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Valkan Raven

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終わる兆しの見えない長年の不景気の中、荒んでいく一方の人々の生活と心は、 いつしか歪んだ現実から目を背けるか、自らも歪むかのどちらかとなっていた。 不幸な半生により存在価値を見…
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#ライトノベル

Valkan Raven #3-6

 3-6

 魅姫は、ジイジイと音を立てるランタンを掲げながら、自身を呆然と眺めてくる探し人を不安な表情で見ている。
 黒ずくめの殺戮魔は狂気が溢れる作り上げた笑顔で新参者にリボルバーを向けながら、全身を舐めるように観察する。黒いワンピースでも存在感を露わにしている豊満な胸には興味を示さず、眉をへの字にして怯えている顔を見て気味の悪い笑みを浮かべると、大きな焦茶色の瞳に涙を浮かべている少女に、再び

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Valkan Raven #3-5

『When will you get here? 1946.』
「Twenty minutes.」
『What's taking you so long? Don't let me down.』
「そうなればすこぶるHappyだが、俺にも都合があるんだ。I don’t disappoint you. (あんたの期待は裏切らない。)それなら文句はねえだろ?」
 耳に当てた傷だらけのスマートフォンから

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Valkan Raven #3-4

 3-4

 窓を開けてベランダに出る。錆が浸食しているステンレスの手すりに勢い良く乗り出してしまい、小柄な身体と豊満な胸が押し潰されて支えられる。
 外れそうな金属の格子ごと転落しないよう慌てて身を離すと、魅姫は狭い床を中腰で移動する。璃音の部屋と逆の方向に向かうと、手すり壁に手を掛けて身体を乗り上げ、足場にしてから隣の部屋に飛び移った。
 ーー体育は苦手だ。だけど運動神経が壊滅的な訳ではない。

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Valkan Raven #3-3

 3-3

 ーーうたた寝で数分しか眠っていないのに、またあの日の夢を見た。
 大雨が降る山奥の道路。崖に流れ落ちていく泥土を見ながら、頭に包帯を巻いた幼い頃の俺は担架の上で仰向けになって、強い風に煽られながら黒い空から落ちてくる大量の水滴を浴びていた。
 20××年、秋。関東甲信地方のある山道でトンネル崩落事故が起こった。死者・行方不明者69人、負傷者1人。休日は利用者が多くなる長くて有名な道路

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Valkan Raven #1-6

1-6

  鴉夢桜魅姫をアパートに帰らせると、鈴鷺璃音は田道で待機する。湿気を含んだ風が濡れた身体に纏わり付くが、生臭さは吸っている煙草の臭いが殆ど殺してしまっている。
 気まぐれな雨雲は夜闇に身を隠しながら流れていく。登場も滞在も存在すらも望まれていないモノは、自己陶酔の勘違いをしたまま真実を知ろうとせずに離れ去っていく。
 ――滑稽だな、まるで何処かの誰かのようだ。――見えない景色を鼻で笑っ

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Valkan Raven #1-5

1-5

 景色の消失した空間に靴音が響く。踵に埋め込まれた鉄板が一定のリズムで地を叩いていたが、音が唐突に止むと別の金属音が鳴る。
 銃声が弾けた水音と混じる。溝の中で漂っていた微小の光が砕けると、水が流れ落ちる音が2度する。
 再び靴音が鳴り始めると、音は急激に加速していく。毒の煙が辺りに振り撒かれると、煙草を噛んだ殺し屋は歯を剥き出して笑った。
 ――そろそろ風呂敷を畳もう、試験時間は数分が

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Valkan Raven #1-4

1‐4

 夜が更けるまで魅姫は璃音の部屋で過ごしていた。結局欲に負けて掃除をしたが、色んな意味で怖いのでギターケースと押入は触らなかった。
 夕飯は渡された塩味のカップラーメンを食べた。「飯炊き用だ」と言われてカセットコンロと調理道具も渡されたが、「コレを使えるか使えないかはお前の結果次第だ」と補足された。
 時計代わりのMacBookが布団の上に置かれていたが、左腕に付けている腕時計を見せると

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Valkan Raven #1-3

1-3

 ――1羽のカラスが、空を飛んでいる。
 真下に広がる繁華街が玩具の塊のように見える。隙間で狭苦しそうに蠢いている人間達は、砂糖に群がる蟻か増え過ぎて身動きが取れないシャーレの中の微生物のようだ。
 真上にあるのは果ての無い空。雲一つ無く、その美しい青は地にいる色とりどりの化け物達も、 天を漂う孤独な漆黒の化け物も拒む事無く包んでいる。
 舞い上がる桜の花弁が、下劣な世界に純潔の花言葉を

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Valkan Raven #1-2

1-2

 『指名型殺人掲示板』の管理人に指示された『帝鷲町(ていしゅうちょう)』は、関東地方のとある場所にある小さな町である。
 辺境に近く名産品も郷土料理も無いので、関東地方の人間すら名前を知らない者が多いらしい。と言っても関東地方なぞ、他の地方や外国からの移民と旅行者ばかりに溢れた出稼ぎと観光の土地なのだから、自分の住んでいる場所の情報を事細かに全て知っている人間は滅多にいないだろう。
 小

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Valkan Raven #1-1

#1

 1-1

 ――身体が、生臭い。――
 数十分前にクラスの女子達に振りかけられた牛乳の臭いは、公園の水だけでは取り切れないようだ。
 鴉夢桜魅姫(あゆおうみき)は空を見上げた。胸まである湿った黒髪が重々しく風に揺れる。歳に似付かない豊乳を持った容姿は小柄で決して醜くなかったが、色白の顔に付いた大きな焦茶色の瞳に、感情というものが欠落してしまっている。
 所々に白い染みが付いた制服は、胸

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