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お客様インタビュー・田中岳さん(岡山大学副学長) 2

田中
人生は山あり、谷あり。
問題は近くまで来ないと見えない谷のほう。
日本人はよく壁にぶつかると言いますが、実際は壕(ほり)や窪みが多いですよ。
急に進めなくなる。
まあ社会に出たらそんなことばっかりです。

ある意味コロナもそう。
コロナみたいな世界的な危機もあれば、個人的なこともある。

人間は予期せぬものに行く手を阻まれることがあって、そこで試されるわけです。
対処には正解があることもあれば、無いこともある。無いことの方が多いかもしれない。
自分なりの方法をクリエイトしなくちゃならない。

最近「レジリエンス(困難に出会った後の復元力)」という言葉をよく耳にしますが、これは凄く大事です。
順風満帆に来た人ほど難しいと思いますが、大学は学問と同時にレジリエンスを身につける場でもある。

だから、
再起できる程度の失敗はどんどんしましょう(笑)。

よく「心が折れる」って言うでしょう。そもそも硬いもので作るからいけない。
根性は曲がっているくらいでいいんです(笑)。
僕は人材という言葉が好きじゃないんですが、人間は替えのきく硬い材料じゃない。
学生それぞれの個性にあった柔軟な回復力をつける必要があります。

お隣
コロナは大きな穴ぼこでしたね。
私も回復中です。

田中
元通りを目指すというより、みんなで新しい道を造っている感じですね。
大学も大変でした。今でも試行錯誤しています。

オンライン授業が苦手な先生も少なくありませんでしたが、逆にオンラインだから張り切りすぎる人もいました(笑)。
撮り直しできるしアーカイブもされるから、完璧な授業を目指したりして…
いや、毎回ステーキみたいな内容じゃなくていいって言いました。

たまにはお茶漬け、美味しいですよね。

お茶漬け作成・ありまさ店主

家の飯がどうして毎日うまいのか、毎度味が変わるからだという話を聞いたことがあります。

作る人の体調によって塩加減が変わる。
授業も同じで、先生の体調も機嫌もあるでしょう。
学生だってそう。

お互い様に変化しているから、毎回違って飽きない。
今日はステーキ、明日はカツ丼、鰻に白子に…そんなんじゃ病気になります(笑)。
オンラインでも、いつものペースでいい。

一方でパソコンが家にない学生もいます。
オンライン授業を受けるためにコロナ禍でもパソコン室のある大学に通っていたという例もあって、そこは早急に改善しないといけない。

お隣
今や「子どもの学力は親の経済力」とも言うらしいですね。

田中
実に大きな課題。
だから入試改革にも力を入れています。

以前は親が貧しくても子供が頑張って学歴をつけ、親と違う職業につくのは十分可能でした。

日本が上り調子だった頃は、そういう努力が報われた。
今は大学が800くらいあって数こそ増えましたが、むしろ階層は固定化していると言われます。
仕事でも何でも10年やればプロと言われますが、小学生から塾に行ける子は中学受験し、それから高校までみっちり受験テクニックを磨くわけです、まさに受験のプロ(笑)。

でも受験の勉強と大学のそれは別物。
受験で数学、物理が得意でも、大学でうまくいくとは限らない。

unlearn、学びほぐし、なんて言いますが、受験用の頭を作り替える時間が要る。
僕がいた京都精華大学には芸術学部があって、合格者は入学すると受験用のデッサンを忘れるように言われていました。
もちろん受験を通して学ぶこともありますが、しかし限定的な学びも多い。
だから現在は推薦等の入試割合を多くして高校での活動を評価する流れがあります。

少子化だからとにかく学生に来て欲しい、学生をお客様として優遇する傾向もありますが、本当の意味で大事に育てるとはどういうことか?

先ほどのレジリエンスもそうですし、ただ甘やかすのではなく伝えるべきことを経験を通して伝えたいですね。

授業内容も進化していますよ。
大学で教えるのに教員免許は要らないから、今までは教え方に精通しているとは言い難かった。
「背中を見て覚えろ」
みたいなところもあって、もちろんこの良さも沢山あるんですが、それだと与えらたものを食べて育った現代っ子には難しい。
これは学生だけの責任でもない。

だから先生方も学生の自主性に任すばかりでなく、どうしたら一人一人が腑に落ちるのか、方法を模索しています。

お隣
大学の先生のお話はつまらないと思っていました。

田中
僕が話すと、面白いけど勉強した気がしないと言われます(笑)。
落語が好きだし、吉本で育ちましたからね。

上からものを言うより、何度も話し合って一緒に考える方が好きです。
人間、他人から言われても動きませんが、自分自身で思いついたらやりたくなりますよ。

お隣
会社で、若い子が悩んでいたらどうすればいいですか?

田中
話をただただ聞くのが一番だと思います。
話すとしたら…自分が失敗したことですかね。ひどい失敗ほどいいですね。
オチはなくていい。失敗してもここにいるよ、と。
あとは頃合いをみて散歩に行かせてやったらどうですか?

撮影・田中岳

(おわり 収録2021春)

田中岳さん プロフィール
岡山大学副学長。
大学卒業後、会社勤務等の後に京都精華大学職員、名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程単位取得退学、九州大学教育改革企画支援室准教授、基幹教育院准教授、東京工業大学教育革新センター教授を経て現職。


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