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オマージュ愛小説 『You Are My Superman』 #シロクマ文芸部【B面】


「りんご箱から転がってきて……」

と言う朱梨あかりは必ずといっていいほど待ち合わせ時間に遅れてくる。


待ちぼうけをくらった俺がしびれを切らして電話をかけるまで連絡が来ないことも。

「今、どこにいんの?」
『ごめん、また迷子になった……』

それどころか、待ち合わせ場所にたどり着かないこともざらだ。


 GPSを使って居場所を突き止め迎えに行くとガードレールに浅く腰かけて、しょげ返る朱梨あかりがいた。

「ごめんなさい……」

いつも俺が何かを言う前に申し訳なさそうに謝るから怒る気も失せてしまう。

というか、いい加減慣れてしまった。


「もういいって。また何かに巻き込まれてたとか?」
「巻き込まれたっていうか……自転車で坂を登ってたおばちゃんが……」

そして、冒頭の理由に戻る。

だいたい朱梨あかりは俺を困らせるために遅刻するわけでも、迷子になるわけでもないのだ。

「そしたら、道がわかんなくなっちゃって」

ただ救いようのないほどの方向音痴なくせに、とんでもなくお人好しなだけで。

「本当にごめん!」
「わざじゃねぇんだから気にすんな」
「ありがとう!」

俺がなぐさめると、パァーッと表情が明るくなった。単純っちゃ単純だけど、そこが朱梨あかりの憎めないところでもある。

「あ、そうそう!」

今でこそ、こんな朱梨あかりに慣れっこになった俺だが、付き合い始めた頃は遅刻する度に聞かされる理由を素直に信じられなかった。

やれ迷子の犬の飼い主を捜していただの、やれ外国人を駅まで案内しただの、やれ落とし物を交番に届けていただの……

いくらなんでも、そんな頻繁に面倒事に遭遇するはずがないだろうと思っていた。


しかし

「そのおばちゃんがくれたの! 迎えに来てくれたお礼に景人けいとにもあげるね!」

毎回、親切にした人からもらった物を(もちろん今回はりんごだ)、俺にもおすそわけしてくるから信じる他なくなってしまった。

そもそも朱梨あかりと出逢ったのも、俺が落とした財布を拾ってくれたのが始まりだったのだから疑う方がどうかしていたのかもしれない。


「サンキュ……って今渡されても俺、確実に落とすわ、これ」

スマホでさえすぐになくすような俺が、丸のまんまのりんごを無事に家まで持ち帰られる自信などない。

素直にそのことを告げると

「そうだね……あ! いいこと考えた!」

あっさり納得してくれたのかと思いきや

「ここに入れといたらいいんじゃない?」

と、俺の着ていたお気に入りのパーカーのフードをぐいっと引っ張り、その中に赤い実を落とした。

「やめろよ」
「大丈夫! ここならきっと落ちないって」
「もぉ!」

取り出そうにも微妙な位置に垂れ下がっていて手が届かない。

「あ、そういえば今日、映画観る約束してたんだっけ?」

わたわたしている俺を差し置き、朱梨あかりは今になって今日の予定を思い出したらしい。

「……バカ。おまえのせいでとっくに上映時間過ぎたっての」

朱梨あかりが観たいっていうから予定合わせたっつうのに。今週末で放映終了なのに。

「ええぇ! そんなあ……」
「諦めてDVD借りて家で観よ」
「うん!」

こいつと知り合ってからというものの、予定通りに事が進まないことが増えた。

でも、正直俺は朱梨あかりとのそんなデートが嫌いじゃなかった。

「私、チャッキー観たいな、チャッキー!」
「それはやめて」

ただしホラー映画に付き合うのはごめんだ。


「すまん、ちょっと小便行ってくるわ。これ持っといて」
「わかった。テキトーにぶらぶらしてるね」

某レンタルビデオ店に入ると、俺はトイレに直行する。長い間、外にいたせいか、いつになく尿意を感じていたのだ。

チャチャッと用を足して、鼻唄交はなうたまじりで店内に戻ると予想だにしない事態が待ち構えていて、目を見張る。

ま、まさか、自分がこんな現場に遭遇する日が来るなんて……


CDが陳列された棚に身を潜めて様子を窺う。

視線の先では真っ黒な覆面を被った男が鋭利なナイフを片手にレジにいる店員に詰め寄っている。見るからに強盗犯だ。

「今すぐ金を出せ!」
「お客さま、落ち着いて下さい! 他のお客さまのご迷惑に……」
「うるせえ! つべこべ言わずにそのレジん中の金、全部この袋に詰めろ! 警察には絶対に連絡すんなよ!」

客足の途絶えた時間帯を狙ったのだろうか、店内に俺以外の客は見当たらない。

犯人に気づかれないうちに警察に電話しようと俺は身体をまさぐりスマホを探す。

あ、そうだ! トイレで落としたら嫌だからと朱梨あかりに預けて……ってあいつどこだよ?!

