悪訳(回文超短編応募作)
レム、母を知らない。レムだけでなく皆、知らない。この地の母、子を産んですぐ『母』となる。そしてあの地に旅立ち、暮らすからだ、《主》とともに。この地の者すべて、受け入れている。そういうものだと。だが、レム独り、認めずにいた。『母』となった母を探し、求めていた。
レム、狂人とされ、この地を出る。追い出されるように。彼、飢え、彷徨い、眠る。その眠り、浅く、常に緊張とともにある。やがて、感覚、鋭くなって。あの地に導く、そして、辿り着く。あの地に。
レム、あの地に立つ。あの地、混沌、歪み、渦巻き、澱む。彼、ゆっくりと歩く。耐えながら。やがて、視界に唐突に現れる二つの影。覚えもないのに、彼、認知する。「《主》。それに母」「『母』だ」低い声。《主》。母(レムにとっては)、虚ろな視線。主、「愚か者。『母』、母ではない。摂理、崩れ、終わり、始まり」
レム、理解できない。ただ、遠くから、轟音。だんだん近くなる。次の瞬間、レム、消える。『母』の群れ、レムを飲み込んでいる。母、踏み潰されたレムの屍を踏み越え、群れを追う。その背から、大量の血、地に流れ落ちている。《主》、手に血の跡。レムの母、『母』の群れとあの地にて死ぬ。
*「《主》、手に血の跡」以降が回文
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