寄せ鍋

テクストに混乱が見られる。 大意を汲んで訳す。

寄せ鍋

テクストに混乱が見られる。 大意を汲んで訳す。

最近の記事

キュクロプス

部屋に入って、最初に目が合うのが、キュクロプス。 あどけない一つ目の巨人が、いつも私を見つめている。ルドンのキュクロプス。ぼんやりした風景にのっそり現れた異形が、優しく私を出迎える。 ある日、部屋に入ったら、キュクロプスの絵が落っこちていて、額縁が破損して、絵が飛び出ていた。 あの人の家へめがけて、すぐに糸電話を投げた。 もしもし?大丈夫?何も起きていない?生きているのね?怪我もしていない?今どこにいるの?昨日は誰といた?お昼は何を食べた?恋はしてる?相手は私? キュク

    • 乾かすよデコポン

      ドライフルーツを作ろうとした。換気扇をつけ忘れたので、家中がデコポンになる。 明日、じゃなくて、あたし、そういえば右利きだった。と言って左手から箸を持ち替えたとき、AくんもBちゃんもCも静まり返って、Dは鼻を鳴らした。Eは「両利きではないの?」と言った。FはEに対して鼻を鳴らした。 問題。A~F+あたしの中で、人狼は誰でしょう? 目が合わない。大勢で話すと、いつも目が合わない。話している人は、いつも他の人と目を合わせていて、私が話している時でも、いつも他の人の反応を見てい

      • ……のためのぶよぶよとした前奏曲

        全身麻酔の夢から覚めると、喉が痛かった。 膝よりも喉が、断然痛い。痰が絡まってしゃがれ声になっている。 目覚めたのはおそらく午後一時半くらいで、恐ろしく眩しい窓だったので、夏が来たと思った。鼻には呼吸器が差し込まれ、手の甲には点滴の針、背中には硬膜外麻酔の釣り糸が入りっぱなし、下半身には尿道カテーテル。 管人間である。 右膝の前十字靭帯を全層断裂した。 靭帯は骨と違って、切れたら切れっぱなし。だからくっつけるには手術しかない。手術自体は3時間程度ですぐに終わったようで、麻

        • どこどこどんでんがえし❗️

          こちら、前菜の「あくせく」です。 こちら、スープの「ついつい」です。 こちら、魚料理の「びしばし」です。 キャサリンは「びしばし」を八つ裂きにしようとしたが、ジョセフィーヌにたしなめられて、そのまま齧り付くことにした。 「キャサリン、あなたに悪いお知らせがあるの」 「なあにジョセフィーヌ、私は最寄りのまいばすけっとが無くなると言われたって顔色を変えないわよ」 「キャサリン、あなたの人生にはどうやら、どんでんがえしが必要みたいよ」 「まあジョセフィーヌ、そんなことわかりきっ

        キュクロプス

          傘はささない

          傘をささない癖がついて暫く経つ。雨に濡れる自分が好きだから傘をささない。5年前の私へ。あなたは、どちらかというと痛々しい方へ成長します。 濡れ鼠は窮しても猫を噛まずに腹を見せる。 諦念の仕草が年々上手くなっていくのだから。ワイングラスを回したり、ビリヤードのバックハンドと同じようなもの。首にぶら下がっているフェイクダイヤが眩しい、とっとと怪盗に奪われればいいのに。 爆発する日を心待ちにしているのだから、黙っているし、皿も洗う。私は洗濯物を干し、洗濯物を畳み、洗濯物をしまう

          傘はささない

          蜘蛛と驢馬

          【1】 私にはフレデリックがいる。 ノッティンガムでキリンの惨殺死体を見た日から、フレデリックは窓にいた。 初めてこの部屋に入った時、私は宇宙船に乗り込んだような息苦しさで思わず深呼吸した。 スーツケースを解いて、服と味噌汁と羊羹を出して、タオルをあの棚に、ドライヤーをこの引き出しに、ドーハの空港で買ったアラビアンなティーカップは窓辺に、既読無視したままのグループラインはカーテンレールに、Meal DealでついてきたいらないSnackのNik Naksはベッドの下に、据

          蜘蛛と驢馬

          あの娘にアタック

          Billy JoelのTell her about itを聴きながら、自分の過去の日記を遡るのが、SHEの最近の趣味だ。 暇をコーヒーフィルターにふりかけて熱湯を流し込んで、しみ出たものをウィルキンソンのトニックウォーターで割っても足りず、ステアではなくシェイクで適当にウォッカを混ぜて、ヒマジン・マティーニの完成……というholy shitの典型例みたいな水たまりを啜りながら。 ♪Listen boy Don't want to see you let a good thi

          あの娘にアタック

          煌めけ!ファム・ファタール☆プリキュア

          「足のお加減はいかがですか?」 ドクターが訊ねた。 「今ならロコモアのCMにも出られそう、ってところね。フフフ……」 クランケは伊藤潤二の富江に似せて笑った。数いるファム・ファタールの中でも、富江は彼女の好みだ。けれど、彼女が誰かのファム・ファタールになれる日など、来るのだろうか? 「何をして過ごしているんですかね」 「お香を炊いているわ。祖父が送ってくれた、『日光の香りのお香』よ。ねえ、『日光の香り』っておひさまの香りってこと?それとも東照宮の匂い?前者だと思って火

