おそすぎる

 この電車はどこを走っているのだろう。私にはもうわからない。さっきまで地下にいたような気がするから、地下鉄の地上区間なのかもしれない。もしくは、地上を走る電車なのだけど、気まぐれでちょっと地下に潜り込んで、飽きたから出てきたのかもしれない。
 車両の中には誰もいない。いや正確には違っていて、隣に薄汚れた人形が座っている。私にもたれかかっている。早く人間になれたらいいね、と私は時々人形に声をかけている。

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