スマホよりもっと大事なものを思い出し、俺は慌てて周りを見渡す。

すると、隣の棚の間からスッと一人の女性が現れた。

「ちょっと待ったー!」

って朱梨あかりー?! おまえ、何する気や!


「強盗だかなんだか知んないけど、楽してお金を手に入れようなんて最低だよ!」
「うるせぇ! 関係ねえやつは黙っとけ!」
「関係なくない! この店の常連客だよ!」
「あーもー邪魔するやつはこうしてやる!」
「うぎゃっ!」

逆上した犯人が朱梨あかりの手を引っ張り、首に腕を回した。頬にはナイフを突きつけられている。

おい、朱梨あかり
人質に取られてるじゃねぇかよ!


「お、お客さま! 他のお客さまを巻き込むのはおやめください!」
「うっせえ、おまえはさっさと金詰めろ!」
「店員さん、詰めなくていいですよ! 私は大丈夫ですから!」
「で、でも……!」

二人の間に止めに入る店員。全く怯える様子のない朱梨あかりにさらに苛立つ犯人。

って冷静に実況してる場合じゃねぇよ!
早く朱梨あかりを助けないと!


でも、どうすれば……?

そうや!

俺はパーカーを頭に被るようにして、赤い実を取り出すと、犯人の後頭部に向けて思いっきり投げつけた。

「うごっ!」

不意討ちを食らった犯人はみっともない声を出して、背中から倒れる。その隙に俺は急いで朱梨あかりの元に駆け寄った。

朱梨あかり! 大丈夫か?!」
景人けいと!」

軽い脳震盪を起こしたのだろう、犯人は床で伸びており、レジから出てきた店員が身柄を拘束してから俺たちに話しかけてきた。

「お客さまには大変ご迷惑をおかけ致しました……お怪我はないですか?」
「はい! ピンピンです!」

朱梨あかりは、けろりと返す。

怪我ながくて良かった……と、ほっとすると同時に、後先考えないで動く彼女に対しての怒りが沸き上がる。


「まじで! おまえは心配かけやがって!」

せめてもの腹いせに、緩く握りしめた拳をこめかみにぶつける。

「ごめんなさ~い!」

へらりと笑って詫びる朱梨あかりを見たら、真剣に怒る気も失せたのだが。


 駆けつけた警察が犯人を連行するのを見送ると、やっと訪れた平穏な時間。


「……ったく、なんでおまえはわざわざ自分から犯人に捕まるようなことすんだよ?」

本来の目的であるDVD探しを再開しながら、訊ねる。

なんだか今日はとことん刑事ものを観たい気分だ。あ、これいいじゃん、SP……

気になったパッケージを手に取る。ふと隣のカゴを見やれば、SAWが山ほど入れられていた。

いや、サイコキラーもんも勘弁してくれ!


「私が人質になって、お金に困ってるんだったら貸してあげるよって、こっそり言おうと思ったの」
「はあ?!」

全くこいつはどこまでお人好しなんだろうか……

「でも、そう言う前に景人けいとが助けてくれて良かった! かっこよかったよ!」

俺の気苦労なんて知らずに、彼女はキラキラと目を輝かせながら褒め称える。


景人けいとは私のスーパーマンだね!」

そう言われたら悪い気はしないわけで。

こんな危なっかしいやつを守れるのは俺しかいねぇだろ、なんて心の中で鼻を高くした。


 あらあらまあまあ。これはラブストーリーなのかしら? あまり書き慣れてないので、どうしてもギャグコメ風になりますね……

(久しぶりのA面・B面シリーズ。どちらから読んでも楽しめる作品にしています🤗💕)

 実はこちらの作品ともリンクしています。

というのも伊坂幸太郎さんが斉藤和義さんのファンで映画の主題歌にもよく使われていて

(こちらは映画化もされています。
私も劇場で観たかったけれど
忙しくて行けず😢)

 この曲の歌詞からお借りしたエピソードをちょこっと盛り込んでいます。(久しぶりに聞いたら絆の話になんだか泣けてきた😭)


 先に好きになったのは伊坂幸太郎さんですが、二人のつながりは全く知らずシンプルに「素敵な曲だな~」と思って好きになったのが斉藤和義さんでした。

そしてUNICORNユニコーンにハマり(デビュー当時はそもそも生まれてないし、一旦解散された時は赤ん坊だったので、たぶん再結成で好きになったのかな🤔?)、こちらも斉藤和義さんと奥田民生さんのつながりも全く知らぬままだったのですが……

お二人のセッションが収録されたこの作品が私にとってはもう最高の宝物です♪大事過ぎて実家に置いてきてしもたわ……


 他にもリンクしているものがあるのですが(これも本当に偶然です。好きになった時系列的には近いけれど、ハマッたきっかけは別なんです。)それはこの作品のタイトルから気づくかな? といった感じですかね🤭💕

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