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大塚ひかり(1961.2.7- )『ヤバいBL日本史(祥伝社新書)』祥伝社 2023年5月刊 232ページ

大塚ひかり(1961.2.7- )
『ヤバいBL日本史(祥伝社新書)』
祥伝社 2023年5月刊 232ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/4396116799

「BLは日本史の表街道である
BL(ボーイズラブ)、すなわち男同士の恋愛や性愛が描かれた作品は、近年のエンタメ業界で存在感を高めている。
こうしたBL作品を理解するうえで欠かせないのが、「妄想力」を土台とする「腐の精神」だ。
そして、これは突然変異で生まれたものではなく、日本の歴史に脈々と受け継がれs風穴するてきた精神であると著者は言う。

本書は、『古事記』から『万葉集』『源氏物語』『雨月物語』といった古典文学や史料を題材に、「腐」を軸とした鮮やかな解釈で、新しい歴史観を提供するもの。

院政期に男色ネットワークが築かれた本当の理由や、男色の闇にあった差別と虐待の精神史など、これまで語られてこなかった日本史の本質を描き出す。

目次
第一章 BL抜きには語れない古代文学 女目線の性の世界
第二章 王朝文学はBL的性愛と疑似恋愛の宝庫
第三章 性でつながる中世の貴族と僧侶 女を排除した性と政
第四章 稚児愛から芸能人愛へ 室町・戦国時代の男色
第五章 「両性愛」と「ガチ男色」 江戸時代の男色世界」

福岡市総合図書館予約2名。

「「歌合」は妄想力が終結する「腐」の遊び

『万葉集』で花開いた恋愛仕立ての歌の伝統は、
いささかトーンダウンしながらも、
平安時代に受け継がれていきます。たとえば、
『小倉百人一首』に採用された
祐子内親王家紀伊
(ゆうしないしんのうけのきい
[生没年不詳])の歌は、
七十歳のころ、四十歳も年下の
藤原俊忠(ふじわらのとしただ 1073-1123)
を相手に詠まれた恋の贈答歌です。

「人しれぬ思ひありその浦風に波のよるこそ言はまほしけれ」
(人知れずあなたに恋をしています。荒磯の浦風で波が寄る、その波のように、夜になったらあなたに言い寄りたい)
と、俊忠が詠むと、

「音に聞く高師(たかし)の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ」
(噂に高い、高師の浜のあだ波じゃないけど、浮気男で知られたあなたの誘いには乗らないよ。あとでつらい目にあって涙で袖が濡れるといけないから)
と、紀伊が返歌する
("高師の浜"は『金葉和歌集』では"高師の浦")。

歌が詠まれた康和四年(1102)閏(うるう)五月当時、
俊忠は三十歳。
対する紀伊は生没年未詳なものの、この時、
七十歳ほどと言われています。

七十の婆が、三十そこそこの貴公子と、
ラブレターのやり取りをしているんですよ!
と言ってもリアルの恋歌ではなく堀川院の御時の
"艶書合(けそうぶみあわせ)"つまりは、
ラブレター合戦に出詠されたもの
(『金葉和歌集』巻第八・468-469)。

万葉集以来の恋愛仕立てのやり取りが
そこで展開されているわけですが、
たとえ架空のやり取りだとしても、
年の差四十歳のコンビを組ませる発想自体に、
平安人の凄さを感じます。
老人の性に対する寛容さと、
今の腐女子につながる妄想力がここにはある。

というか、そもそも「恋」とか「桜」といった
お題を設定して、目の前にない光景や状況を
歌に詠むこと自体、
妄想力を要する作業と言えるわけで、
日本の和歌はそれ自体、妄想に富んだ
「腐」の要素を前提としている。
「歌合(うたあわせ)」はそんな妄想力が
集結する「腐」的な遊びと言えるわけです。」
p.63-64
「第二章 6 妄想力が支配する王朝の和歌」

読書メーター
大塚ひかりの本棚(登録冊数14冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11091320

https://note.com/fe1955/n/n8ef90401b665
大塚ひかり(1961.2.7- )
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新連載
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 第二回 はじめに嫉妬による死があった」
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大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
 第三回 紫式部の隠された欲望」
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「嫉妬と階級の『源氏物語』
第四回 敗者復活物語としての『源氏物語』」
『新潮』2023年4月号


https://note.com/fe1955/n/n942cb810e109
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「嫉妬と階級の『源氏物語』
第五回 意図的に描かれる逆転劇」
『新潮』2023年5月号


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大塚ひかり(1961 .2.7-)
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第六回 身分に応じた愛され方があるという発想」
『新潮』2023年6月号

https://note.com/fe1955/n/nf22b8c134b29
三田村雅子(1948.11.6- )
『源氏物語 天皇になれなかった皇子のものがたり
(とんぼの本)』
新潮社 2008.9
『記憶の中の源氏物語』
新潮社 2008.10


https://note.com/fe1955/n/n2b8658079955
林望(1949.4.20- )
『源氏物語の楽しみかた(祥伝社新書)』
祥伝社 2020.12
『謹訳 源氏物語 私抄 味わいつくす十三の視点』
祥伝社 2014.4
『謹訳 源氏物語 四』
祥伝社 2010.11
『謹訳 源氏物語 五』
祥伝社 2011.2
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「舟のかよひ路」
『梨のつぶて 文芸評論集』
晶文社 1966.10

https://note.com/fe1955/n/na3ae02ec7a01
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「昭和が発見したもの」
『一千年目の源氏物語(シリーズ古典再生)』
伊井春樹編  思文閣出版 2008.6
「むらさきの色こき時」
『樹液そして果実』
集英社  2011.7

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