「ブレイクスルー・ハウンド」105

 どれだけ友人を思おうが、人間の体力には限界が存在した。バイクに振り切られ体力の尽きた光はその場に倒れて嘔吐する。

 その後、光は特殊武装係の車輛に回収され、GSSの他の面々と合流した。
 五体満足で帰還を果たした。
 だが、すべての指の爪を剥がされ、ニッパーで関節ごとに切り落されることさえ比べものにならない苦痛が身の内で体の隅々にまで行き渡った。

   3

 緊迫した空気が室内にただよう。
「認める訳にはいかないな」
 父の声は冷徹だった。特殊武装係のセーフティーハウスのひとつでの一幕だ。
 仮眠から目を覚まし仲間内での話し合いで、光が口を開きかけたとたん達人はみじんの躊躇もなく言い放った。
「認めるか、どうかなんて関係ない」
 光は語気も荒く父を睨みつける。
 瞬間、おどろくべきことが起きた。光のレッグホルスターからPx4ストームが消えていたのだ。
 彼の手のひらに収まり、死への入り口となりうる銃口が達人をとらえていた。
 当人、父、ともに目を見開く。いや、張、スミタ、ゴードン、杏と純も瞠目して、この凶暴な奇跡を凝視する。そこにさら公安特殊武装係の佐和も加わっていた。
「私も、見殺しにするのには賛成できない」「でも、確実に罠でしょ。死にに行ったところで、キリストにはなれないぜ、張」
 今度は、張が神妙な顔で意見をのべた。それに言葉面こそ茶化しているものの、気づかわしげな声でスミタがこたえる。

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