11/29(火) 夢日記

私は本郷キャンパスの第二食堂の上階にある、美術サークルの部室にいた。
赤い液体をバケツに入れ、それが酸化して色褪せていくのを悦びながら、液体を染み込ませた刷毛をキャンバスにぶつけた。
作風は前衛的である。この世は偶然に満ち溢れていて、それを全て芸術にしようとするのは絶対に不可能だが、私は敢えてやろうとしていた。若いのだ。

「いい絵だね」
顧問らしき男に声をかけられた。顧問とはいっても年齢は近く、私は大切な友人のように思っていた。顔は誰のものだったか、覚えていない。
「いい絵なんだけど、道徳的に間違っている」
私は落胆するように呟き、赤い液体で満ちたバケツを見た。
顧問は優しく私を見た。
「早く、人間の血を使わなくても、いい絵が描けるようになるといいね」

私は家の洗面台に立っていた。絵を描いた後の、血で汚れた手を洗う。血は指紋まで染み込み、爪の隙間に入り込み、力一杯洗っても完全には取れなかった。
「そんなもんじゃない?」
姉が洗面所の戸口に立っていた。何に対してかわからないが、私に諦めを促してきた。
「結局、呪い合うことだと思うんだよね」
姉はそう言いながら好きなYouTuberのゲーム実況を見始めた。

私は中学校のグラウンドにいた。中学二年生の時同じクラスだった男が、あの頃から成長しない姿でリフティングをしている。彼は、虚言癖のせいでみんなから嫌われていた。しばらくサッカーボールを上に突き上げてから、思い出したように私のもとまで走ってきて、息を切らしながら話しかけてきた。
「俺さあ、お前の描くもの好きだよ」
「嘘つきの言葉は信じない」
彼は一気に悲しい顔になった。紛れもなく、私が悲しませていた。取り繕うように、言葉を続ける。
「私の絵が好きなんじゃない。私が、人の血で絵を描いている事実が好きなだけ。みんなそう」

気づくと、青山通りの道路の真ん中で、倒れていた。全裸だった。
不思議と羞恥は感じなかったが、何も身につけていないことに落ち着かず、落ちていたマッキーペンを掴んで、腹に字を書いた。

『いつもお世話になっております。お陰様で私の自由は健在です。けれど、早く生活を侵害されたい気もしています。』

それだけ書いて私は歩き出した。
人の目は少しも私に刺さらず、11月の冷たい空気すら私を無視しているようだった。
私の不道徳も、恥も、罪も、あるいは倫理も、美学も、正義も、交差点の人の波や飛躍する論理の風圧にさらわれて、全てばらばらにされていくんだろう。
結構だこと。それでいい。

今何時だろう、と思いながら、とりあえず渋谷駅へ向かった。

そこで目が覚めた。

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