「昔男春日野小町」翻刻 三段目
〈地〉いちはやき月の冠を脱ぎかへて、今は情も厚額、在五中将業平と、よそ目にしるき家造り、内裏に軒も築地の高塀、武家にかはって門番の奴が髭に至るまで、和歌に和らぐ長袖の〈フシ〉家の風儀ぞ及びなき。
お側使の妼はした、一つところに寄りたかり、「〈詞〉なんと皆の衆、どふ思ふてぞ。このお館の殿様業平様は、昔はきつい色事しであったげなが、今はそれには引きかへて、それはそれは堅くろしい」「アノお朝のいやることはいの。なんのどこに堅くろしい。あの萍を毎夜々々引き寄せて、なにやらかやらよまい