「ブレイクスルー・ハウンド」107

「たしかに“サバイバルゲーム”のフィールドだ。けれども、飛び交うのは実弾、それがここの決まりだ。地下格闘技も行くとこまで行ってな、多重債務者や人を殺したいイカれた奴らを集めて殺し合いで賭けをやってるのさ」
 オー、ジーザス、と張が十字を切った。
「ま、あり得ないだろうが、おまえらが生き延びたら殺し合いになるだろう、俺の名前を教えてやる五十嵐大輔(いがらしだいすけ)だ。勇大(ゆうだい)っていう双子の弟もいるから、そのときはよろしくな」
 今にも、自分自身が襲いかかりそうな表情で五十嵐が名を明かした。
「さ、ご入場といこうか」
 うながされ、フィールドにつながる階段を下りていく。光たちは精悍な表情を浮かべていた。
 すると、天井の証明がついた。刹那、光は声を張り上げることになった。
「知行」彼が天井からロープで吊るされていたのだ。しかし意識がないらしく反応はない。
「おい、まさか」
 光が憤怒のまなざしを階段の上の五十嵐に向けるが、
「生きてる生きてる、ゲームってのはルールを守ってこそ面白いってのがオレらの隊長の言葉だ」
 とぞんざいに応じる。
 腸が煮えくり返るが今はそれを信じるしかなかった。
 改めて仲間たちと階段をおり、土が敷き詰められたフィールドに降り立つ。
 同様に、対面の階段からも同人数、七人がフォールドに移動してきた。ただ、最後尾に三つ、次に二つ、中央に三つ、その向こうに二つ、奥に三つの横幅二メートル、縦三メートルほどの壁がそそり立つためにああまり相手の姿は見えない。
「そいつらの名前は無尽蔵の憎悪戦闘員(カウントレスヘイト・オペレーター)、無尽蔵の憎悪(カウントレスヘイト)って呼ばれる報われない立場ゆえに自暴自棄になって暴れてるやつらにオレたちが戦闘技術を叩き込んだ連中だ。そんなやつらがこの国に、今や五万といるんだぜ。訓練させたやつに、訓練をさせてねずみ算式に増やしたからな。劣化コピーは起こってるだろうが、ただの素人よりゃあ手強いのは自明の理って奴だ」
 五十嵐が得意げに階段の最上段から口上をのべる。
 彼以外に姿を現わさないのは、カメラでこちらのようすを見ているのだろうか。高見の見物だとしたら絶対に後悔させてやる――。
 だが、その前に――無尽蔵の憎悪戦闘員(カウントレスヘイト・オペレーター)とやらを殲滅しなければならない。
「時間制限はなし、どちらかが全滅するまで殺し合いな」
 と言い残し、五十嵐も部屋から姿を消した。

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