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【最終回】アンデルセンの目で見てみようー第8夕講

フォルケホイスコーレが
デンマークに生まれた頃、
時を同じくして、
ある一人の童話作家がそこに存在しました。


日本の多くの方がきっと
1度は触れたことがあるに違いありません。

その名は
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
といいます。


彼は1800年代の中頃、
物心両面において
貧しい農村社会であったデンマークを
しっかりと見つめていた人です。


彼はただ見つめただけではなく
童話にして、

その世の有り様、在り方を
現実社会に訴え、
多くの人に深い感銘を与えたのでした。

彼の作品に宿る思いが、
のちに、
デンマークを住みよい国に導き、
デンマーク国民の心を豊かに育ててくれた。

そう、私たちは思うに至っています。

「いじめ」については「みにくいアヒルの子」

「貧困と幸せ」については「マッチ売りの少女」

「自己責任」については「赤いくつ」

「福祉・おもいやり」は「ナイチンゲール」

「自己決定」は「人魚姫」

「政治」は「裸の王様」などなどです。

アンデルセンの作品にヒントを得つつ、

私たちの社会を
「当事者」の目線から、

対話の形で、眺め、見てきました。

アンデルセンの目で見てみる、
デンマークの教育は今回が最終回となります。

これまでのバックナンバーはこちらから

・第1夕講 「望まれる」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n69c2ec468207
・第2夕講 「ゆるやかに始まる」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n407ee0b826d0
・第3夕講 「違って当たり前を大切にする」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n71030804c4eb
・第4夕講 「優劣をつける競争を必要としない」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n048a66a6a04d
・第5夕講 「発達に合わせた個々の最大到達点を目指す」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n64184619f59e/edit
・第6夕講 「教育格差はありえない」学校教育
https://note.com/finolykke/n/n6ce9ac3fd0e4/edit
・第7夕講 「高等学校の意味が違うデンマーク」の学校教育
https://note.com/finolykke/n/n18c7eb868950/edit


第8夕講 「自分の進路は自分で決める」学校教育


はるとがデンマークにきて、はや10年が経とうとしています。
新しい学年に進もうとしていたのですが、
新たな転勤の辞令がくだり、お父さんとお母さんと共に、
日本へ帰国することになりました。

今後の進路も考えていた、はるとは、
ここで改めてChibaさんのところを訪ねました。



Chiba:はると、日本に帰ることになったって?

はると:そうなんですよ・・・昨日急に決まって。
来月には日本に戻らないといけないんです。

Chiba:えー!そんな急な話なの?

はると:そうなんですよ、転勤て、すぐに着任しなければいけないらしく、父さんはもうすでに日本です。
僕たちは後片付けやら、急なお別れやらで、、、気持ちの整理がつかないです。

Chiba:一番多感な時をデンマークで過ごしたのだから、未練もあるだろうね。

はると:ありありですよ!なので、今このタイミングでは一旦帰りますが、このまま9月はこっちで進学したいな、って思っています。

Chiba:それはそれは。まぁ、デンマークも、親元を離れるのが早いわけだから、それもひとつかも知れないね。ちょっと早すぎかも知れないが、それも一つの選択ですから。

はると:はい、なので、今日はここから先、高等学校に行くか、職業別専門学校に行くか、の見極めのためにChibaさんと対話したくて。

Chiba:是非是非。どうぞ、さあ、はじめましょう。


自分の進路は自分で決める力をつけるデンマーク

Chiba:それにしても、はるとはてっきり
高等学校へ行くもんだと思ってたんだがね。

将来大学を希望するなら高校、早く給料を貰いたければ職業別専門学校。
いったん何らかの資格を取ってからでも大学へは行けるけど、、、、

はるとは担任の先生からデンマークの高校へ入れるよって言われているんでしょ!?
結局のところ、自分が将来なりたい仕事を、みんなどんな風にして見つけるのだろうね。

はると:そうですね、小学校の頃から、友達の家に、学校帰りにグループで遊びに行く、という機会があり、いろんな家族のスタイルがあるんだなぁ、っと学ぶ機会がありました。
その時に、初めて、いろんな職業があることを知ったかな。

