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アンデルセンの目でみてみよう。-第1夕講

今日のデンマークを幸せな国に
導いたひとつの要素、
フォルケホイスコーレについて
前回は紹介しましたね。

今日からは少し視点を変えて、
すこしストーリー仕立てでお届けしていきます。


フォルケホイスコーレが
デンマークに生まれた頃、
時を同じくして、
ある一人の童話作家がそこに存在しました。


日本の多くの方がきっと
1度は触れたことがあるに違いありません。

その名は
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
といいます。

彼は1800年代の中頃、
物心両面において
貧しい農村社会であったデンマークを
しっかりと見つめていた人です。


彼はただ見つめただけではなく
童話にして、

その世の有り様、在り方を
現実社会に訴え、
多くの人に深い感銘を与えたのでした。

彼の作品に宿る思いが、
のちに、
デンマークを住みよい国に導き、
デンマーク国民の心を豊かに育ててくれた。

そう、私たちは思うに至っています。

「いじめ」については「みにくいアヒルの子」

「貧困と幸せ」については「マッチ売りの少女」

「自己責任」については「赤いくつ」

「福祉・おもいやり」「ナイチンゲール」

「自己決定」「人魚姫」

「政治」「裸の王様」などなどです。

今回から、
アンデルセンの作品にヒントを得つつ、

私たちの社会を
「当事者」の目線から、

対話の形で
眺め、見てみたいと思います。


第1夕講 望まれる学校教育①

ある日の夕暮れ時のこと。

デンマークの北フュン島に住む
Chibaさんのところに、

お父さん、お母さんと
一人の6歳の男の子 
「はるとくん」が訪ねてきました。

季節は3月。

この間まで日本で暮らしていたはるとくん。

デンマークに海外転勤で引っ越してきた
お父さん、お母さんとともに、
これから、心機一転、デンマークの学校に
通うことになります。

日本にいれば、はるとくんは、
もう直ぐ小学生になるところでした。

日本の勉強とデンマークの勉強の違いを知りたい、お父さん。
日本の小学校とデンマークの小学校の生活の違いを知りたい、お母さん。
今ある環境がなんだかよくわからない、
はるとくん。

3人は、

日本人で、
デンマークに長く住み、
両国の良さも課題も沢山経験してきた
Chibaさんに、
あれこれ話を聴こうとやってきたのです。

3人は初めて訪れた
Chibaさんの白壁の家の呼び鈴を押しました。

「どうぞ」

と、返事があったので、
天井まである扉を開けて、
約束したお部屋に、
すこし、こわごわ、入っていきました。

窓際には大きなデスク。
窓からはソメイヨシノが見えます。
Chibaさんはゆったり、
回転椅子に座っています。

お母さん:
あの、今日はよろしくお願いいたします。
日本は4月入学でして、
はるとも小学校1年生になります。

デンマークは9月入学とのことで、、、

デンマークには入学前のクラスが
あると聞いて、
一応、ネットで見たのですが、
何をするのかよくわからずでして。

言葉だけ、メモしてきたのですが、
はるとは、今から編入すると
SFOミニとか0年生に当たる
ようなのですが、
一体何のことでしょう? 

Chiba:ようこそ、デンマークへ。
いろいろ調べられたんですね。

ご質問の回答ですが、

幼稚園からストレートに小学校に入る前に、
入学する小学校の学童保育を体験するのが
SFOミニといいます。

1年生に入る前に、
1年生にソフトランディング出来る準備期間として0年生(幼稚園学級)と呼ばれる学年が保護者の義務としてあるのです。


お父さん:
そうなんですね、1年生になる前の学年が・・・

はると:
僕は1年生になるんだよ。
でも、日本には0年生はなかったけど・・・

Chiba:
はると君は今からだと、
デンマークの0年生になるね。
幼稚園学級に逆戻りになるけどいいかな?

