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長倉顕太著(2024)『移動する人はうまくいく』株式会社すばる舎

理屈はわかるが実際は難しい

本書は読みやすく、久しぶりに一気に読破してしまった。実のところ将来的に独立を考え、その前に中堅コンサルで事業を持続的に営むためのノウハウの吸収のために転職を完了した。しかし、ベンチャー気質が残るのは良いことかも知れないが、仕事や新サービス含め、作業内容が属人的でナレッジが一切残らないというか残っておらず、毎回担当者が右往左往して表面上を取り繕って何とかクライアントにバレずに仕事を請け負っている状態で、これでは先々伸びないと感じていた時で、次なる転職か独立かに踏み切る寸前でこの本にであったような状態でした。

著者は問題を引き起こす最大の原因を「定住」(p.25)だというが、結果的に安定志向や極度なリスク回避が自分の可能性を潰すことに繋がるし、新たなものを覚えるとか体験する等に繋がらず、自分ののりしろを狭めている原因になっているのではないかとわたしは思う。安住すれば確かに能力は退化していくと感じることがある(p.29)。

本書のなかで面白い考えは、本を読むのにベストセラーを読むのではなく、ベストセラー作家が読んでいる本を読めと提言していることである(p.73)。大衆化している本からは独自の考え方を育む素地が少なくなるのかも知れない。

本書の肝となる部分は、人が行動を起こすときに、環境→感情→行動というプロセスを経過(p.86)することで、良き行動を伴うには、その前段の環境の変化がそれを勢いよく後押ししてくれるという理解。

確かに環境の変化は必然的に新たなところにマッチするための行動を促してくれる。さらに会社を辞めることが人生最高の戦略と説く(p.116)。著者は哲学者のエリック・ホッファーの「幸せを追求することが不幸の原因である」という言葉を引用して、この自論を補強する。それは人生の選択肢を増やすことが重要と考えているからだそうである。

わたしも高卒で社会人となり、仕事の傍ら大学、大学院を修了したが、学ぶことでさえその後の人生の選択肢を増やし、高卒だけでは転職すらできなかったであろうところで、今も仕事をしているのはやはり学問一つでさえ選択肢が広がったゆえの結果だと思うと、人生を過ぎる中で「選択肢を増やす」ことは最優先に掲げてもおかしくないことだとわたしも思う。

本書の第6章では移動体質になるためのアクションプランが掲載されている。ひとつひとつは簡単なものであるが、それを実行することでビジネスマンでも十分活用できる視座を得ることも可能かと思う。

個人的には、移動することで自分にとっての新しい価値観や経験を活かし、それが生きていくための原資としても活用できるようなものを得られると素晴らしいと思う。その反面、移動しただけで、それがプラスに働かない人もいることを考えると躊躇する人もいるのかも知れない。現状のわたしは大病を患っているので、大学病院などへのアクセスがあまりに遠くなることは選択肢として無いけれど、その限られた中でも環境の変化というのは必要かもしれないと思える。そんな感覚を抱かせるユニークな本でした。

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