GIGAスクール構想環境における体育・保健体育の授業

タブレットの長所を生かし、短所を取り除く

 GIGAスクール構想下での体育・保健体育の指導におけるICT機器の活用上の留意点等について整理する。指導と評価の一体化の視点から、体育・保健体育の授業におけるICT機器の効果的な活用について再整理したい。GIGAスクール構想により、児童生徒への1人1台端末(以下、「タブレット」と表記する)が配備され、各学校においては、さまざまな学習場面での利活用が模索されている。タブレットを単に「使えばよい」のではなく、「効果的に用いる(=活用する)」ことが重要であること、使わなくても済むことにあえて用いる必要はない。
体育・保健体育の指導においては、タブレットの特性を踏まえ、主として次の4点の長所を引き出しつつ活用することが大切である。

1つ目として、動画を録画し、再生できるという長所を踏まえたい。

 これは、運動領域・体育分野において、特に力を発揮する。自分や仲間の学習の様子を録画し、再生して見返すことで、学習の課題を見つけたり解決のための手だてにしたりできる教科等は、そう多くはない。
 一時停止やスロー、繰り返しの再生を取り入れることで、学習課題の発見や解決に役立てることができる。その際、撮影や再生が主となり、運動に従事する機会や時間が減ってしまうようでは本末転倒である。タブレットを用いる機会を精選すること、タブレットの操作技能の向上を日常的に図っておくことなどがタブレットの長所を引き立たせるためには重要である。

2つ目として、動画を記録として残せるという長所を踏まえたい。

 録画により、一瞬の出来事も記録として残せるため、毎時間の振り返りに使えるだけでなく、学習の軌跡となり、ポートフォリオ評価への活用も想定される。また、自己の学習の効果的な蓄積は、児童生徒の有能感を高めたり、次への学習意欲につなげられたりすることも期待できる。一方、短所として挙げられる「記録として残せるから一瞬を見逃してもよい」という考えや、「後で記録を見ればよいので記憶しようとしない」という姿勢などについては、使用者への意識の啓発が常に求められる。まずはしっかりと見る(見合う)ことを基本とし、補助的にタブレットを活用するという使用者としての意識を高めたい

3つ目として、必要な情報を収集できるという長所を踏まえたい。

 Wi-Fi環境にもよるが、児童生徒が必要なときに、必要な情報をその場で入手できることは、学習への意欲を高めるとともに、学びの連続性や効率性の観点からも有効である。一方、得られる情報が増えると、どれが確かで有益な情報なのかの見極めが難しくなることも想定される。必要な情報を取捨選択できる力を育成することは大切であるが、体育・保健体育の時間にそうした力をどこまで伸ばしていくことが求められるであろうか。
 情報リテラシー教育は全ての教科等で推進すべきことは言うまでもない。しかし、教科の特性を踏まえつつ、他の教科等の学習機会に委ねる融通性があってよいのではないかと考える。教師があらかじめ必要な情報を絞って提示したり、数種類に厳選しておいて児童生徒が選択できるようにしたりするなど、情報過多になることを未然に防ぐよう留意することが大切である。

4つ目として、比較的容易に意見を発信できるという長所を踏まえたい。

 これまで、児童生徒が自分の意見を表明する場面では、言葉での発表や学習カード等に文字で記録することが中心であった。その点、GIGAスクール構想下ではタブレットに書き込んで意見を教師や仲間に伝えたり、イラストやリアクションマークで瞬時に反応したりすることができる。このことにより、意見を発信するのが苦手な児童生徒の反応を引き出したり、学習カードを見なければ拾えなかった意見をその場で取り上げたりすることが容易になる。
 教師は、児童生徒と相互に通信することにより、課題や学習状況をリアルタイムで把握したり、発問や課題提示の有効性を確認したりすることができる。そのため、タブレットの活用は授業改善の推進にも資することが期待できる。一方、児童生徒同士の情報発信が容易になったために生じる弊害にも目を向けておかなければならない。例えば、教師が「仲間の意見に賛成の人は『いいね!』を送ろう」と呼びかけると、「いいねマーク」の数が表示されるが、児童生徒はこうした数に敏感なことも想定される。その際には、数については教師のみが見られるようにするなどして、児童生徒の意識をあまりあおらないように留意したい。
 また、匿名での投稿は意見の表明を気軽にする半面、責任意識を薄くしてしまうため、注意が必要である。 これらの長所や課題点等を踏まえ、GIGAスクール構想下でタブレットを活用した指導と評価を一層展開することが求められる。次回は、育成を目指す資質・能力の柱に即して設定される観点別評価と、GIGAスクール構想下でのタブレットの活用との関連について整理したい。

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