「ブレイクスルー・ハウンド」106

 光が父親の表情をうかがうと、彼はかすかに顔をうつむかせ思案げな顔をしていた。
「もし、光さん、張さんが行かれるのなら、私も作戦に参加します」
 そこに今まで沈黙を保っていた佐和が声を割り込ませた。
 意外な発言にみなの視線があつまる。
「私は攘夷機関白虎の連中に仲間たちを多く殺されました。あいつらから助けられる命があるのなら、私は命をかけられます」
 佐和の発言につづき、
「私も作戦に参加します」
 と杏が真剣な顔で言い放った。
「お世話になってるみなさんに恩返しをしたいんです」
「命を賭ける必要なんて」
 杏の言葉に、光は否定のせりふを吐く。が、
「わたしたちそうしたいの、お兄ちゃん」
 姉の陰に隠れることなく、純が言い放った、
 光は声も出せずにかぶりをふる。命をかける覚悟を持った人間を翻意させる言葉を、彼は持っていない。
 姉妹の発言で大勢は決した。ゴードンがしかたないと肩をすくめ、「後悔することになっても知らないぞ。もっとも、生きて帰ればの話だが」と達人が言葉をかさねた。

 相手を探す必要はなかった。金を握らされたホームレスが、警視庁の庁舎の前の警官に「頼まれた」といって手紙を渡し、その内容が最終的に光たちのもとにとどけられた。
 指定されたのは都内某所の暴力団ビルだった。だが、一般的に途中の階に停まらない階があるのがこういった建物の常だが、この建物のエレベーターは地下へと降りていった。モヒカンに革製品の衣装、それに鼻ピアスとドレスコードを間違えているような少年に案内されてたどりついたのは、
「サバゲーのフィールド」
 だった。ただ本物と違う、というより相違するのは遮蔽物が完全コンクリートの厚い壁など現実に殺し合いが可能な仕様になっていることだった。

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