ヤスラヤラ

 我が家の墓の隣に、固められた土柱のようなものが『ある』。ちょうど、他の墓と同じくらいの高さだ。
 前に墓参りに訪れたのは半年前ほどだっただろうか。自宅から数時間かかる場所にあると、どうしてもそのくらいの頻度になってしまうが、……とにかく、そのときはこのようなものはなかった。何もない、空きの状態になっていたはずだ。
 つつがなく墓参りの手順を消化するが、どうしても土柱が気になり、どこか上の空になっているのを自覚する。周りを見回しても同じようなものはどこにもないし、その場でウェブ検索を試みても、類似したオブジェクトの存在が見当たらない。どうしようもなく、もやもやした感覚のまま墓地を去った。
 翌日、出社すると、後輩が退職して以降空いたままになっていた隣の机に土柱ができていた。彼が使っていたパソコンと同じような大きさだった。昼食のために外に出ると、空き地に巨大な土柱が建っていた。もとあったビルの姿をすぐに想起する。
 あらゆる空白を埋める土柱。なぜ、私の視界にそれが現れるようになったのか。私が知っているからか、この街がいずれ空白ばかりになることを。
 目を瞑ると、巨大な一本の土柱が瞼の裏の暗黒に映し出される。

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