          煌めけ!ファム・ファタール☆プリキュア

          真っ二つになったとんすいへ

          居酒屋の厨房は濡れている。だからいつでもSingin' In the Rainである。 愛、真。義、淫、戯れ。 愛、真。義、淫、戯れ。 単純作業は走馬灯を呼ぶ。という故事成語を習ったのは小学校5年生の時だった。 秦の始皇帝の時代、家来の皿洗い担当がその仕事中に、大きな牙を5本持って、金の蹄を鳴らしながら、長江を行く船よりも速く駆けていく馬に跨って、小麦の草原を往来する幻影を見た。そこで、君はこう言いなさったのだ。「単調なる黙々たる作業、これ、走馬灯を呼ぶなり」。 私も馬に

          真っ二つになったとんすいへ

          けちゃっぷ先輩

          「人の言う正義とは、バターのことだ」 けちゃっぷ先輩が言うことはいつも正しい。 バター。香り高き油脂。オムライスも、ナポリタンも、バターを使うだけでお店の味。ということは、この世の有象無象もバターで炒めてあげれば、お店の味になるかもしれませんね。 「その通り。だから僕は、この世をバターで炒めてあげる、救世主にならないといけないのさ。世界を丸ごと、お店の味にしてやる」 けちゃっぷ先輩がそう言うなら、そうなんだろう。そんな重役を担ってしまって、けちゃっぷ先輩は可哀想だ。 け

          けちゃっぷ先輩

          コードに引っかかってコケる

          頭の花はとうに枯れていた。 それでも顔を出さなきゃいけない会というものが、この世にはコンビニの数だけ存在する。 しなしな歩きながら、しなしな人の輪に入る。 誰そ。 会わずしてその歳月伍年ナリ。 UWA! Meccha Kawaiku Nattanee! おっと、かつてそこそこに仲良くしていたあの子、舌に金属を嵌め込んでいるぢゃないか。随分頼もしくなったものだ。 へい旦那!ジャン負けでジン一気でゴンス! くっくっく、主も悪よのう、 さいしょはぐっじゃんけんぽいっ 頭の花

          コードに引っかかってコケる

          かわいそうな年末年始

          12月31日、朝起きると、一週間延滞していたサンタクロースからのプレゼントが枕元にあった。 袋を開けると中身はFreddie MercuryがThe Great PretenderのMVで着ている白いスーツで、私は歓喜に咽びながらスーツを身につけ、その足で近所の八王子神社へ行った。 除夜の鐘が置いてあったので、蹴っ飛ばす。 神主に怒られた。 「今鳴らすな。昼間に鳴らしても意味ないんだ」 私は怒られたついでに、来年の運気まで呪われた。 「来年のどこかで、この世の全ての受動態が

          かわいそうな年末年始

          山田本気うどんにて

          ピアノのレッスンが二子玉川であるので、今日は渋谷でぱっと食べてさっと移動する日だ。 カレーうどんが食べたかったので山田本気うどんに行く。カウンターの隅の方に座ると、私と同タイミングで入店したスタイルの良い女性が私の隣に座った。 女性はブラックコーデで、バケハを目深にかぶり黒いマスクをしている。足が長い。 私が牛すじカレーうどんを注文したあとすぐに、彼女も明太クリームうどんを頼んだ。ハワイの火山が白くなったみたいな、一番有名なあれだ。 彼女は注文する時、日本語がわからなくて

          山田本気うどんにて

          11/29(火) 夢日記

          私は本郷キャンパスの第二食堂の上階にある、美術サークルの部室にいた。 赤い液体をバケツに入れ、それが酸化して色褪せていくのを悦びながら、液体を染み込ませた刷毛をキャンバスにぶつけた。 作風は前衛的である。この世は偶然に満ち溢れていて、それを全て芸術にしようとするのは絶対に不可能だが、私は敢えてやろうとしていた。若いのだ。 「いい絵だね」 顧問らしき男に声をかけられた。顧問とはいっても年齢は近く、私は大切な友人のように思っていた。顔は誰のものだったか、覚えていない。 「いい絵

          11/29(火) 夢日記

          11/8(火)夢日記 〜紫色のポロシャツのヤクザに追いかけられる〜

          車の中で、母からクッキーを渡された。 チョコクリームをサンドしているクッキーだ。 「あそこのヤクザさんは、チョコクリームだめだから。チョコクリームを取り除いて、ここにあるケーキの生クリームを代わりに入れて、もう一回サンドしておいて。それをお出しするから」 母は運転しながら、流れるように私に説明した。 言っていることがよくわからなかったが、たしかに生クリームがふんだんに使われたドーム型のケーキが隣の座席にある。これの生クリームを挟めということか、と思い、言われた通りに作業し

          11/8(火)夢日記 〜紫色のポロシャツのヤクザに追いかけられる〜

          山手線のポルターガイスト

          昨日は夜の3:30まで先輩と電話して、それからお風呂に入ったので寝たのが4:30くらいだった。 8:30に大声を出しながら起床したら喉がガラガラになり、ハツカ飴と朝食を同時並行で食べる。 顔面に「一方通行」や「止まれ」の標識を立てて、180度のアイロンで前髪をアラヨットすれば、「わたくし」の出来上がり。本日のわたくし、特に何の気合も入っていないのに、一方通行の矢印がちょっと長いわね。 昨日おでんだったので、茶飯が残っている。これでおにぎりを作って持って行った。具は、一つ

          山手線のポルターガイスト