それから、8年生(中2)の時友達のお父さんかお母さんの職場を訪ねてみる機会がありました。インターンシップ、と言うものです。
自分で訪問先を見つける必要があるから、結構ドキドキしたのを覚えてます。

9年生(中3)では自分が将来なりたいと思う仕事に関係ある所で2週間位職場実習がありました。高校へ行くものが約60%、職業別専門学校へ行くものが約40%くらいかな。

Chiba:大体そんな割合だろうね。やはり、年に1回は必ず「社会とのつながり」をもたせているようだね。

はると:デンマークにきて思ったのは、ぼくら学生に対して、先生も、また周りの大人も、いわゆる子供扱いをしないと言うことです。

常にぼくは「はるとは、どう思う?」「はるとは、どうしたい?」ととにかく自分の意見を言うことが大切、と教わってきました。

日本では「奥ゆかしい」とか「わきまえている」って言われるような態度は、こちらでは「積極性がない」「意見が少ない」って言われます。

これからの日本で、日本の中だけで生きていくのか?というと、
僕はそうじゃない。もう世界を見てしまったら、この中でありのままの自分を出していくには、自分の言葉で自分のことを語らないといけない。

日本の中学生と、デンマークの中学生をディベートさせてみたら
面白いと思います。
デンマークの友達を見ていると、言葉の量、意思の伝え方、コミュニケーション力の高さ、日本の友達は、本当に驚くと思います。


職業の優劣は、給与で決まる?頭の良さで決まる?

Chiba:日本に帰るのだから、ある程度の日本の情報は入っているのだろうけれど、お父さん、お母さんからは何か将来について言われているの?

はると:すごい、なんでもお見通しですね。
父さんからは、大学は国立か早慶どちらかを狙えと言われてます。
母さんからは、まずは進学塾へいけば、取り戻せるんじゃない?って言われてます。
僕は、デンマークの大学に行くって言ってます笑

Chiba:You are welcome!
ところで、爺が学んだ頃のデンマーの大学は授業料無料だったけど、
教育費無料のデンマークでも
最近外国人留学生からは授業料を徴収するから
覚えててくださいね。
それはさておき、日本は受験戦争がまだまだあるからね。

はると:そうは言うものの、日本の受験勉強で苦労して大学入っても、世界どこでも認められているわけではないし。

今更、僕、日本の歴史で暗記なんてする気、さらさらないです。
だって、グーグルですぐ調べられることは、教育じゃないって教わってきましたから。

Chiba:デンマークは「暗記」より「創造・想像」だからね。最初から正解のないものを対話しているわけだから。
だからこそ、その先にある、行った先の学校によって職業の優劣なんて、ありえないわけです。

はると:日本は大学に入ってから多くの人が「就職先」を決めるけれど、デンマークは大学に入る前に決めているわけですよね。

Chiba:大学入る前じゃなくて、中学校卒業時点で、が正しいですね。

はると:もし途中で方向性が変わったら?

Chiba:それはそれで自由ですから、学部変更もできますよ。
ただし、そんなに多い話ではありません。
日本のように、大学に入ってから、と聞くと、いったい教育の義務期間、そして、高等学校にまで行っておきながら、なぜ進路がぶれてくるのか。と問いたいですね。
特に指導している教員が早い段階で、社会・仕事の選択力、選択肢を学ばせていないとなると、日本の教育システムは何を目指しているんでしょうね?

