草叢から炎へ、息吹から屍へ:索敵と弓状

「はい。訊きます。######はどこへ行きましたか?」
「はい。答えます。消えました。」
「はい。受け止めます。かしこまりました。」
 またか。私は小さく溜息を吐く。消えることに問題があるわけではない。そんなことを気にしていたらきりがない。ただ、友達なら、先に言っておいてほしいと思うだけだ。契約をしているのだから。確かに、自分が消えることを知るのはつらいかもしれない。しかし、必ず事前にわかることでもある。言ってくれなければ、失えないではないか。
 私は自分の頬を撫でる。そこには陽色の傷が走っている。指でなぞると、それは首の付け根まで伸びている。はやく、この傷を伸ばさなくてはいけないのに。周りの子たちはもう、胸まで傷が伸びていて、それを見た周りの成人に認められている。まだ傷が短い私は、彼女たちから微かな侮蔑を含んだ視線を受け取る。皮肉なことに、それで少し傷は伸びるのだけど、それでは全く足りない。もっと深い喪失を得なければ、この傷は伸びない。伸びなければ、ひととして成長したと見做されない。
 携刃で自ら傷を伸ばそうとしたこともある。けれども、携刃によって付けられた傷は、喪失によってできる傷とは異なって、血の色をしている。紛い物であることは明らかだ。
 双親に私は、はやく消えてほしい、消える前に教えてほしいと毎夜頼んでいる。その度に双親は優しく微笑んで、頷いてくれる。

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