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いい湯だな

筑波大学などの研究チームが高温酸性の温泉からRNAウイルスがいるのを発見したと言う記事が先月でていました。科学に関わりの少ない方からすれば、「熱湯の中にもウイルスがいるのはすごいけど、だから何?」となるのではないでしょうか?この発見の凄さを知ることはコロナ禍において話題になったことを理解することと関わっています。そんな温泉の中にいる生物の話を何回かに分けてしていきます。

煮沸消毒されるんじゃないの?

ここで言う温泉というのは観光地にあるお風呂の温泉ではなく、火山の近くで湧き出している高温の水です。この温泉は、マグマによって温められることで高温になっているだけでなく、地中のいろんな物質を溶かしているので、酸性だったりアルカリ性だったりします。私たちは消毒のために熱湯や酸性の溶液を利用することから、そんな高温酸性の水の中では細菌やウイルスは生息できないのではないか?という話になりますが、これらは私たちの身の回りにいて食中毒や病気の原因になる細菌やウイルスとは異なります。
細菌(原核生物)は大きく2つのグループに分かれます(ウイルスは生物でもないのでまた今度の機会に説明します)。私たちがふだん細菌と呼んでいるのは、真正細菌(バクテリア)のことです。真正細菌には、大腸菌やマメ科植物の根に付着している化学合成細菌などがいます。私は学生に説明する時に、バクテリアとは私たちが生活できる環境に住んでいる細菌であると言っています。同じ場所にいるからこそ、協力(共生)したり、ケンカ(病気)することがあります。一方、温泉の中にいる細菌は古細菌(アーキア)と呼ばれています。これらの細菌は、地球ができてから数億年経った時に誕生した生物の子孫です。その当時はまだ光合成をする生物はおらず、たびたび落下する隕石が原因で、隕石が落下した場所の岩石は溶けて溶岩になっていたため、海は高温になっていたと考えられています。そんな原始地球と同じ環境である温泉中にいまも生息しているのがアーキアです。

利用価値あり

太古の地球の生き残りであるアーキアが、新型コロナウイルスとどのように関係があるのかというと、アーキアの酵素がPCR検査で使われています。PCR検査とは、PCR法を用いて体内(鼻の奥の粘膜)にウイルスがいるかを調べる検査です。また、PCRとは、「ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)」のことで、生物の遺伝情報をもつDNAを複製して増幅させる方法のことを言います。つまり、PCR検査で陽性になったということは、鼻の奥からウイルスのDNAがあるということになります(感染しているかは別だけど、DNAがあるということは…)。
もう少しPCR法について詳しく説明すると、調べたいDNAをDNAをコピーして増やす酵素ポリメラーゼ)とDNAの材料ヌクレオチド)をまとめてチューブ(DNA解析用の小さなアクリルの蓋付き試験管)に入れて、サーマルサイクラーという装置に入れて行います。DNAは二重らせんという有名な形をしているのですが、酵素がDNAをコピーするためには二重になったDNAをほどかないといけません。生物の体の中では、この解く作業をヘリカーゼという酵素が行っているのですが、PCR法では温度を上げることでほどいています。しかし、酵素は温度を上げると変形してしまい、働きを失ってしいます。その対策として、もともと高温の水の中に住んでいるアーキアの酵素を利用することにしたと言うわけです。

特許の期限が切れたとかの関係で、サーマルサイクラーは10年近く前に一気に安くなりました。いわゆる進学校ならあるのではないでしょうか?

安心・安全の日本産?

PCR法で用いられる耐熱性DNAポリメラーゼは米国のイエローストーン公園で見つかっています。その後、日本の研究者が鹿児島の小宝島の硫気孔から発見されたアーキアから耐熱性DNAポリメラーゼの単離に成功しています。この酵素は、東洋紡から製品化して発売されています。単離元の超高熱菌の種小名(kodakarensis)からKODという名前になっています。とても高いのですが、かなり正確に増幅することができるので、私は愛用しています。最近、資産運用を始めたので、日本企業のさまざまなカテゴリーの企業を見ていたのですが、東洋紡は手頃で配当もよかったです。業績は今年になって下がっているのですが、これは昨年まで新型コロナウイルスのPCR検査によって需要があったためだです。感染症の流行は落ち着きましたが、PCR法は多くの場所でこれからも使われ続けますし、KODの良さは世界トップです(個人の感想です)。応援も兼ねて買っておこうかな…?

200μlで35,000円くらいするのですが、現在キャンペーン中で21,000円で購入できます。

身近になったPCR

以前、「PCR法はまだ見えていないだけでありふれた技術。大学に行く中高生は文系理系関係なく知っておくべきだ。」といって授業に取り組んでおられる先生と一緒に仕事をしていたことがあります。まあ、学校がその先生をぞんざいにあつかうものだから、辞めてしまわれましたが。その時は、私もPCR法のことをよく理解できていなかったのですが、現在その先生のおっしゃる通りになっています。それは、PCR検査が一般的になったというだけでなく、少しお金だせば(といっても10万くらい必要ですが)、学校どころか自宅でもできます。消耗品の一部はアマゾンやメルカリでも購入できます。
PCR法を知っていれば、中学の長期休暇の自由研究や高校の探究活動でできることが増えます。また、知らなければPCR検査の結果をどう捉えたらいいのか分からず、間違えた情報を信じてしまうことになります。理科の授業において、もっとわかりやすくPCR法を説明することを試行錯誤した方がよいのかもしれません

アメリカのベンチャー企業が作った小型のサーマルサイクラーです。800ドルくらいで、上の写真のものより3分の1以下の値段なのですが、円安…。




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