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中野信子著(2019)『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』株式会社KADOKAWA

著者の趣向と研究がわかる秀逸な本

この本もアマゾンで購入しながら本棚に眠っていたもので、本棚の整理中に発見し、読んでみました。

タイトルからして、単に著者の趣味的なものなのかと思っていましたが、これはなかなか面白く、ヘヴィメタルと人間性ともいうべき意外な取り合わせで興味を惹かれた次第…

ヘヴィメタルというと世間的にはステレオタイプで変人扱いだったり不良的な感覚が持たれますが、本書を通じて理解できるのは、その世間の感覚とは違う繊細で内向的かつ論理的思考に向いている人間像という意外性でした。

テレビで拝見している限り、著者とヘヴィメタはなかなか結びつかないのですが、思春期あたりで「音に色がついている」という感覚のヘヴィメタに出会ったからこそ、今の著者や研究にむすびついているのだろうと思いました。なにせ博士過程の研究が「音楽を認知するときに、人の脳がどう動くか」というものだったらしく、最初の感覚がこの人の研究や人生に大きく影響したことが本書の内容や、特に文章の書きぶりで良く表されていると感心した次第。ちなみに博士論文では、絶対音感の人の脳に電磁刺激を加えると一時的に絶対音感の反応が鈍くなるらしく、その脳の部位は、空間認知とともに音の認知にも関わっていたということを提示できたのがオリジナリティの部分らしい。

現在テレビに出ているのも、かつての「予言の自己成就」だったとの分析、ヘヴィメタとオキシトシン、アドレナリン、そして同質性の原理など、なかなか面白い展開が随所に書かれている。

メタルファンの内部における社会性の裏返しとしての「不寛容性」や、「外集団バイアス」からの「裏切り」に敏感なところ、「社会的排除」など、脳や心理学に関する内容も随所に語られるので、かなりのお得感。メタルは反社会的ではなく非社会的とのこと。ゆえに「個」を大切にするのだとか…

またメタルを聞くと認知機能の向上につながったり、ストレス耐性を一時的に下げる効果があるそうです。ヘヴィメタとクラシックが大局的にあると思いきや、その共通点も多いという見解で、わたしもクラシックとロックは好きなので著者の主張には共感するところもあった。

そして「メタルは日本人に向いている音楽」と言い放つところが著者らしく、閉鎖的かつ内部のつながりが強く濃い内集団を形成し、非常に統制化されている現在の日本組織とも親近性があるようで、面白いほど話の展開が多岐にわたります。そうそう、本の中には戦国武将の伊達政宗の話まででてくるので、読者を飽きさせません。

最近は読みながら本の隅を折ったりすることは少なかったのですが、この本は沢山の折り目がついてしまい、それだけ面白い観点を与えてもらったように思う。

折り目が沢山…

これまで何冊か著者の本を読んではいますが、この本が一番興味深く著者の人柄や考え方が素直に表現されたものだと思う。この著者のファンの人は、まずはこの本を一読した方が良いのかも知れない。

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