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ワカメやコンブは海草ではありません!

 多くの外国人観光客が日本をエンジョイしています。YouTubeを見ていると、彼らはお寿司とラーメンが大好きなようです。喜んで食べてもらえるのは見ていても嬉しいものですが、欧米系の人達は、ワカメやコンブ、ノリをあまり食べないほうがいいので、そこだけが心配です。

アマモを食べるジュゴン(鳥羽水族館)

海草かいそうは植物です

 海草(seagrass)は文字通り「海」に生息している「草」です。草ですから根があり、葉と茎の区別がつきます。もちろん陸上の草のように光合成をし、花を咲かせて種子を作ります。なぜなら植物だからです。その種類は多くなく、世界中で60種ほどしかいません。最も有名な海草はジュゴンが好んで食べるアマモです。ジュゴンも遠い昔に陸上から海中に進出した哺乳類で、海草と同じ境遇だと言えます。だから陸上にいた時と同じ植物を食べているのでしょう。ちなみに、人が食用にしている海草はありません。


海藻かいそう藻類そうるいです

 海藻(seaweed)は文字通り「海」の「藻」です。それでは「藻」とはなんなのか? 実はこれが難問です。藻の定義は未だあいまいで、専門家でも人によって違ったりします。そこで、多くの専門家が共通して認めている部分だけで藻を表すと次のようになります。「酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称である」… なんだかよく分かりませんね。そこでものすごーく簡単に言ってみると「一般的に植物と思われているもの以外で光合成するもの」です。よけいに分からないですか? 

 約46億年前、誕生したばかりの地球には酸素がありませんでした。そこに大量の酸素を送り込んだのは、地球誕生から約16億年後に登場した藍藻らんそうというバクテリアに分類される藻類です。光合成を行うバクテリアは何種類かいるのですが、光合成で酸素を発生させるバクテリアは藍藻だけでした。この小さな藻類のおかげで地球の大気は酸素を含むようになり、生命は飛躍的に進化しました。現在でも藻類のほとんどは水中に生息していますが、海から陸に上がった藻類もいます。

お前はどこのワカメじゃ?

 

食べられる海藻は100種類

 海藻は植物ではないので葉・茎・根の区別がありません。例えば、植物でいう「根」に相当する部分は岩場にくっつくためだけにあり、そこから栄養を得ることはありません。また、植物は主に種子によって繁殖しますが、海藻は海の中を泳ぐ胞子で繁殖します。
 
 日本近海には1500種類以上もの海藻が生息していて、食用種だけでもおよそ100種あります。私たちがよく食べる海藻は、アマノリ類、トサカノリ(鶏冠菜)、フノリ(布海苔)などの紅藻類、コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズクなどの褐藻類、アオサやアオノリ、海ブドウなどの緑藻類の3種類に分類されます。

コンブ

浅草海苔

    日本人はいろんな種類の海藻を食べますが、その中でも特に好んで食べているのがコンブ、ワカメと寿司に使うノリです。 

    ノリは、古くは奈良時代初期に編纂された常陸国風土記や出雲国風土記に登場しており、奈良時代にはすでにポピュラーな食材だったことが分かります。ただし、その時代のノリは天然物で、いくつかの種類の海藻の総称でした。 江戸時代になると江戸の近海で採れるアマノリが有名になり「アサクサノリ」と呼ばれるようになります。

    アサクサノリは第五代将軍徳川綱吉の時代に養殖が始まり名産品となります。その人気は明治、大正、昭和と続きましたが、1970年ごろから東京湾の水質が悪化したことと、アサクサノリよりも手間がかからないスサビノリの養殖が始まったことでアサクサノリの養殖は衰退しました。現在、「アサクサノリ」という商品名の海苔のほとんどはスサビノリになっています。


甲状腺

日本産豆乳事件

 海藻は水溶性食物繊維やマグネシウム、カルシウム、鉄などのミネラルを豊富に含みます。また、コンブやヒジキにはヨウ素もたくさん含まれています。ヨウ素は甲状腺ホルモン(新陳代謝を促し、子どもの成長を促進する)の主原料なので、体になくてはならないミネラルですが、取りすぎても人体によくありません。

 2009年にオーストラリアで、日本産の豆乳を飲んだ人達が甲状腺機能障害を発生する事件がありました。問題の豆乳は原料にコンブエキスを含む日本製で、オーストラリアの基準値の100倍ものヨウ素を含んでいました。

    製造メーカーによると、日本では古くから豆乳にコンブエキスを使用しており、今まで問題になったことはなかったそうです。それなのにオーストラリアで健康被害が出たのは、オーストラリアの人達は海藻を食べないのでヨウ素の過剰摂取に耐性がないからでした。

 海藻を食べないのはオーストラリアだけではなく、東アジアを除く世界中のほとんどの国も同じです。なぜなら、大昔から海藻を消化する酵素を体内に持っていないので、食べ過ぎると体調が悪くなることを経験的に知っていたからだと思われます。

ヨウ素過剰摂取民族

 私達は意識していませんが、日本人が食べる海藻の量は桁違いなのです。その結果、我々は世界でも稀なヨウ素過剰摂取耐性民族になりました。その証拠に『日本人の食事摂取基準』(厚生労働省、2010年版)によると、ヨウ素の耐容上限量は日本では約2.2 ㎎/日ですが、アメリカでは約1.1 ㎎/日です。※そんな日本人でもヨウ素の過剰摂取は体によくありません。ヨウ素の取りすぎにはご注意下さい。

海中のコンブから出汁が出ているのか?

 話は変わりますが、筆者は前職時代に、小学校で食品にかんする授業を何度かしました。その時のエピソードです。
 
 「コンブが海の中にいる時、出汁は出ているのですか?」という質問が児童からありました。思わず笑ってしまいましたが、質問者はいたって真剣でした。結論から言ってしまえば、海中で出汁はでていません。

 簡単に言えば、コンブを乾燥させることで細胞膜が壊れ、それを煮ると出汁がでるのです。と答えました。
それを聞いた質問者の児童は嬉しそうに言いました。
「それじゃあ、ミイラも煮れば出汁が出るんですね!」



#創作大賞2024 #エッセイ部門

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