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不味い漬物選手権 ~発酵と腐敗の狭間~
一番不味い漬物とはなんだろうか。
一年前から冷蔵庫で保存できるタイプのぬか漬けを始めていたヅケラーの私はふとそんなことを考えた。
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■ぬか漬けとは
その前にそもそもぬか漬けとはなんだろうか。
ぬかに生野菜を漬けて置き、発酵させるそのプロセスには以下2つの要素があるようである。
①浸透圧
ぬか床と野菜の塩分濃度差により野菜から水が出、塩分と米ぬかの栄養が野菜に染み込む
②発酵
ぬか床の乳酸菌・酵母菌の発酵に伴い特有の酸味や甘味を生み出す
塩漬けや浅漬けとの違いは、ぬか床の乳酸菌や酵母菌で発酵されることによって独特の酸味や甘味、香りがつくことです。乳酸菌は塩分が強いところでも、酸素の少ないところでも生息できるため、ある研究によると、ぬか床1g中に1億個の乳酸菌が棲んでいるとも言われています。つまり、ぬか漬けは栄養豊富な発酵食品なのです。
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なお、ここでの発酵はあくまでも人間にとって有益であるプロセスを言い、不利益であるプロセスは腐敗と表現する。
「腐敗」とは・・・
人間にとって有害な微生物である大腸菌や、ブドウ球菌が繁殖し腸内環境を悪くします。
腸内環境が悪くなると下痢や嘔吐など食中毒などの病気を引き起こします。
「発酵」とは・・・
乳酸菌や酵母菌と呼ばれる善玉菌が腸内環境を良い方向へ導いてくれます。
腸内環境が整うと便秘・下痢の改善や大腸ガンの予防、自律神経を整えたり、免疫力の向上など、近年では腸内環境は人が生きるための大きな要とされ大注目を浴びています。
「発酵」とは私たち人間の受け取り方によって大きく異なりますがそれは人間の受け取り方だけではなく、文化によっても異なります。
例えば日本人は納豆を好んで食しますがネイティブにとっては理解できない食べ物であるし、世界一臭い発酵食品として有名なスウェーデンの塩漬けニシンの缶詰は日本人には理解できない発酵食品です。
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ちなみに、発酵ぬか1g中には1億もの乳酸菌がいるらしい。
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■ぬか漬けの栄養
どうやら野菜をぬか漬けにすると、ビタミンやその他の栄養素含有量が増えるようである。
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ぬか床の「ぬか」にはビタミンB群が多く含まれています。
野菜をぬか漬にすると、「ぬか」の栄養分が吸収され、ビタミン含有量が増えます。
・ビタミンE:脂質酸化防止作用など
・γ-オリザノール:抗酸化作用など
・フェルラ酸:抗酸化作用、紫外線吸収など
・フィチン酸:抗ガン作用、抗酸化作用、抗脂肪作用など
・イノシトール:抗脂肪肝、動脈硬化予防、カルシウム吸収促進など
・乳酸菌:プロバイオティクス効果、腸内環境改善
■ぬか漬けの菌の研究
東海漬物より発表された内容に以下のようなものがある。
糠漬菌叢は生野菜の菌叢に関わらず、糠床の菌叢に依存することが確認されました。また生野菜で検出される菌種は糠床では優勢に検出されませんでした。そのため糠床菌叢は、作製に用いた糠に付着する菌による影響を強く受けると推測されました。さらに、糠漬で検出される菌種は、ほとんどが乳酸菌種であり、他菌種は糠漬から検出されませんでした。そのため、糠漬で検出される菌種は野菜表面への接着性に左右されることが推測されました。
おそらくだが、生野菜に付着している菌の影響は小さくぬか漬け自体が保有している菌がぬか漬けの完成品への影響を大きく及ぼすのだろう。との発表だと理解する事が出来る。
■一番不味いぬか漬けは?
さて、ここで普段茄子や大根・胡瓜等のぬか漬けをしている私だが、「発酵」が文化によって変わるのであれば、「漬けた時一番不味いと感じる事が出来る食材は何だろう」と思った。また、食材による菌の影響が小さくぬか床の菌の影響が大きいのであれば、個人での検証も可能だろう。
エントリーNo.1:トマト
トマトは表面に厚い皮があるが、その多くが水分である為浸透圧による影響が大きいと想定し、プチトマト及び通常サイズのトマトを約3週間ほど漬ける事とした。
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エントリーNo.2:玉ねぎ
日本人なら日常的に利用する野菜であり、比較的保存期間も長い。またぬか漬けの味との親和性が高いと想定しこちらも3週間程度漬ける事とした。
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エントリーNo.3:アボカド
日本食ではあまり利用されない野菜であり、「文化の違い」の比較対象となると考え2週間程度漬ける事とした。
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エントリーNo.4:干ししいたけ
ここではほとんど水分を保有しておらず、浸透圧の影響を受けづらいであろと思われる食品を選定。一方で日本食にも良く用いられる事からぬか漬けの味との親和性は高いと思われる。こちらも3週間漬ける事とした。
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エントリーNo.5:バナナ
最早野菜ですらない。そんなバナナ。3週間。
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■結果
エントリーNo.1:トマト
外観:多少のシワシワ感。
味・触感:皮の部分が微妙に柔らかくなった酸っぱいトマト。
エントリーNo.2:玉ねぎ
外観:経年劣化したプラスチックの様な黄ばみが見られた。
味・触感:一番外層は多少の酸味が感じられたが、一枚剥がすとただの生玉ねぎ。
エントリーNo.3:アボカド
外観:少しドロッとした緑色の個体。
味・触感:とろみのあるぬか漬けの味。アボカド本来の味も感じられる。
エントリーNo.4:干ししいたけ
外観:変化なし。
味・触感:ただの干ししいたけ。
エントリーNo.5:バナナ
外観:ドロッとした黄色の何か。ぬかとの分離が難しい。
味・触感:プリンの様な触感。バナナの甘味とぬか漬けの酸味が絡み合い絶妙なハーモニー。
■結論
水分が少ない食材や外皮が厚い食材はそもそもぬか漬けには適さない(漬けられたとは言い難い)。
又、多少なりとも食材の味と親和性があれば許容する事は可能な事が分かった。
しかしながら、本来は「果物である」認識を変える事が出来ず、その甘さに対してドロドロの触感・酸味があるバナナは許容する事が出来ない不味さであった。オカリンもびっくりである。
※漬けた3本のバナナはカレーに入れて美味しく頂きました。
どうやらここまでの結論は私の今後の人生に役に全く立たない「腐敗」かもしれない。
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