はると:うーん。教育現場が手薄なんじゃないでしょうか?そもそも、公立、私立に大きな教育内容の差がある時点で、目指すものはバラバラなきがしますが。

Chiba:日本って、正直、高齢者のための国ですよね。政治だって、政治家だって、口を開くと弱者=高齢者、しか入っていなくて。
なぜなら、日本の高齢者は投票に行くからですよね。
でも、若者も、子育て世代も、障がいを持つ方も、外国人労働者も、ひとり親世帯の方も、LGBTQをいう方も、他にもいろいろ国民は存在していますが、全部小さな声には耳にふたしてるように見えてます。

はると:僕たちみたいな、若者がこれから先、頑張っても報われない国なら、みんな出ていっちゃうか、期待されない程度の活動をして、そこそこいい暮らしができればいいや、って思うと思う。

僕は、デンマークで「幸せな国」を作るのは、凄まじい努力をしてきたんだって、実感してます。
時間内に物凄いスピードで仕事をしながら、生徒一人ひとりに向き合っているすごい先生ばかりが学校にいます。先生たちが、電子黒板やPCを使いこなせない、なんてありえない。

おなじ頑張るなら、報われる努力をしたいんで、
一度日本で準備して、こちらに戻ってきます!
ではChibaさん、Vi ses!

Chiba:ははは。自分の意思は固いようだね。
Where there is a will, there is a way!   
自分の人生を生きることです。

誰かの道を歩むのではなく、いつも自分で決断を。
また会える日を楽しみにしています。 Vi ses!


編集後記:徒然なるままに。(最終回)

Sue:ちょっと毒を吐きます笑
世界一幸せな国が集まる北欧。
その中でも資本主義でありながら、幸福度が常に世界TOP3にあるデンマークが、どれだけ冷静な頭と、熱い心でこの国を作り上げてきたのかを聞けば聞くほど、生半可な「改革と失敗の繰り返し」ではなかったことを実感します。まさにトライアンドエラー。

のほほんってしているように聞こえる「幸せな国」って、
物凄い効率化と高い生産性、透明な政治、民主的な合意形成システムがあるから何年も連続してトップクラスにいられるんですよね。

生活福祉大国になったデンマークと、経済大国になった日本。
いずれも大国です。

ただここにきて、経済大国としてのサスティナブルな未来が描けなくなってきた日本。そこには、過去、その時にしなければならなかった決断を先送りにしてきたツケが今、回ってきているのだろうと思います。

今更、どこに舵を切ればいいのか、
分からなくなっているのではないでしょうか。

子どもの時代に、何かを言うと、
「よく自分の意見をいったね!」と喜ばれる国と、
「大人のいうことを聞きなさい!」と叱られる国、の違いが、
いまの日本社会によく現れているのだと思います。

「上司の言うこと、会社の言うこと、国いうことを聞きなさい!」と言えば、真面目だからこそ、自分の中で「おかしい」と言う声が聞こえていても、相手のいうことを聞いてしまう人がたくさん育っています。
だって、それが正解と育てられてきているからです。

今の日本は、多くの人がきっと無意識にReactive(継続反復型)です。
誰かの言葉に敏感に反応し、自分を守るために無反応か、逆に攻撃する。
要は、何かが起こってから反応する。

一方世界は、Proactive(新規挑戦型)です。
何が起こるか分からないからこそ、自ら仕掛けていく無意識が働く。
自分の中の考えを表現し、未来を起こすために、活発的に自ら行動する。

日本にももちろん、そういう方はいますが、
それが社会全体に年齢関係なく頻繁に起きているかどうかの違いです。

この違いはまさに「教育」の差、成熟した大人の数の差です。
教育の格差を話す時、「教育を受けられる」「受けられない」ではなく、
どんな教育を受けられるかにも格差は生じます。

これから自分の人生を生きていくために「誰と共にいるか」が焦点になる理由がよくわかるようになってきました。

さて、次回からは、ChibaさんとSueがここまでコラムを続けてきた上で、
数々のジレンマも感じながら、なかなか言及しなかったことについても、
お話ししていければと思います。

では、今日はこの辺で。


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