをとても恐れる
だから君のことを恐れて害をなすかも知れない
君のしたことは誰も聞いたことも
見たこともないからね
だからこれは秘密にしておこう
たしかそんなことを言っていたのに
さっき、『この者』は
こんなきれいな玉に『浄化 』できるんだね
と申したな・・・
やあ、やっとこっちを見てくれたかい
さっきは
はじまりの物語⑦ 秘密
かの者は言った
僕の中から出てきた 『おもい』を
君が受け取ってくれて出来たこの玉
君にはわるいんだけど
僕に持たせてくれないか
かの君は続けた
・代々ふしぎな力をもった一族であること
・16になる年にその秘密を伝承すること
・決して人に漏らしてはいけないということ
ひとりで抱えるには少々重くてね
蛇の君にならなんて、賭けてみたのさ
聞いてくれるかどうかをね
そうだ
これは蛇の本
はじまりの物語⑥ 蛇使い
社は 白木のいい匂いがした
まだ術から覚めずかすかに薄目をあける
すると
『やあ、お目覚めかい?』
若い男の声がする
ぼんやりとした視界には
柔らかく軽やかにはねた髪の毛が入ってくる
その声の主はこちらの状況に構いもせず
つづけざまに話かけてくる
まったく蛇使いってやつは
『コトバ』を介さなくても
伝わると知っているのに
どうしてこうもお喋りなのか
『本当にキレイな玉に浄化できる
はじまりの物語⑤ 社
あの日を境に状況は一変した
ひんやりと気持ちの良い水辺で
優しい風に応えるように
涼しげに葉を揺らす木々の音
そんな中で過ごす安らぎのひとときが
にわかに騒がしくなった
昼夜を問わず
あの奇跡の正体をあかそうと
興味本位で立ち入るもの
『重い』がなくなるように
『願い』にくるもの
さらには奇跡に
正体というものがあるのなら
村に留めおき
わが村、我が一族の繁栄を長きにわたらせたい
そんな権力者
はじまりの物語④ 伝説
蛇は水辺を訪れるものの『重い』を呑み込んだ
はじめは ほんの気まぐれだった
語りはじめたものをじっと観察していたら
のどの辺りに黒い固まりがみえた
あの固まりをとってみたい
チロチロと舌を出しながら 囁き続ける
届いたか届いてないか、そのぐらいのところで
うつむいていたものが
ぱっと顔を上げたその拍子に
ぽんっと中から飛び出してくる
蛇は それをパクっとひと呑みする
するとスッキリした
はじまりの物語③ふしぎな力 ー蛇ー
かつての旅の話に戻ろう
天上と地上を行き来できる
これは紛れもなく
蛇に備わったふしぎな力であった
蛇が謙虚であれば『与えられた』というので
あろうが自力なのか他力なのか
蛇が蛇であるということと
その特性はなんら変わることはなかった
つまりはじめから備わっていて
頑張る必要がないのである
蛇は蛇以外の何者かになろうとも思わなかった
あくまで われ 『我』は われ『我』
他と交わることは
はじまりの物語② 旅の記憶
前回のおはなし
旅にでよう
そう決意した蛇は
以前旅したころの
記憶を思い出していた
そうだ、むかしはよく旅をしていたのだ
地上の世界とは 水の奥深くで繋がっている
天上の世界と地上の世界
どちらでもあり
どちらでもない
水が繋がっているのか
繋がった空の映し鏡として
水に不思議な力が備わっているのか
蛇にとってはどうでもいい話であった
湿ってひんやりした泥の感触
それを