はると:
うーん幼稚園は好きだけど、もう一回幼稚園やると、赤ちゃんみたいに思われちゃうなぁ。

Chiba:
ん?誰に赤ちゃん見たいって思われちゃうと思うの?

はると:
お友達だよ、赤ちゃんみたいでしょ、また幼稚園やるなんて。

Chiba:
赤ちゃんみたい?いえいえ、とんでもない。
私の娘は0年生を2回やりましたよ。

そして、幼稚園学級には
長く通っただけのこと、です。

デンマークでは、
みんな全員同じじゃないとおかしい、とか、
お友達に差を付けられた、とか、

全然思いもしないし、
お友達たちも「この子はなかなかできないんだ!」とは誰一人として思ってもいないものです。

1年生になる準備を
しっかりしてるんだなあ~と思ってるだけ、
人それぞれ歩み方が違ってあたりまえ、です。

はると:
じゃあ、その子は
「かわいそう」とか
「だめだなー」とか
「はずかしいぞ」とか
いじわるされたりしなかったの?

Chiba:
うんー、いじわるかぁ。
いじわるって、どんな感じかなあ~、

私の娘は誰にもいじめられなかったよ。

ハーフだから外見も
デンマークの子とは違ってたのにね。

はると君は真っ黒な髪をして、
目の青い子や金髪の子どもの中に
これから入っていくってなったら、
どんな気持ちになるんだろうか?

はると:
外国人ばっかりの中でやだな、っておもうよ。
ことばもわからないし。

Chiba:
そうだよね、言葉がわからないから
たいへんだなぁ。

いいことを教えてあげましょう!

お友達とあそんでいれば言葉はね、
直ぐに覚えるよ。大丈夫。

そうそう、
はると君は「みにくいアヒルのこ」
を読んだことがる? 

はると:
おかあさんに読んでもらったことがあるよ。
一羽だけ羽の色が違っていて、
いじめられちゃうんだよ。

いじめられているときに

誰もなぐめてくれなくて
お友達もいなくて
悲しいきもちになったよ。

最後は白鳥になって良かったけどさ。。。

Chiba:
うん、そうだね。
いじめられると誰もがつらい思いをするよね。

実はこの「みにくいアヒルの子」をかいた
アンデルセンも昔、
子どもの頃いじめられたんだよね。

学校では先生にまで、いじめられたんだって。

はると:ええー!信じられない。
幼稚園の先生はみんな優しかったよ?

Chiba:それはよかったね。
アンデルセンは、そうじゃなかったんだよ。

その時のつらい気持ちを、
みんなにわかるように童話にしたんだ。

そのお陰で、
これからはると君が行くデンマークの学校は、
みんないじわるされたらいやだな、
という気持ちを知っている人が多いんだよ。

最後、アンデルセンは
いじめに負けず頑張って大人になり、
有名人になったんだ。

はると:ふーん。僕、大丈夫かなぁ・・・

お父さん:
Chibaさん、一つ質問です。

はるとがいく学校は公立を予定しています。
ただでさえ言葉が難しいのに、
勉強についていけるか心配です。

どんな教科書を使っているのですか?
先に勉強しておいた方がいいのではないかと思っています。

Chiba:
はぁ〜?
まだ入学前ですよ。
心配が心配を呼んできてしまっている
様に見受けられますね。 

それでは、学校では、どんな学びをするか
明日、またお話しましょう。

今日はここまで。

(第2夕講に続く)


【編集後記:つれづれなるままに】
Sue:千葉さん、周りと毛色の違う子を「みにくいアヒルの子」のような扱いをしていたデンマークから、そういう子も「個性のある人間である」と見れるようになった背景は何があったのですか?

Chiba:教育方針で、個性を重視し始めたことにきっかけはあると思います。能力(ポテンシャル)の、価値観の差でもなく、その分野の差であるだけです。
そして、アンデルセンがデンマーク人の心を揺さぶったのは確かです。
学校のクラスでも、「アンデルセン」というクラスがありますからね。


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