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大塚ひかり(1961.2.7- )「嫉妬と階級の『源氏物語』 第九回 「腹ランク最低のヒロイン浮舟の生きづらさ」『新潮』2023年9月号

大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』 第九回
 腹ランク最低のヒロイン浮舟の生きづらさ」
『新潮』2023年9月号
p.250-261
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CCPR8Y84
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/backnumber/20230807/

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「嫉妬と階級の『源氏物語』」
連載完結

大塚ひかり(1961.2.7- )
『嫉妬と階級の『源氏物語』
(新潮選書)』
新潮社 2023年10月25日発売
256ページ 1815円
https://www.amazon.co.jp/dp/4106039036
「不遇の才女・紫式部が洞察した「嫉妬の本質」とは?
上流貴族から祖父の代に零落し、夫も亡くし、
藤原道長の「お手つき」となり、
その娘の家庭教師に甘んじた紫式部。
「落ちぶれ感」を抱えた彼女が
「もうひとつの人生」を求めて書きはじめた物語には、
階級社会に渦巻く激しい嫉妬が描かれている。
人気古典エッセイストが、
源氏物語に秘められた紫式部のメッセージを読み解く。」


大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』 第九回
「腹ランク最低のヒロイン浮舟の生きづらさ」
『新潮』2023年9月号
p.250-261

「浮舟の感情やセリフは、
物語に登場してしばらくのあいだ、
ほとんど描かれない。それに対し、
母・中将の君の思いやことばは過剰なまでに語られている。

数にも入らぬ身の程への嘆き、
女房として人に仕える身であったばかりに
人の "数" にも入れてもらえず、
今も人に侮られているという悔しさ、
亡き八の宮への恨み。
そうした負の感情が繰り返し描かれるだけでなく、
八の宮の次女の中の君には、
その思いをことばにしてぶつけている。
「娘は故宮がむごく薄情にお見捨てになったせいで、
ますます人並に扱われず、人にもバカにされるのだ
と思っておりますが、こうしてお話させて頂いて、
お目にかかったおかげで、昔のつらさも慰められます」
[原文略](「東屋」巻)

彼女のことば遣いは丁寧なものの、トゲがある。
ミカドの愛息子[匂宮]の奥方[中の君]と、
受領の北の方[中将の君]の身分差を超えた、
ふてぶてしさがある。

「自分たちがこんなに惨めな思いをしているのは
八の宮の冷酷さのせいだ」という思いがあるので、
「八の宮の娘で、社会的に成功した中の君は、
異母妹である浮舟の世話をして当然」と考えている。
浮舟の気持ちは全くといっていいほど描かれていない。
母の饒舌と娘の沈黙……。
人間扱いされない浮舟が気にかけるのは……」
p.252-253

「中将の君
[八の宮召人~浮舟の母~受領・常陸介後妻]

弁の尼
[柏木の乳母の娘~八の宮女房]
を呼び寄せ、話をする…
浮舟が薫の妻になって京に迎えられたら、
誰がわざわざお前の所になぞ来るものか、
と…

浮舟が薫と結婚できるのは誰のおかげ?
とでも言いたげな弁の尼に、
あんたがいなくても中の君が世話してくれたさ。
浮舟の実の姉なのだから。

弁の尼は小さく笑って言う。
匂宮[中の君の夫]はよく女房に手を出すらしい。
あんたの娘[浮舟]も女房と間違えられたのさ。
女房並みってことかねぇ。

元召人の中将の君の、ふてぶてしさと俗っぽさ。
対する弁の尼のとげとげしさ。
元女房だけあって、
嫌味な会話をさせると迫力がある。
紫式部も宮廷でこのような女房たちの
丁々発止の会話を聞いていたのだろう。」
p.259-260

「弁の尼と中将の君が
ここまで激しくやり合うのも
二人が親戚同士だからだろう。
二人は共に八の宮家に仕えていた。
同じ立場だったのが、
年若い中将の君は八の宮の召人となり、
その娘が今、薫という大貴族の
妻の一人になろうとしている。
そのことに弁は複雑な感情を抱いたに違いない。
同じ親戚でも
八の宮の正妻だった北の方より、
女房仲間だった中将の君の
関係者が出世することが妬ましい。

『源氏物語』は冒頭で、
「おなじほど、それより下臈の更衣たちは、ましてやすからず」
と語っていた。
その「嫉妬の法則」が作用している。」
p.261

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朝日新聞社 2007年7月刊
192ページ

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丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「昭和が発見したもの」
『一千年目の源氏物語(シリーズ古典再生)』
伊井春樹編  思文閣出版 2008.6 
「むらさきの色こき時」
『樹液そして果実』集英社  2011.7

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『源氏物語の楽しみかた
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祥伝社 2020.12
『謹訳 源氏物語 私抄
 味わいつくす十三の視点』
祥伝社 2014.4
『謹訳 源氏物語 四』
祥伝社 2010.11
『謹訳 源氏物語 五』
祥伝社 2011.2
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「舟のかよひ路」
『梨のつぶて 文芸評論集』
晶文社 1966.10

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三田村雅子(1948.11.6- )
『源氏物語
 天皇になれなかった皇子のものがたり
(とんぼの本)』
新潮社 2008.9

https://note.com/fe1955/n/nf22b8c134b29
三田村雅子(1948.11.6- )
『記憶の中の源氏物語』
新潮社 2008.10


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