記事一覧
探る街(2016/4)
友だちを殺す日に着る服装を決める基準が知りたいだけだ
大好きなバンドの名前が出てこない、それで背骨がなくなってしまう
上行けば下、下行けば上と繰り返すプログラムである母が微睡む
無理ならば無理と私が云えるなら、あなたを騙ることもなかった
退屈な狂いが厭になったなら、眼医者の裏に座ってみなさい
意識裡の遊戯だと知りつつ加わる みんな死ぬけど仕方がないだろう
上書きされたファイルは潰されて
苦渋湖(2015/10)
迂回した英語教師が云う台詞 何度聞いても灼けた背表紙
いずれまた出会った時に語ります 秋の終わりに縮んだ話は
寝苦しい夜のとばりに視る虚ろ 小声でうたう猫の洪水
「捻れ?」「山羊!」「逆に普通のことなので、彼らの真意は知らずにいました」
現実でいちばん鮮やかな色はスーパーファミスタ4の薄青
鼠だと思っていましたあの日まで 逃げ込み先の弱冷房車
まだ彼は国道沿いに住んでいる あなたがいず
撞着(2015/4)
第七回静的装丁コンテスト、すべて重ねて灯油に浸す
いつからそこにあったのかまったくわからない。近所にあった工場の、入り口近く地面に浮いていた油のてらてらした光沢がそのまま固体になったようなものが、勉強机の上に載っている。やるはずだった宿題がその下に見える。それを除けなければ宿題ができない。そう思うが、どうにもそれに触れる気がしない。もう一時間もぼんやりと過ごしている。なんだか身体も意識も弛緩し
悪訳(回文超短編応募作)
レム、母を知らない。レムだけでなく皆、知らない。この地の母、子を産んですぐ『母』となる。そしてあの地に旅立ち、暮らすからだ、《主》とともに。この地の者すべて、受け入れている。そういうものだと。だが、レム独り、認めずにいた。『母』となった母を探し、求めていた。
レム、狂人とされ、この地を出る。追い出されるように。彼、飢え、彷徨い、眠る。その眠り、浅く、常に緊張とともにある。やがて、感覚、鋭くなっ
ともだちを殺しに行くひに着るふくを決めかねるうちにじかんが、過ぎる
目隠しをされている。どうしていいかわからないのでぼんやりと右手を動かしていると何かに触れた。てのひらにちょうど収まるくらいの物体でやわらかく、力を入れるとぐにゃりと形を変える。しばらく弄んでいると、ふと奇妙な感覚に襲われ、次の瞬間にそれは確かな形を持つ。右手と『これ』で完全な球になる。ならなければならない。パズルを解くように、補完の果ての球を目指して、『それ』を持つ手の力を入れたり緩めたりする。
もっとみる草叢から炎へ、息吹から屍へ:索敵と弓状
「はい。訊きます。######はどこへ行きましたか?」
「はい。答えます。消えました。」
「はい。受け止めます。かしこまりました。」
またか。私は小さく溜息を吐く。消えることに問題があるわけではない。そんなことを気にしていたらきりがない。ただ、友達なら、先に言っておいてほしいと思うだけだ。契約をしているのだから。確かに、自分が消えることを知るのはつらいかもしれない。しかし、必ず事前にわかることで
草叢から炎へ、息吹から屍へ:鏡映と傀儡
わたしは姿見の前に立っている。もちろんそこには、わたしがいる。けれども、わたしの姿はわたしだけのものではない。
同じ時間軸のなかに、同じ姿をした者——《似姿》は三人存在する。それ以下に減ることも、それ以上に増えることもない。誰かが死ねば、別の誰かが《補充》される。《補充》の仕組みはまだ明らかになっていない。普通に人が生まれ、やがて死ぬことの循環の外に、その機構がある。わたしもまたどこからか《補